2019年8月24日(土)

生命と自由を守る医療政策 印南一路ほか著 保障の制度設計と政策の指針示す

2011/9/25付
保存
共有
印刷
その他

本書は、医療保障制度をその理念から説き起こし、理念、制度、政策の三つのレベルで、そのあり方を統一的に議論しようとする意欲的な書物である。そもそも理念がなければ、政策の統一性がとれず、問題の軽重の判断ができず、政策の優先順位が決められない。

(東洋経済新報社・3800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

著者の考える理念は、二段階構造になっている。生命保持のための救命医療は無差別平等に提供されることが保障されねばならない。これが第一の理念である。一方、個人の自立支援のための自立医療は、他者の幸福追求のための自由との間でバランスを取るべきであること、これが第二の理念である。

第一の理念は個々人の自由と幸福追求権を実現するための基礎である。しかし、生命保障以外の医療保障については、税や保険料などの所得移転を通じて、他者の財産権や幸福追求権を侵害することになるから、保障する範囲や、受益者負担の程度も無差別平等にというわけにはいかない。著者によれば、こうした理念は、憲法13条の生命権・幸福追求権からも、優先主義的リベラリズムの観点からも正当化されるという。

その上で、著者は代表的な116の疾患・症候を六群に分け、そのうちの二群を救命救急に、四群を自立医療に分類している。自立医療の中には、共生の原理から考えて他者の負担を求めることが適当でないものもあり、給付の範囲や保険免責、自己負担増について検討すべきであると指摘。さらに、共生の原理から、医療保障制度の費用負担方式としては、税方式ではなく社会保険方式が望ましく、高齢者であっても応能負担を適用すべきだと述べている。

本書は、社会科学の様々な分野の知見を総合して、医療保障の制度設計と医療政策の指針を示している。しかも抽象的な議論に終始するのではなく、救急医療へのアクセス、混合診療や保険免責制度など具体的な制度・政策の問題点を指摘し、解決策を提案している。第二の原理のもとでどこまで保険間の財政調整が許されるかなど、論点は依然残されているものの、研究者・実務家に多大な示唆を与えてくれる書物である。

(筑波大学教授 吉田あつし)

[日本経済新聞朝刊2011年9月25日付]

保存
共有
印刷
その他

関連キーワード

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報

新しい日経電子版のお知らせ

より使いやすく、よりビジュアルに!日経電子版はデザインやページ構成を全面的に見直します。まず新たなトップページをご覧いただけます。

※もとの電子版にもすぐ戻れます。