2019年2月19日(火)

〈つながり〉の精神史 東島誠著 「絆」にまつわる言葉の変遷探る

2012/5/2付
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言葉もまたその履歴をもつ。

ある時代を席巻した言葉が、つぎの時代には棄(す)てられ、死語となる。あるいは、豊かな内容がそぎ落とされ、ガリガリにやせ細る。また、あるいは、見直されてふたたび息吹(いぶ)きはじめる……。語られてきた言葉の履歴には、時代時代の人びとの精神が反映している。

(講談社現代新書・740円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(講談社現代新書・740円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

「3・11」震災以降、政治家の言葉の貧困さが露呈している。一方、被災地を中心に「絆」が合言葉となり、復興にむけた、さまざまな取り組みにつかわれている。人と人とが結びつくこと、それが「絆」である。では、われわれは、何をめざして、どう結びつくべきなのか?

本書は、人と人との〈つながり〉に関する7つの鍵言葉、「無縁」「合力(こうりょく)」「義捐(ぎえん)」「交通」「江湖(ごうこ)」「理想」「公共」の履歴をさぐり、中世の饑饉(ききん)から現代の震災後にいたるまでの精神史を描きだしている。著者はこれらを「硬質で〈尖(とが)った〉」言葉と呼んでいる。〈尖った〉履歴をもつ言葉のどれもが、われわれの人間関係の常識や共同体観を破砕し、揺さぶる。

災害や天変地異では、多数の死者・被災者がでる。「無縁」では、その死者へのまなざしを考える。また、被災者へは、どう手をさしのべるべきか。「合力」「義捐」では、救済観の変遷をたどる。

近代化・文明化においては、どんな履歴をたどるか。「交通」には、男女間の艶(なま)めかしい関係や、思想・精神の自由を求め、越境する力があった。「江湖」「理想」には、政治結社を生みだし、市民的連帯の結節点となる力があった。「公共」には、国家のオオヤケ=「公」性のみならず、上下身分・秩序を解除する力があった。「あった」というのは、現在、それらの言葉や意味が失われているからである。

本書は最後に「災害ユートピア」という、きわどい領域に踏み込む。それは既存秩序が崩壊し、陰惨と希望、過酷と可能性が混然となった非日常的な「ゼロ」空間である。

人と人をむすぶ糸を紡ぐのは何か。著者は「想像力」だ、という。想像力の源泉は言葉である。紡いだ糸で、丈夫な「絆」の布地を織るには、けだし、各人が語る言葉を豊(ゆたか)にしていく他はないだろう。

(北海道教育大学准教授 小川和也)

[日本経済新聞朝刊2012年4月29日付]

〈つながり〉の精神史 (講談社現代新書)

著者:東島 誠.
出版:講談社
価格:777円(税込み)

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