2019年9月21日(土)

ゲーム理論による社会科学の統合 ハーバート・ギンタス著 人間行動の全体捉える壮大な構想

2011/9/18付
保存
共有
印刷
その他

「経済学なんか役に立たない。需要と供給で取引が決まるのはわかったが、だからどうした」と嘆いている人も多かろう。だがここに、そういう批判に答えるために生まれた分野がある。ゲーム理論である。

(成田悠輔ほか訳、NTT出版・5600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

ゲーム理論は、人間の経済行動をすべてゲームと見なし、社会の仕組みを、プレーヤーの推理や思惑の相互作用から理論的に解明しようとする分野だ。「出し抜きあい」「はったり」「懲罰」「結託」「妥協」など、人間社会の生々しい側面が描写可能となる。

本書は、そのゲーム理論を主軸に据え、社会科学全体を統合しようという、まこと壮大な構想を打ち出した本だ。その端緒となるであろう5つの道具を最終章で具体的に挙げている。その準備のために、緻密かつ総覧的なサーベイが提供されており、著者の博識ぶりに舌を巻くことだろう。

本書の特徴は、「ゲーム理論は現実をどの程度説明できるのか」という点に多方面から検討を加えていることである。理論的なシミュレートだけでなく、その帰結が否定されるようなモニター実験もきちんと引用している。人間は理論が指摘するほど合理的でもなければ利己的でもないそうだ。とりわけ著者は、理論と実験とのくいちがいを、人間に本来備わる「他人の心を察し、それを自分のことに置き換えて考える」という互恵的性向から説明しようとする。現実の人間行動は、理論に現れる複雑すぎる戦略よりも慣習や規範をよりどころにしていることが多いという。では、その慣習や規範とはいったいなんだろうか。著者は、それらさえも理論的に解明できると信じている。例えば、「共有知識」と称される「みんなが知っていることをみんなが知っている」という多層的知識に関する数学理論や「何かを合図としてシンクロする」という「相関均衡」の理論などに期待をかけている。

本書には難しい数式も登場するが、一般の読者はそこを読み飛ばしてしまってもかまわない。人の行動原理の仕組みをゲームの戦略から眺め、その理論的帰結や実験結果を知ることから得るものは多い。

(帝京大学教授 小島寛之)

[日本経済新聞朝刊2011年9月18日付]

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報

新しい日経電子版のお知らせ

より使いやすく、よりビジュアルに!日経電子版はデザインやページ構成を全面的に見直します。まず新たなトップページをご覧いただけます。

※もとの電子版にもすぐ戻れます。