舟を編む 三浦しをん著
辞書作成の苦労・工夫 詳細に

馬締光也は、下宿の大家の孫娘からデートに誘われると、激しい胸の鼓動に「これが天にものぼる気持ち」だなと思う。その瞬間、外界の音が遮断され、彼の熟考が始まっていく。「天にものぼる気持ち」とは言っても、「天にもあがる気持ち」と言わないのはなぜか。それは「あがる」と「のぼる」が違う意味を持つからだ。その違いが光也の脳内で明瞭になる。
国語辞書編集部に配属された青年の物語である。彼は知らない言葉を聞くとすぐに用例採集カードを作成する。採集日、初出文献(街中で聞いたときは発言者)などを書き込み、他の辞書に載っているかどうかを調べる。カードと辞書を日々めくるので指紋がすり減り、ものがうまくつかめなくなる。
そういう辞書作成にまつわる様々な苦労と工夫のディテールが描かれるので大変興味深い。まずこれがいちばんだが、関係者たちのドラマが鮮やかに活写されているのも見逃せない。
この書名は、辞書は言葉の海を渡る舟で、我々はその海を渡るにふさわしい舟を編むのだというベテラン編集者の言葉から付けられている。職業小説の名手、三浦しをんの傑作だ。
★★★★
(文芸評論家 北上次郎)
[日本経済新聞夕刊2011年10月19日付]
★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった
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