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消えゆく手 リチャード・N・ラングロワ著

生産活動でみる企業と市場の歴史

生産活動に必要な知識、誘因、調整の視点から、企業と市場の歴史を振り返った野心作である。著者は、この1世紀半を、企業組織が拡大し、そして再び縮小した逆U字型の動態として描き切る。

生産活動には、生産の計画を立て、中間財の生産者に適切な誘因を与え、供給を調整し、組み立てる必要がある。こうした生産の計画と調整、そして誘因の設計に必要な知識は、多くの場合、生産の現場に近いところにおいて生み出され、蓄積される。そこに、生産の計画が中央政府ではなく企業家によってなされる資本主義経済の強みがある。

この企業家による調整が、垂直統合によって企業内部において遂行されるか、それとも、系列取引や委託生産のように、企業の外側において市場を介して行われるかは、企業内取引と市場取引の相対的な費用によって決まる。市場よりも小さい費用によって実現できるとき、その取引は企業内に取り込まれる。とりわけ、特定の取引関係において大きな価値を生み出す関係特殊的な取引は、企業内に取り込むと上手(うま)くいく。

すなわち、生産活動の調整に必要な知識を創り、蓄積する企業家は常に生産活動の中心にいるが、企業家が垂直統合をどこまで拡大するかは、市場と企業組織の相対的な効率性に依存する。19世紀後半から20世紀半ばにかけて、企業は複数単位の事業部を持つ巨大組織に拡大した。しかし、20世紀後半以降、再び個々の事業部は切り離され、垂直取引のサプライチェーンマネジメントは市場を介するようになった。

著者は、これを、企業活動そのものによって生じた内生的な変化と捉える。企業活動の拡大は市場の深化を伴い、市場の深化は、個々の取引の関係特殊性を弱め、したがって市場に対する企業組織の優位性を弱めた。その先に出現したのが、あたかも19世紀半ばの商人のように、市場の中に立って自在にサプライチェーンを調整する現代企業である。

著者に倣うならば、「アウトソーシング」や「選択と集中」といった現代企業の行動も、逆U字型の長期波動の一環ということになろう。

(東京大学准教授 中林真幸)

[日本経済新聞朝刊2011年11月27日付]

消えゆく手―株式会社と資本主義のダイナミクス

著者:リチャード・N. ラングロワ.
出版:慶應義塾大学出版会
価格:2,940円(税込み)

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