探求―エネルギーの世紀(上・下) ダニエル・ヤーギン著 「選択」をめぐる成功と失敗の歴史

2012/5/21付
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ヤーギンが「選択(the Choice)」という本を書いているという噂を聞いたことがあった。結局これが「探求(the Quest)」だったのだろう。彼はこの本で石油や天然ガスのみならず電力、原子力、省エネ、再生可能エネルギー、電気自動車そして地球温暖化問題に至るまでエネルギーに関わる人間の営みを描き出した。

そこには世界中のエネルギー「選択」の成功失敗談が登場する。パイプライン敷設の地政学的選択、トウ小平の主導した体制選択と中国の需要急成長、チャベスによる資源ナショナリズム選択、石油が金融投資対象として選択された結果の価格の乱高下、カリフォルニア州での電力規制の失敗による停電、内燃機関選択の成功とモータリゼーションのコスト、ブラジルのバイオ燃料選択の成功、風力発電はなぜデンマークで成功したか、アインシュタインと光電池、潜水艦と原子力の平和利用……。

歴史的事件と登場人物たちの証言は生き生きと人間の創造力と試行錯誤を示してくれる。結局のところエネルギーに係る地政学的リスク、技術選択のリスク、市場のリスクなど不確実性増大に対して人々はエネルギー安全保障を「探求」し続けてきた。チャーチルは第1次世界大戦後の英国海軍近代化を石炭から石油への燃料選択の転換に求めつつこう言った。「石油の安全と確実性は多様さにのみ存在する」。ベストな供給源を一つ「選択」すればよいのではなく、非在来型石油や天然ガス、原子力、自然エネルギー、省エネと多様なオプションを地球環境持続可能性という制約下で世界の友人たちと共に「探求」することが21世紀のエネルギー安全保障である。

今、日本でエネルギー政策の見直しが進んでいる。関心はフクシマ後の原発の安全性と原子力の利用か廃止かの倫理的「選択」に集中し、長期にわたり世界で何が探求されて来たか、一定のリスクの下で何が探求されつつあるのかが顧みられていない。著者は未来の偉大なるエネルギー革命の鍵は人間の創造力と「探求」にあるという。故天谷直弘の言葉が今も新しい。「我々は地面の中の資源でなく頭の中の資源を使う」

(日本エネルギー経済研究所特別顧問 田中伸男)

[日本経済新聞朝刊2012年5月20日付]

探求――エネルギーの世紀(上)

著者:ダニエル・ヤーギン.
出版:日本経済新聞出版社
価格:2,415円(税込み)

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