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三陸のカキ、加工品製造を再開 原料調達、産地に奔走

立ち上がる 大震災復興へ

「三陸のカキはいかがですか」。9月29日、京王百貨店新宿店(東京・新宿)の物産展会場で、岩手県花巻市でカキ加工品「山田の牡蠣(かき)くん」を製造・販売する佐々木俊之(54)は来客に試食を勧めていた。カキを口にした主婦らは「おいしい」と口々に褒め、早速購入。約90個用意した商品は、その日の夜までにほぼ完売した。

新しく購入した加熱器の状態を確認する佐々木俊之さん

佐々木は東日本大震災まで、同県山田町で自らが養殖したカキで加工品を製造していた。原料調達に骨を折ることはなかったが、震災後はカキを得るために北海道の産地まで足を運び、飛び込みで漁協などに購入を申し込んだ。

漁師仲間から仲買人を紹介してもらうなど慣れない作業に悪戦苦闘した。カキは産地により味や大きさが微妙に違うため、加工の際には実際に品質を確かめる。佐々木は「カキを手に入れるのにこんなに苦労するとは」と苦笑する。

カキの養殖をしていた佐々木が加工品製造に乗り出したきっかけは2006~07年のノロウイルスによる風評被害だ。それまで出荷していた殻付きの生食用カキが売れなくなった。そこで売価が安定しているカキの加工品に着目した。

カキを薫製にしオリーブ油に漬け瓶詰めに――。カキのうまみを残しつつ、貝類が持つ独特の臭みだけを消すことを目指した。当初は薫製の時間を変えたり、ハーブやトウガラシ風味を試すなど試行錯誤を重ねた。09年に発売するとたちまち人気が急上昇。地元の三陸鉄道が運営する通信販売で取り上げられると全国から注文が舞い込み、販売は順調に伸びた。

「酒のつまみのほかサラダやパスタの具材にも相性がいい」。佐々木の手腕が広がり、10年1月には岩手県の水産加工品コンクールで知事賞を受賞。味や品質は折り紙つきだった。同年夏に1000万円を投資して加工場を拡張したが約半年後に震災が直撃。自宅を含め、すべてを失った。

放心状態だった佐々木だが、カキの加工品製造の再開に奮起したきっかけは顧客の激励だった。震災から約2週間後、佐々木の携帯電話が復旧すると留守番電話に数え切れないほどのメッセージが残されていた。「2年でも3年でもカキの再開を待っています」。メッセージを1件ずつ聞いているうちに「もう一度、やるか」との思いが募った。

早速、新たな加工場を探したが、津波で大きな被害を受けた山田町には適切な物件がなく、花巻市に確保した。加熱器や薫製機などの機械類もそろえ、今月中旬から本格的に製造を再開する段取りを整えた。

山田町産のカキはしばらくは入手困難なため、当面は全国から品質の良いカキを取り寄せて加工する。ただ商品名は「山田の牡蠣くん」のままだ。そこには「いつかは必ず山田町に帰る」という佐々木の強い思いが込められている。=敬称略

(盛岡支局長 水庫弘貴)

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