2019年2月17日(日)

ブレア回顧録(上・下) トニー・ブレア著 感情や人物への評価を正直に吐露

2011/12/19付
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政治家といっても人間である。一人の人間としての喜びや悲しみ、うぬぼれや嫉妬心をもっている。ただし公的存在としての政治家は、それを隠して演技しなければならない。有力政治家であるほど、表情一つが国の運命を変えるからである。

(石塚雅彦訳、日本経済新聞出版社・各3800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(石塚雅彦訳、日本経済新聞出版社・各3800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

伝統的な左派政治とも、サッチャー政権の新自由主義とも違う「第三の道」を掲げて英国労働党を政権に導いたトニー・ブレアが自伝を書いた。任を離れた彼は驚くほど正直に、自分の感情や人物評価を吐露している(ダイアナ妃、エリザベス女王、ブッシュ大統領、小泉首相についての叙述が面白い!)。

この本を、「第三の道」をめぐる理論的綱領として読むと、あるいは裏切られたと思うかもしれない。この本で何よりも生気があるのは、ブレアの「自分探し」の部分だからである。保守党支持者の家庭に生まれた彼が、なぜ労働党に身を投じたのか。そこには深刻なアイデンティティー模索があった。

貧しい家庭に生まれたブレアの父にとって、保守党員になることは成功の証であった。そのような父と、ブレアは距離をとろうとする。自分より不遇な人を思いやる、個人だけでなく社会を信じる。そのためにあえて労働党を選んだ彼は、一方で旧来の労働党にも強い不満を感じた。

伝統的な労働組合や福祉国家のあり方は、どうしても古くさい。それになじむには、ブレアはあまりに野心的であり、ビジネス志向であった。そこから彼は古い労働党を「近代化」することを自らの政治的使命にする。それが英国政治を「近代化」することにつながると彼は信じた。

若くして首相になり、高い支持率を背景に改革を進める彼の自伝の前半は、人間的・政治的葛藤を含みつつも、明るい色調につつまれている。反対に、9・11からイラク戦争に向かう後半は苦渋の言葉が続く。「この戦争は道徳的に正しかった」と繰り返すのは、あたかも自分を納得させるかのごとくである。

戦争を含む世界政治を動かしているのは、かくも鋭敏で、弱い人物たちなのだ。そのことを思い知らせる一冊である。

(東京大学教授 宇野重規)

[日本経済新聞朝刊2011年12月18日付]

ブレア回顧録〈上〉

著者:トニー・ブレア.
出版:日本経済新聞出版社
価格:3,990円(税込み)

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