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投資、投機との違いは リスクに見合う収益

 投資と投機。その違いは何だろう。考え方は様々だが「事業に資本を提供する」のが「投資」の代表的な定義の一つだ。欧州の債務不安で相場が激動している今だからこそ、立ち止まって資産運用の基本を考えよう。

100年で100倍に

100年間で約100倍。グラフAに見る米ダウ工業株30種平均の推移だ。配当を含めると株主の取り分はさらに大きく増える。時には長い低迷を経ながらも、株式投資は長期では報われることが多かった。

投資と投機の境目は見えづらいが「一つの有力な考えは、事業に資本を提供し、資金の一部が失われるリスクに見合った収益率(リターン)を見込めるのが投資」(信州大学の真壁昭夫教授)だ(表B)。

例えば1年後に105万円の価値を生む事業がある。破綻リスクもあるので、投資家が5%のリターンを求めるとする。すると現時点での出資額は5%分だけ割り引かれて100万円になり、計画通り105万円が達成できれば差額を手にできる。これがリスクとリターンの一般的な関係だ。

他にほぼリスクの無い運用手段(信用力が高い国の短期国債利回りなど)があり、そのリターンが1%とする。先ほどの事業でリスクをとって得た5%の収益のうち、無リスクの運用手段との差の4%は投資の「上乗せ収益(リスクプレミアム)」と呼ばれる。債券の長期投資も本質は同じだ(図C)。

実際はバブル期の日本株のように、将来の資産価値が過大に見積もられたり、値動きにとらわれた短期売買で投機的に取引されたりするので、マイナスのリターンが続くこともある。

だが国内外の株式相場を長期で見渡せば、ダウ平均のように「リスク無しの資産の収益率に上乗せ収益を加えた高リターンが実現されてきた例は多い」(龍谷大学の竹中正治教授)。

為替はゼロサム

一方「為替や商品など価格そのものが取引対象で、売り方と買い方の損益の合計がゼロのものは投機と定義できる」(国家公務員共済組合連合会資産運用委員で経済評論家の山崎元氏)。合計(英語でサム)がゼロなので「ゼロサムゲーム」とも呼ばれる。

ゼロサムゲームの代表例の一つが金取引。金などの商品取引は利息を生まず、価格が上がったか下がったかがすべて。このため「運用する場合も資産の1割程度に」というセオリーは比較的知られている。

誤解が多いのが為替。例えば外国為替証拠金取引(FX)で日本円より高金利の通貨に投資すると、金利差にあたる「スワップポイント」を得る。竹中教授は「金利差がリスクプレミアムと錯覚されがちだがそうではない」と指摘する。

グラフDは米ドルに1980年以降、昨年末まで31年間投資した結果だ。金利差のプラスはほぼ米ドルの下落による為替差損で消えてしまった。このように「長期では金利差が為替変動で打ち消される方向に向かうのが経済学のセオリー」(真壁教授)。

高金利の国はインフレ率も高いことが多い。インフレ率が高い通貨は買えるモノの量が減って価値が減り、長期的に為替が下落しやすいからだ。これはもちろん時期にもより、短期的には高金利通貨は上昇することも多いし、円高局面でうまく投資できれば金利差が残ることもある。

しかし山崎氏は「長期で理論通りの結果になっていることは、投資家は覚えておくべきだ。高金利と長期での投資先通貨の下落はセットとみた方がいい」と指摘する。つまり「為替取引自体には原則的にリスクプレミアムはなく、ゼロサムゲーム」(竹中教授)。

もちろん「価格差に賭ける投機が悪いわけではない」(早稲田大学の宇野淳教授)。世界的な資源価格上昇や円安に備え、資産の一部で商品やFXをうまく活用することもできる。

組み合わせ活用

大手銀行で外貨預金をすると米ドルで往復2円も手数料がかかるが、FXなら往復2銭程度。極めて低コストの優れた金融商品だ。外貨を一定比率持つ場合、倍率を抑えてFXを使うのは外貨預金より有利だ。

ただし海外の金融事情に詳しい作家の橘玲氏は「多くの"ミセス・ワタナベ"のFXの使い方は、まるでギャンブル」と心配する。「日本ほどFXが盛んな国を知らない。株や債券と同じような投資だと思っている人が多いのかもしれない」

昨年、FX事業から撤退したのがSMBC日興証券。競争激化が主因だが「FXのような為替取引で個人投資家が中長期的に高い利益を上げるのは難しい」(幹部)との声が当時社内で強まったのも要因だった。

外貨建て資産や資源関連に投資する場合も「外国株や外国債券、資源株など投資の部分を併せ持った資産も選べるし、私自身はそうしている」(竹中教授)。

様々な性質の商品を組み合わせて活用することは大切だ。ただ「どうせリスクをとるなら、リスクプレミアムを期待できる投資の比率を多くする方が、成功の可能性は高くなりやすい」(山崎氏)との声も覚えておきたい。

(編集委員 田村正之)

[日本経済新聞朝刊2011年11月30日付]

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