中東 新秩序の形成 山内昌之著 多様な政治変動の見取り図を提示

2012/4/23付
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昨年初めからアラブ諸国の独裁体制が相次いで倒れた。チュニジアやエジプトの選挙では、独裁打倒の原動力となった若者たちに代わってイスラム原理主義勢力が台頭した。これと並行してイランの核開発問題をめぐる緊張も高まった。バーレーンやシリアの情勢には、宗派対立、イランとサウジアラビアの対抗関係も影を落とす。さまざまな対抗軸が交錯する形で中東の変動が続く。

(NHK出版・1100円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(NHK出版・1100円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

「アラブの春」の背後では、米国の中東離れが始まっている。だがイスラエルがイランを攻撃し、イランが報復を始めれば、米国も巻き込んだ複雑で深刻な危機に至る――。

本書は、各国それぞれの事情と共通する構造問題、地域を取り巻く国際政治力学の変容を重ね合わせて、「海図のないまま新たな秩序の形成」に向かう中東を論じた本だ。

独裁が崩れた共和制の国と、サウジを中心に老獪(ろうかい)な外交と機動的な国内対策で危機を回避した君主制の国の対比。人口増加と若年層の深刻な雇用問題。イスラエル中心から脱却しようとして同国との溝を広げ、挫折したオバマ米大統領の中東外交……。取り上げるテーマは幅広い。

著者はイラン国内の近年の権力抗争を整理し、体制を構成する力の微妙な均衡の崩壊によってイスラム法学者による統治の「終わりの始まり」の局面に入ったと説く。

トルコの台頭については、イスラム原理主義色の強い政党から出てきたエルドアン政権が現実的な政策を進めていることの重要性を説き、こうした現実感覚がエジプト政治の主導権を握ろうとするムスリム同胞団などにも必要だと指摘している。

中東の新たな政治構造の特質を見定め、米欧主導のイラン制裁強化という状況も踏まえてエネルギー安全保障を考える視点が日本に欠かせない。そのうえで著者は、自由と繁栄を「共通の価値」とし、貿易関係にとどまらない重層的な中東諸国との協力関係を築くべきだと強調する。

変化の諸側面を一つの見取り図に取り込み、グローバルな影響の広がりを伴う中東の激変にどう向き合うべきかの、思考の手掛かりを提示している好著だ。

(本社コラムニスト 脇祐三)

[日本経済新聞朝刊2012年4月22日付]

中東 新秩序の形成―「アラブの春」を超えて (NHKブックス)

著者:山内 昌之.
出版:NHK出版
価格:1,155円(税込み)

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