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「安心」出荷へ市場一丸 厳しい検査、自らに課す

魚の町から 石巻復興物語 更地からの挑戦(上)

一向に進まないように見えた復興も、水産加工団地のかさ上げや補助金のメドがつくと、不思議なくらいに動き始めた。宮城県石巻市魚町は「ゼロからの再出発」というハンディをばねに、10年先を見据えたまちづくりを目指す。震災前まで放置されていた旧弊の改善にまで取り組む姿は、復活へ向けた水産関係者らの強い意志の表れだ。

新たに導入した放射線検出器でミンチ状にした魚を検査。消費者に安全性をアピールする(3月31日、宮城県石巻市)

「きょうは水産加工団地かさ上げなどに忌憚(きたん)ない意見を」。3月29日、石巻の水産関係者が集まる水産復興会議は、ほぼ1年前の第1回から30回を数えた。常に100人以上が参加。鮮魚、冷凍、加工、製氷など異なる業者が熱心に意見を交わし、意思統一を図ってきた。

商品開発に全力

地盤沈下で満潮のたびに冠水した「魚の町」にも国の予算がつき、ようやくかさ上げが始まる。2月の会議で「意向がそろった区画から工事を進めるが、連絡が取れない人がいる」と市が説明すると、すぐに業者側から解決を探る提案が続出した。「世話人を決めて連絡しよう」「連絡先を知っている人はいないか」

震災前の石巻は約200社が集積し多様な魚を受け入れる強みの半面、業者のまとまりに欠けると指摘された。それが、保存できなくなった魚の廃棄、会社再建への補助金実現などに力を合わせるうちに足並みがそろってきた。今や魚市場の運営会社「石巻魚市場」社長の須能邦雄さん(68)は「震災後に培った団結力が武器」と胸を張る。

最大約80センチのかさ上げ高が電柱などに表示され、地鎮祭もあちこちで目に付く。市によると、本格復旧できた会社は少ないが、3月9日現在、魚市場周辺3地区の213社のうち110社が事業を再開。約15万トンあった冷蔵能力も4月は4万トンまで回復する見込み。

「震災前と同じではいけない」と町の人々は声をそろえる。生鮮加工会社「ミノリフーズ」社長、秋月純市さん(50)は津波で失った魚町の工場の再建工事を4月中旬に始める。新たに外国産の冷凍魚などを使った加工製品も手がける予定だ。石巻産に愛着はあるが、「まずは商品開発に力を入れ、雇用も前より増やし地元に貢献したい」。

昨年6月に再スタートした後も魚の供給が不安定だったり、原発事故による風評被害で、魚に値がつかなかったりした。石巻で加工することにこだわりを持ちつつ、「リスクを分散し、どんな状況でも事業を継続できるようにすることを考えるようになった」。

今、団結力は放射線対策にも向かう。4月から一般食品に含まれる放射性セシウムの基準が1キログラム当たり500ベクレルから100ベクレルに厳格化されたのを「プラスにとらえて取り組もう」との考えだ。

企業秘密明かす

「これで独自の強化策をとるんだ」「消費者に誠心誠意対応することが肝心」。3月29日、魚市場近くの仮設の建物に食品の放射線量を簡易測定するヨウ化ナトリウムシンチレーション検出器3台が設置された。石巻魚市場買受人協同組合理事長で生鮮加工会社「布施商店」社長、布施三郎さん(62)と市水産課の沢田友喜さん(37)が設置作業を見つめた。各地で取り合いとなっている検出器。検査する市のために組合が機器を探し4月に間に合わせた。県が昨年から貸与する1台と計4台態勢となる。

宮城県は3月23日、関係団体を集めた対策会議を設立。4月から宮城沖の7海域で、これまでの倍となる週約100検体を調査し、魚種や海域による水揚げ自粛などの措置を判断する。自らに課したあまりに厳しい対策だが、「新基準を超えて流通させれば、新たな風評被害を生みかねない」との危機感が先に立つ。

石巻はさらに簡易検出器を漁業者、市場、加工業者がそれぞれ活用。線量が高い可能性のある魚種を選定し、市場の競りに間に合うよう水揚げ後すぐに検査する。漁船は漁協経由で漁場の位置を市場に報告。漁場は長年の経験も加味した漁師の企業秘密だった。県沖合底びき網漁業協同組合の組合長で「鈴木漁業」社長、鈴木広志さん(63)も「漁場をはっきりさせ安心に応えることが、漁を守ることにもつながる」と割り切る。

雇用回復のためにも水産業の復活は不可欠だ。「補償より前に、まず意欲を持って魚を捕る、そして売るんだ。安全、安心な魚の出荷は石巻の魚の支持にもつながる」と布施さん。強い気持ちを持ち続けることが復興を支えると信じている。

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