一般意志2.0 東浩紀著 情報技術の進化と政治論じる

2012/1/11付
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国内の政治について、どうも明るい話題を聞くことが少ない。就任時には高かった首相の支持率が数ヶ月もたたずに急落しているのを見ると、そもそも代表者を選ぶ仕組みそのものに問題があるのではないかとさえ思えてくる。

本書は、政治について論じた思想書だ。しかも、18世紀の思想家J・J・ルソーと21世紀の情報社会論を架橋しようというのだから、そのスケールは大きい。だがそこで言われていることはとてもシンプルだ。私たちが「民意とは何か」について考えるための仕組みを「バージョン2」にアップデートしようというのだ。

政治思想を学んだ者なら誰でもルソーが主張した「一般意志」が、「皆で話し合って出した結論」とは異なるものであることは知っている。それは、個々人の意志が全体の意志と一致した状態のことなのだ。

そんな状態が果たしてあり得るのか。ルソーの時代にはただの夢想でしかなかったこの理念が、情報技術の進化と普及によって現実のものになりつつあると著者は言う。個々人がばらばらのことを考えていても、それを有用な知識の体系にまとめ上げ、活用するプラットフォームが、グーグルをはじめとしていくつも存在している。

荒唐無稽に聞こえるかもしれないが、ビジネスの分野においては既に、消費者の好みを直接訊(き)くような手法に代わって、ビッグデータを統計的に処理して得られる行動予測の方が、市場調査のトレンドになりつつある。同じ手法が政治に応用される可能性はある。

ただ、本書はITで政策を決めようという本ではない。ITによって可視化された人々の意志が旧来の知識人たちの討論に割り込んでくることで、彼らの議論を開かれたものにしていくことが目指されているのだ。その意味で本書の帰結はとても現実的で、いま必要とされているものに及んでいる。

本書の内容は高度で専門的な部分もあるが、たびたびそれまでの主張を振り返る部分があり、決して素人では付いていけないというものではない。政治家に文句を言うだけの政談に飽きたら、本書を手にとってみて欲しい。

(社会学者 鈴木謙介)

[日本経済新聞朝刊2012年1月8日付]

一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル

著者:東 浩紀.
出版:講談社
価格:1,890円(税込み)

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