2018年11月14日(水)

キッシンジャー回想録 中国(上・下) ヘンリー・A・キッシンジャー著 歴代の指導者との折衝を振り返る

2012/5/7付
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アメリカの著名な政治学者であり、ニクソン、フォード政権期に大統領補佐官や国務長官を歴任したハーバード大教授による中国論である。

(塚越敏彦ほか訳、岩波書店・各2800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(塚越敏彦ほか訳、岩波書店・各2800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

1970年代初頭に米中接近を演じたキッシンジャーは、両国の関係を通史的に描きつつ、毛沢東、周恩来、トウ小平らとの折衝を振り返る。

中華人民共和国成立後の毛沢東は、レーニンよりも孫子に外交戦略を多く負っており、「超大国が毛沢東の戦略的動機を理解するうえで最も難しかったのは、まさにこうした最も伝統的な側面だった」。毛は「非常な現実主義者」でもあり、世界革命に及ぼす中国の影響を主にイデオロギー的なものと位置づけ、世界革命よりも戦争の防止を重視したことが米中接近につながったという。

その米中接近は70年12月、パキスタン経由でキッシンジャーに届けられた周恩来の返書から始まった。「およそ六〇年間にわたる公人としての生活の中で、私は周恩来よりも人の心をつかんで離さない人物に会ったことはない」。訪中したキッシンジャーに対して毛沢東は、日本をソ連側に追いやらないように求めた。

その後もトウ小平、華国鋒、江沢民、李鵬など、中国指導者との対話は続く。なかでも改革開放を進めたトウ小平の印象は鮮明であり、「彼は信念を曲げず、世の中の激動に直面して平衡感覚を失うこともなく、いつか、この国を変革するであろう人物だった」。

天安門事件後もトウ小平、江沢民、李鵬らと交わったキッシンジャーは、持続的な平和が民主主義国の間にしか成立しないという考え方に距離を置く。「外交関係のあらゆる場面で、米国の統治原則を譲れない条件として掲げれば、行き詰まることは避けられなくなる」。

終章では、第1次世界大戦前におけるドイツの台頭とイギリスの対応を引き合いに出しながら、米中関係の将来を考察する。米中の衝突は不可避的ではないと論じ、太平洋共同体を構想するのである。両国は「相互進化」すべきであり、太平洋で勢力圏を競い合うのは「破滅への道」と説く本書は、日中関係にも示唆的となろう。

(中央大学教授 服部龍二)

[日本経済新聞朝刊2012年5月6日付]

キッシンジャー回想録 中国(上)

著者:ヘンリー・A.キッシンジャー.
出版:岩波書店
価格:2,940円(税込み)

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