「レバ刺し禁止令」の愚かしさ

2012/4/4付
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 食の安全・安心のために、行政が手を尽くすのは当然のことだ。だからといって、こうも短絡的な「禁止令」がまかり通っていいのだろうか。牛の生レバー(肝臓)をめぐる法規制の動きである。

 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の部会が、生レバーの販売を禁止する意見をまとめた。厚労省は近く食品衛生法に基づく規格基準をつくるという。違反すれば2年以下の懲役などが科される。

 ことのおこりは、昨年、一部の焼き肉チェーン店で牛の生肉を食べた客5人が死亡した集団食中毒事件だ。厚労省が新たに厳しい条件を設けたため、ほとんどの飲食店が提供を断念している。

 対象は生レバーに飛び火し、腸管出血性大腸菌O(オー)157がレバー内部から検出されたのを受けて一気に全面禁止の方向となった。「レバ刺し」などのメニューが完全に消えることになる。

 ただ1つの事業者が引き起こした不祥事を機に「官」による規制が際限なく広がる、典型的なパターンだろう。耐震偽装事件のあと、建築基準法が強化され、業界を萎縮させたのと同じだ。

 そもそも、生レバーに危険性があるのはたしかだが、1998年以降の食中毒事例は年間10件ほどだ。食中毒全体の1%に満たず、生ガキの食中毒などと比べて突出しているわけではない。

 およそ食べ物から完全にリスクを取り除くのは難しい。魚の刺し身も生卵も、食べる、食べないは、突きつめれば個人の判断だ。食文化というものは、そうした微妙な均衡のもとに育まれてきた。

 そこに「お上」が乗り込んでメニューそのものをご法度にするとは、ほかの分野での過剰規制にも増して愚かしい対応と言わざるを得ない。へたをすれば「闇レバ刺し」がはびこることになる。

 抵抗力の弱い子どもや高齢者には肉や魚の生食をさせない。ルールを守らない事業者は個々に処分する。禁止令の前に、やることがあろう。危険を見分ける消費者の自覚ももちろん大切である。

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