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TPPと東アジアの結合を 覇権争い防ぎ成長めざせ

本社コラムニスト 岡部直明

世界の成長センターであるアジア太平洋で米中の覇権争いが先鋭化している。アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議から東アジア首脳会議に至る一連の会議は、これまでの覇権国家である米国と次の覇権国家をめざす中国とのつばぜり合いの場になった。危険なのは、それがブロック主義と通貨安競争に波及しかねないことだ。そうなれば、1930年代の悪夢がよみがえることになる。

野田佳彦首相が米国主導の環太平洋経済連携協定(TPP)への交渉参加を事実上、表明したのは一歩前進である。このTPPと日中韓など東アジアの自由貿易協定(FTA)を結合することこそ、日本の戦略だろう。米中の覇権争いを防ぐうえで、日本の歴史的使命は重い。それは日本の好機でもある。

中国の台頭が世界に歴史的転換をもたらしている。先進国から新興国へ、西洋から東洋へ、大西洋から太平洋へ。ローレンス・サマーズ前米国家経済会議議長によれば、この大転換は歴史的にみて冷戦終結を上回り、産業革命やルネサンスにも匹敵する。

しかし、大転換は大きなきしみを伴う。中国の国家資本主義は米国を中心とする市場資本主義のルールとは相いれない。米中首脳会談でオバマ米大統領は人民元切り上げを重ねて要求したが、胡錦濤中国国家主席は「貿易赤字や雇用など米経済の問題は人民元が原因ではない」と突っぱねた。

中国の海洋進出は地域に緊張を強いる。大連港で見た旧ソ連製の航空母艦は意外に小ぶりだったが、中国は自前の空母をつくる計画だ。東アジア首脳会議の直前、オバマ大統領がオーストラリアに海兵隊を駐留させると表明したのは、中国の海洋進出へのけん制だ。成長への期待が集まるアジア太平洋地域だが、中国の出方しだいで緊張の海になりかねない。

「米国にも焦りがある」と榊原英資元財務官はみる。東アジアは域内貿易比率が57%と欧州連合(EU)並みで、デファクト(事実上)の経済圏ができている。オバマ大統領がTPPに雇用確保をかけるのは劣勢の大統領選を控えているからでもあるだろう。

日本に求められるのは、米中の覇権争いを防ぎ、日本主導の通商ルール作りをめざす戦略だ。野田首相のTPP参加表明がアジア太平洋の力学を変えたのはたしかだ。カナダ、メキシコが追随した。東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日中韓)のFTAに固執してきた中国がこれにインド、オーストラリア、ニュージーランドを加えたASEANプラス6の構想にも柔軟になった。

しかし、TPPには日本を除けば、中国はじめ韓国、インドネシアなどアジアの中核国は含まれていない。TPPだけで「アジアの活力を取り込む」(野田首相)というのは無理がある。日本が結節点になり、TPPと東アジアを結合して初めてこの地域に新たな成長力が生まれる。

水準の高いTPPをてこにすれば、東アジアのFTAの水準も高まるはずである。知的財産権保護などで中国の徹底した改革を促すことになるし、人民元改革にもつながるだろう。

一方で、アジアの中核国である日中韓がFTA交渉を始めることになれば、米国主導のTPP交渉にも影響を与えずにはおかないはずだ。米国がすべてを取り仕切る時代はとっくに終わっている。遅れた公的医療制度や反ダンピング規制の乱用など米国にも改革圧力がかかるだろう。

TPPと東アジアの結合は、単なる「両にらみ」ではない。もちろん、かつて鳩山由紀夫首相が唱えた「日米中の三角形」でもない。あくまで日米同盟を基盤にしたアジア太平洋の発展戦略である。

日本がめざすべきは、「開国」を超えたグローバル戦略である。日本の内から外の世界を見るだけでなく、激動する世界から日本を見つめ直すグローバルな視野が求められる。

農業など改革が必要な分野は多い。農業の地盤沈下は著しい。TPPや東アジアFTAに参加するか否かにかかわらず、改革は避けられない。競争力のある農業をめざして、大規模化や株式会社化など懸案に取り組むしかない。所得補償はあっていいが、もともと関税引き下げと一体というのが国際標準だ。「TPPのキーワードは改革と変化だ」と伊藤元重東大教授はいう。改革の機会にすることこそ国益である。

TPP参加について野田首相は国際会議では説明したが、国内での説得は不十分だ。これ以上の「あいまい戦略」は危険である。もっと丁寧な説明がいる。

世界経済危機はユーロ危機で第2ラウンドに突入した。アジア太平洋地域も影響は免れないが、なお成長の余力は大きい。それだけに米中間のつばぜり合いが尾を引く恐れがある。

1930年代の大不況はブロック主義と通貨安競争で深刻化した。その帰結は第2次大戦だった。米中間の覇権争いを世界経済危機の第3ラウンドにしてはならない。TPPと東アジアの結節点として日本が果たすべき役割は大きい。それは日本が「失われた時代」から脱却し、グローバル社会で存在感を高める好機でもある。日本の戦略がアジア太平洋の発展と安定の行方を左右することになる。

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