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眠る預金・ポイント 寿命は? 管理コスト負担 消費促す

エコノ探偵団

「長い間使われていない銀行預金を、政府が使おうとしているそうよ」。友人の言葉に探偵、深津明日香が反応した。「自分のお金じゃなくなるのかしら。そういえば昔の商品券やポイントカードが今も使えるのか気になるわ。調べてみよう」

明日香はまず、全国銀行協会(東京都千代田区)に向かった。「預けたお金は放っておくと無くなるんですか」と担当者に尋ねると、「いいえ。何十年前の預金でも通帳と印鑑などで確認できれば引き出せますよ」と答えが返ってきた。

国が活用検討

日本の銀行では、10年間出し入れがなく、本人と連絡が取れない預金を休眠預金として扱う。銀行の会計上は収益として計算するが、実際には預金が無くなるわけではない。銀行が合併した場合でも、利用の履歴をさかのぼって払い戻しを請求できるのだという。

金融庁によると、2011年3月期に発生した休眠預金は882億円。一方、払い戻された休眠預金は341億円。政府はこの休眠預金を国で管理し、被災地企業の復興資金や、新産業創出などに使う案を検討しているのだという。

「もし国が休眠預金を活用すると、どうなるの」。元金融庁長官でPwC総合研究所理事長の五味広文さん(62)に聞くと「すでに英国や韓国などで事例がありますが、預金者から請求があれば払い戻すのが原則です。日本もそういう仕組みになるのでは」と教えてくれた。

「それなら問題はないんじゃないかしら」と明日香がつぶやくと、「ところが課題もあるんですよ」と五味さんは続けた。「口座の管理はタダではできません。休眠預金は膨大な数ですから、新たな仕組みをつくった場合にコストは百億円単位に膨らむと思います」。それは税金でまかなうのか、それとも各銀行が共同負担するのか、見通しが立っていない。このため銀行業界は政府が休眠預金を活用するという案には慎重な姿勢をとっている。

ふに落ちない様子の明日香に、五味さんが説明してくれた。「銀行は預金者の銀行口座を維持するために、取引データを記録するシステムや必要書類を作成・保存するなど様々な負担をしてます。その分のコストは、預金を運用してもうけを出すことでまかなっているんですよ」。

だが、入出金が無く残高も少ない休眠預金は、利益を生まずにコストだけがかかってしまう。この問題を解決するため、海外の銀行では維持管理手数料という形で、預金者に負担を求めるケースが多い。米シティグループの場合、休眠状態の口座には月額10ドル(約810円)を徴収。日本のシティバンク銀行では、月額2100円がかかる。

減った商品券

一方、国内銀行の大半は手数料を取らないところがほとんど。こうした利用条件の違いが休眠口座を放置する原因になっているともされる。国内金融機関の口座数はおよそ12億と人口の10倍近くあるとみられる。「確かに日本人は口座管理などのサービスをタダだと思っているフシがありますね」。明日香は納得した。

「預金以外にも色々と家に眠ってるけど、それはどうなるの」。明日香は、事務所に戻って調べてみることにした。大手事業会社が運営する電子マネーの場合、入金した金額は事業会社の経営破綻など特別な事情を除けば期限はない。商品券は有効期限を設けていないものが多いが、発行する業界団体などが取り扱いや払い戻しをやめるとただの紙切れになる。明日香は富士通総研の米山秀隆さん(48)を訪ね、意見を求めた。「発行や管理にもコストがかかります。それに見合う効果が期待できなくなったのが理由でしょう」

かつては、中元や歳暮などの贈答需要が大きく、メーカーも売り上げを伸ばす手段として有効だった。今は経費節減の流れを受けて経済・産業界に「虚礼廃止」の動きが広がり、商品券のニーズが大きく落ち込んだ。10年には商品券を利用停止にして発行会社などを清算しやすいよう法律が改正された。既に文具券や音楽ギフトカードなどが消滅し、廃止予定分を含めると、対象は200種類近くにのぼる見通しだ。

年500億円消滅

「そういえば、ためているポイントも無くなるケースがあるわね」。明日香は、DVDレンタル店やコンビニなど全国4万4000店以上で使える「Tポイント」を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブに問い合わせた。有効期限は最終利用日から1年後。「次回来店の動機づけに発行しているので、期間が開くと意味が無くなってしまいます」と広報担当者は説明する。

ポイントを発行すると将来の値引きや商品との引き換えに備えて引当金を積み立てる必要があり、企業財務の重荷にもなる。クレジットカードの利用客に有効期限が無い「永久不滅ポイント」を発行するクレディセゾンの原顕文さん(38)は「確かに負担は大きい」と明かす。同社の引当金残高は約700億円。魅力的な引き換え商品を用意するなど残高が積み上がらない工夫をしている。

「ポイントはおまけだから預金と扱いが違うのは仕方ないか」。明日香は、ポイント制度に詳しい野村総合研究所の冨田勝己さん(36)を訪ねた。「有効期間の長さは、管理コストとメリットとのバランスで決まりますね。期限切れで消滅するポイントは全国で年間500億円分程度とみられます」と教えてくれた。「ここでも管理コストがハードルになるのね」

「あれ、私のプリンが無くなってる」。事務所で報告を終えた明日香が冷蔵庫を開けると、所長が一言。「冷やす電気代がかかるからね。それに消費期限切れだったから食べたぞ」

<タンス預金なら安全? 貨幣切り替え、インフレに無力>

銀行預金が「ずっと安全」とは言い切れない。2010年に日本振興銀行が経営破綻したときは、日本で制度が始まって以来初めてペイオフが発動された。預金は元本1000万円とその利息までしか保護されなかった。

ならば現金をタンス預金にすれば安心かというと、疑問符がつく。戦後の1946年、日本政府はインフレを抑えるため、新しい紙幣に切り替える名目で現金を強制的に銀行に預けさせた。そのうえで預金封鎖をして一度に引き出せる金額を制限。物資不足も重なり人々の暮らしは混乱した。

物価が異常な速度で上昇する「ハイパーインフレ」が起きた場合にも、現金はほとんど価値が無くなる。政治や経済の混乱で物価が急騰したジンバブエでは、08年に通貨単位を100億分の1に切り下げるデノミを実施。09年にはさらに1兆分の1に切り下げた。

自然災害で紙幣が破損するリスクもある。ただ、破損していない部分が3分の2以上残っていれば全額、5分の2以上3分の2未満が残っていれば半額の新紙幣に引き換えられる。災害で通帳や印鑑を紛失した場合でも、本人確認ができれば預金を引き出せる。

(畠山周平)

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