閉塞感破る起業の息吹 復興始動(4)

2012/1/25付
保存
共有
印刷
その他

中国の建設機械大手、中聯重科が4月にも、福島県会津若松市に日本法人を設立する。世界有数のシェアを持つコンクリートポンプ車の工場を建設する計画だ。

信金・NGO協力

きっかけを作ったのは会津若松市長の室井照平(56)。室井は昨年9月、中国・湖南省の中聯本社にいた。「会津に進出してくれないか」。中聯の経営陣に訴えた。

「OHガッツ」はネットでオーナーを募りカキ養殖施設を再建する

「OHガッツ」はネットでオーナーを募りカキ養殖施設を再建する

震災前、中国企業の誘致など考えたこともなかった。だが原発事故の風評被害に苦しむ中「地域に活力を与えてくれるなら」(室井)とワラにもすがる思いで中聯をかき口説いた。

ドライな海外企業は人情だけでは動かない。中聯が狙うのは日本政府の復興投資で東北3県に生まれる巨大な建設需要だ。一方で地震や放射線のリスクがある。迷う中聯経営陣の背中を室井が押した。昨年末には市場調査のため4人の中国従業員が会津若松市を訪れ、近く日本仕様のポンプ車の開発が始まる。

「まさか自分が起業するなんて」。宮城県気仙沼市のサメ皮製品を売る「シャークス」の社長、熊谷牧子(52)は言う。震災前、熊谷は別のサメ皮製品販売会社に勤める一介の社員だった。

会社が津波に流され途方に暮れていた熊谷に起業を持ちかけたのは「三陸復興トモダチ基金」。仏経済学者ジャック・アタリが設立した非政府組織(NGO)と気仙沼信用金庫が運営している。

基金は被災地の助成が目的で信金のもうけはない。しかし気仙沼信金は地震と津波で全12店のうち7店が全壊しており「地域に資金を供給するために、ためらってはいられなかった」(常務理事の高城明=61)。

外資を呼び込み、起業を増やす。廃業数が開業数を上回る状態が続く日本で、経済活性化の方策として長年、叫ばれてきた課題だ。しかし平時には頭で分かっていても体が動かない。民間銀行の中小企業向け融資残高は170兆円強と1990年代半ばのピークから35%も減少している。

だが危機に直面した人々は果敢にリスクを取り始めた。日本政策金融公庫が震災後の9カ月に宮城県で実行した創業者向け融資は前年同期比20%増の398件。岩手県は30%増の83件に及ぶ。

1口1万円募る

政府の復興予算は、こうした被災地の起業家たちにまだ届いていない。

宮城県石巻市雄勝町でホヤの養殖を営んでいた伊藤浩光(50)は昨年8月、仲間の漁師ら12人で合同会社を立ち上げた。社名は「OHガッツ」。雄勝とガッツの組み合わせだ。

インターネットを使って全国から1口1万円でオーナーを募り、カキやホタテの養殖施設を再建する。収穫物はオーナーに還元。漁協を通さず消費者と直接結びつく流通の仕組みを作り、利益率を高める。既に約2000万円を集めた。「何もかも失った今だからこそ、新しい形の漁業を目指せる」(伊藤)

「融資はできません」。津波で野菜畑を流された仙台市の瀬戸誠一(62)はJAに融資を断られた。国や自治体の支援策も見えず、あきらめかけた瀬戸を救ったのは、市民の小口資金で設立された被災地応援ファンドだった。「どうせやるなら新しいことを」(瀬戸)。地元の仲間と3人で株式会社を作り、ルッコラやレタスの水耕栽培に挑戦する。目標は年商3億円。4月にも最初の出荷が始まる。

こうした「震災後企業」が根を張って、小さくても持続的な雇用が生まれていく。一人ひとりがリスクを負って「やればできる」ことを体感し、その積み重ねが日本経済の閉塞感に風穴を開けていく。そんな起業の息吹を18兆円の復興費が後押しすれば、東北から日本が変わり始める。(敬称略)

=おわり

山腰克也、村松洋兵、相模真記、亀井勝司、川上尚志、松尾洋平が担当しました。

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]