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インド料理店 増えているって? ITビジネス、交流広げる

エコノ探偵団

「身の回りにインド料理店が随分増えた気がする。何が起きているのかしら」。旺盛な好奇心を持つ近所の主婦が事務所にナゾを持ち込んだ。カレー好きの探偵、松田章司は「まだエスニック料理ブームが続いているのかな」と調査を始めた。

章司はインド料理店数の統計を探したが見あたらない。そこで電話帳のデータを管理するNTT情報開発(東京都港区)にお願いして、このカテゴリーでの登録軒数を割り出した。

4年前の5倍

これによると、2011年3月現在で全国には1443軒あった。4年前の5倍近い急増ぶりだ。首都圏に限れば644軒で、全体の45%を占めている。

「すごい勢いだ。日本のカレーよりもスパイスが豊かで種類も多いのが理由かな」。章司がインド料理店でランチを食べ始めると、同国の事情に詳しい日本総合研究所の時吉康範さん(44)が教えてくれた。「インドで勃興したIT(情報技術)のエンジニアやその家族の来日が以前よりも増えたからですよ」

入国管理局の統計をみると10年末の在留インド人は2万2497人で06年末より19%増えた。うちIT技術者が多い「技術」資格の在留者は7%増の3515人。その間に観光客なども含む訪日数は13%伸び10年は7万2千人に達した。

すると、先輩探偵の深津明日香が情報をくれた。「そんなIT技術者が約90人も働く場所があるわ」

章司は明日香が教えてくれた新生銀行の目黒プロダクションセンター(同品川区)に急いだ。同社はコストを抑えるため、システム構築をインドのIT企業に委託している。ここに勤める技術者は主に本国との連絡役で、新生側のIT要員である約150人の日本人とは日常的に仕事上のやり取りをする。

新生銀行の原田拓治さん(42)は「一緒にインド料理店に行き、仕事や家族の話をする機会はよくあります」と証言した。章司は思わずひざを手で打った。「レストランが両国のビジネスの接点になっている」

外に出た章司にIT技術者のアニール・ラージさん(38)が近づいてきた。05年に副業で東京都心に開いた南インド料理店が評判になっている。客の20%はインド人で、70%が日本人だ。「IT技術者には私と同じ南部の出身者が多いので、ふるさとであるこの地域の料理を楽しめる店のオープンが目立っています」

インド政府の資料によると、同国を訪問する日本人も増えている。10年は06年比で4割増の16万5千人に拡大した。「現地で味を覚えた日本人のニーズが高まったこともレストラン増の一因でしょう」。野村総合研究所の現地法人、NRIインド社長の中島久雄さん(48)が推測した。

ニューデリーの日本大使館の調べでは、インドに進出した日系企業は10月現在で812社と5年前の3倍に膨らんだ。人口12億人の内需を狙う製造業が軸だ。

ヨガきっかけ

インド舞踊を習う女性たち(東京都千代田区のみやびカタックダンスアカデミー)

「インド料理店が増える背景には両国の経済緊密化があったのか」。章司が調査ノートをまとめていると、明日香が再び助言を与えてくれた。「お店を通じて、現地の様々な文化が日本に浸透してきたわ。それがまたレストランに客を呼んでいるそうよ」

章司はインド舞踊のカタックダンスを教える東京都千代田区の教室を訪ねた。地下のスタジオに入るとエキゾチックな音楽にあわせ、10人程度の女性が手足を複雑にくねらせていた。北川真亜子さん(22)はインド料理好きが高じて今年春に通い始めた。「レストランで踊るのが夢なんです」

一緒にレッスンを受けていた江頭葉月さん(38)は6年ほど前、同国生まれのヨガを習い始めた。今では講師も務めるほどだ。

ヨガ用品メーカー、ヨガワークス(東京都中央区)は日本のヨガ人口を少なくとも約100万人と推計。ヨガ講師に関連の哲学を教えるヨーガ学研究所代表、小谷能久さん(54)は「いまは健康づくりとしてのヨガブーム。ヨガを始めてからインド料理店に通う人も目立つようです」と話す。

現地の人気スポーツ、クリケットの愛好者も増えている。日本クリケット協会によると競技人口は最近5年間で1.5倍。千葉県のあたりで伸びが目立つ。

首都圏で働くインド人の技術者や料理人は、通勤に便利で家賃が比較的安い東京都東部や千葉県西部に集まって住む傾向がある。週末には仲間が集まり公園などでクリケットを楽しむ姿も見られる。同協会の事務局長、宮地直樹さん(33)は「こうしたプレーを見かけて日本人が刺激されることがあってもおかしくないでしょう」と推測する。

家庭でも調理

在日オーストラリア人が主体のチームでプレーしていた千葉県の森本隆之さん(33)は来年、インド人のIT技術者でつくるチームに移籍する。「クリケットを話題にレストランで友人が増えました。レベルの高いチームでもまれてうまくなりたいと思います」

東日本大震災後、食卓を家族で囲む風潮が強まると、家庭の外で覚えた味をレパートリーに加える例も出てきた。エスビー食品によると、南アジア風味を出すスパイス「ガラムマサラ」の家庭向け出荷額は10年度が06年度より4割伸びた。都内のレストランでの料理教室に参加した植竹佳世子さん(45)は普段から精力的に食べ歩く。「インド料理作りを極めたいですね」

章司は事務所で報告した。「ネパールやパキスタンからもシェフの来日が相次いでいますが、店は日本でよく知られている『インド料理』を名乗る例が少なくありません」

依頼人が帰ると所長が伝票を突きつけた。「また勤務時間の記入を間違えているぞ。パソコンで管理するんだ」。章司は困った顔。「ITは苦手です。インド企業に給与計算システムを作ってもらいましょうよ」

<インドとのEPA発効>後発薬の日本参入を支援

メキシコとの協定発効後はアボカドの輸入が増えた(東京都千代田区の大丸東京店)

日本とインドの経済連携協定(EPA)が8月に発効した。経済産業省によると、両国間の貿易額の大半について発効から10年間で相互に関税を撤廃する取り決めが柱。関税障壁はインドの方が高いので、完成車をはじめとする一部品目を除き、日本からの部品、鉄鋼、機械などの輸出が容易になるという。一方、日本は果物のドリアン、紅茶をはじめとする一部の農水産品などの自由化に応じた。

協定で日本は、インドに有力企業が多い後発医薬品の承認審査で不当に差別しないと約束した。後発医薬品の日本市場への参入を側面支援する。08年には第一三共が製薬大手ランバクシー・ラボラトリーズを買収。新薬開発でも協力し、両社間では出張や出向で人材交流が膨らんでいる。

今回の協定は日本にとって02年の対シンガポールから数えて12カ国・地域目のEPA発効となった。07年に発効した対チリEPAを受け同国産ワインの関税は下がり続け、消費者に新たな選択肢を与えた。いまやサラダなどの定番食材となったアボカドの輸入量も増えているが、大半は05年に発効したメキシコからやってきたものだ。

(編集委員 加賀谷和樹)

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