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センサーがいっぱい? 携帯普及で量産、安く

エコノ探偵団

「トイレの蓋は自動で開くし、カメラは笑顔になるとシャッターが勝手に切れる。センサーのおかげらしいが、ちと親切すぎる」。神田のご隠居、古石鉄之介の言葉に探偵、松田章司が興味を示した。「いったいどれぐらいあるんだろう?」

章司は早速、ご隠居の話に出たカメラの製造元、ソニーに向かった。同社の増田桂三さん(44)が見せてくれたのは、円盤みたいな機械の上に乗った「自動撮影スタンド」。「センサーが人の表情や拍手の音を見分け、盛り上がった瞬間クルッと向きを変えて、自動でシャッターを切ります」。より自然な表情を撮影できるのが特徴という。

活動量計がはじく摂取カロリーの目標値を参考に食事の管理もできる(東京都板橋区のタニタ本社)

次に訪れたのは健康機器大手のタニタ。社員食堂では経営管理部の長島千恵美さん(30)が親指大の機器を身につけ、昼食をとっていた。「一日の総消費カロリーを測ることができる活動量計です」と長島さん。どの方向から力がかかり、どの程度の強さか、センサーが察知。付けている人の動きを推測して、消費量を計算する仕組みだ。

調べてみると、駐車場にも使われていた。事前に精算を済ましていれば駐車券を入れなくても出入り口のバーが上がるのは、センサーがナンバープレートを読み取っているからだ。

昨年は45億個

そこで調査会社の富士キメラ総研(東京都中央区)に急いだ。「変化を感じ取る部品をセンサーと見ると、2010年の国内販売は数量で45億個、金額ベースでは5480億円に上ります」。同社の中西啓真さん(30)は教えてくれた。

リーマン・ショックの影響で09年に急減したものの、昨年は数量で4%増と再び勢いを取り戻した。単純計算すると、昨年だけで日本人1人あたり36個にもなる。「1個10円以下から100万円以上まで千差万別ならぬ"センサー万別"。ほぼすべての機械に内蔵されているといえます。世界の販売数は推計で170億個程度ですので、日本は有数のセンサー大国です」

「どうしてそんなに広がったのですか」。タニタに問い合わせるとヘルスケア事業部の加藤純さん(35)から「携帯電話やゲーム機の普及で値下がりし、活動量計にも高性能センサーが使えるようになりました」との答えが返ってきた。

携帯電話を横向きにすると画面が同じ方向になったり、ゲーム機のコントローラーを操作すると画面の選手が腕を振ったりする。これは「加速度センサー」が働いているためで、活動量計にも使われている。

携帯の急速な普及で、加速度センサーの国内需要は06年の3570万個から08年に倍増。量産効果でコストが削減でき、価格も下がった。同じように、ありふれた商品になる「コモディティー(一般商品)化」が進んだセンサーは多い。

IT社会進化

「親切すぎるとご隠居は文句を言っていたけれど、確かに便利になったな」。センサー付きの家電製品に力を入れるパナソニックに話を聞くと、本多未歩さん(26)は「それだけではありません。省エネの切り札なんです」と力を込めた。

洗濯機は衣類の汚れに合わせて最適な洗い方を選び、冷蔵庫はドアの開け閉めや部屋の明るさから温度調節する。「消費電力は洗濯機で10%以上減りました。このタイプの製品は21種類と2年前の約3倍です」

安全性にも一役買っている。富士重工業は自動車に取り付け、前方に歩行者や車が近づいているか感知できるようにした。時速30キロメートルまでなら、自動的にブレーキがかかって止まる。

IT(情報技術)に詳しい日立総合計画研究所所長の白井均さん(55)は「センサーはIT社会の次の進化のけん引役です」と期待を込める。「周囲の環境を『感じる』センサーと、『処理・通信する』チップを組み合わせれば、省エネや温暖化ガス削減などを無理なく進められます」

「我々の生活にかなり役立っています」。章司の報告をご隠居と聞いていた所長は何か引っ掛かる様子。「センサーにすべてを任せて本当に安心なのかい?」

頼りすぎ危険

改めて調査を始めた章司は医師の五味常明さん(62)の元に足を運んだ。五味さんは「任せっきりは危険です」と切り出した。「熱中症にかかりやすい、季節の変わり目に風邪を引くという人が増えています。センサー付きエアコンと無関係とはいえません」

エアコンが最適な温度に自動で設定してくれる部屋にずっといると、汗をかく頻度が減り、汗腺の機能が下がる。新陳代謝も鈍ってしまい、病気への抵抗力が落ちているのでは、と五味さんはみる。「自分で寒暖を感じ、それを発汗などで調節する習慣が大切です」

センサーで便利になりすぎると、感覚がさらに衰えるかもしれない。日本の医療費は10年度で36兆6000億円と前年度比4%増。高齢化で伸び続けているところに病気になりやすい人が増えれば、国の台所がさらに厳しくなりかねない。

人間と機械の関係を「失敗学」として研究する東大名誉教授の畑村洋太郎さん(70)にも尋ねた。畑村さんは「機械が進化すると、人間はともすると『ここもやってくれる』と思い込みます。でも、実際には人間も機械も見ていない死角が生じ、思わぬ事故を起こす恐れがあります」と話す。

センサーの働きで緊急時に止まったりする回転ドアやエスカレーターでも事故はあった。章司は富士重工の関口守さん(38)の話を思い出した。「技術的に可能でも、全自動運転の車は製品化されないでしょう」。センサーによる衝突回避はあくまで補助。人が危険を判断するという前提は今後も変わらないという。

追加報告に納得した所長は章司にひと言。「君も活動量計をつけたらどうだ。事務所での下調べも必要だけれど、足で情報をとる張り合いがもっと出るぞ」

<起源は紀元前>近代以降に「スイッチ」が進化

アシモに使われているセンサーは数十個と意外に少ない

センサーを「経験や勘任せの情報を数に置き換える」ととらえれば、歴史は驚くほど長い。湿度計の誕生は紀元前2世紀ごろ。中国・前漢時代の書「淮南子(えなんじ)」に「羽と炭をてんびんにかけて乾湿の気を知る」との記述がある。ルネサンス期に活躍したレオナルド・ダビンチのメモにも湿度計のイラストが載っている。

オムロンの戸田貴さんによれば「近代以降のセンサーはスイッチから始まった」そうだ。同じ規格の製品を大量生産するため、人手に代わって生産ラインのオンとオフという作業をスイッチに任せた。やがてラインの流れる速さなども調整できるようになり、モノだけでなく熱、光、電気なども制御できるように進化した。

今月初めに新型がお目見えしたホンダのヒト型ロボット「アシモ」。コップに液体を注いだり、両足跳びをしたり、と動作はどんどん人間に近づいている。ここでもセンサーが活躍するが、使われているのは「指、頭部、足部など全部で数十個」。意外に少ないのは、個々のセンサーの機能が向上しているうえ、とらえた情報を分析する能力も高まったためだという。

(野見山祐史)

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