震災の記憶 後世へ
美術館、がれき展示 自治体、語り部育成

東日本大震災の被災地で、震災の記憶を後世に伝える動きが進んでいる。一瞬にして非日常に変わったことを物語るがれきの一部を保存したり、震災の風化を食い止める語り部を養成したりするほか、学生たちが被災体験記をまとめた。「3.11の前の地域の記憶を残したい」「自らの震災体験を聞いてほしい」と、被災者らは次代への継承を強く意識している。
震災で建物が損傷した宮城県気仙沼市のリアス・アーク美術館では主任学芸員の山内宏泰さん(40)ががれきの一部を保存しようと試みる。
人形、ミシン、炊飯器、ランドセルなど生活の証しのほか、津波で流された人がつかまった浮力のある断熱材、夜通し爆発したガスボンベなど160点を集めた。解説を添え、今夏以降に再開する同美術館で常設展示にする。山内さんは「3月11日に何が失われたかを忘れずにいるためのもの」と力説する。
宮城県は今月1日、南三陸町で「沿岸部語り部ガイド等育成研修会」を開いた。同町や石巻市、女川町などの観光ボランティアやタクシー会社従業員、一般市民ら約70人が参加。被災地に震災を学びに来る団体などが増えており「受け入れ態勢を整える必要が出てきた」(県観光課)ためだ。震災の風化を防ぎ、全国からの支援を継続してもらう目的もある。
南三陸町では、ボランティアの地域ガイドらが中心となり、昨年5月に「語り部プロジェクト」をスタートさせており、ガイドの一人が参加者を前に体験を実際に語ってみせた。
気仙沼市でボランティアガイドを務める60代の女性は「震災前よりガイドの仕事が増えた。やはり聞かれるのは震災のこと。伝え方を参考にしたい」と話す。県はガイドの講師の派遣などで、沿岸部の15市町を支援するという。
一方、3月初旬に書籍「聞き書き震災体験 東北大学90人が語る3.11」を発行したのは東北大学の学生と教員ら。見知らぬ顔ばかりの避難所で希薄な地域社会を実感した学生や、震災発生時に仙台を不在にしていた地震を専攻する大学院生の声などを収める。
共同世話人を務める文学研究科の木村敏明准教授(宗教学)は「消えてしまいがちな体験談でも書籍ならば次代に継げると考えた」と話している。
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