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値上げ目立つけど、まだデフレは続いているの?

「ガソリンやパンが値上がりして、やりくりが大変。モノやサービスの価格が下がる『デフレ』はまだ続いているのですか?」。近所の主婦が疑問を投げかけた。「そういう声は多いですね」。探偵の深津明日香は小学生の国本玄輝と調査に出た。

ガソリン価格の動向は消費者の物価実感に大きく影響する(東京都内の給油所)

「モノやサービスの価格を物価というのよね。今も下がっているのかしら」。物価を調べている総務省統計局を2人が訪ねると、担当の永島勝利さん(43)が応対してくれた。「一般家庭で買う商品や使うサービスの価格の水準を示しているのが、消費者物価指数(CPI)です。今年6月まで28カ月連続で1年前の同じ月を下回りました」

CPIは食品をはじめ588品目の価格を毎月調べて導き出す。中でも、値動きの激しい生鮮食品を除いた数字が注目される。7月は久々のプラスだったが、伸びは0.1%にとどまった。「これじゃ、下げ止まったとはいえないわ」

そこに同僚の探偵、松田章司から電話が入った。「物価を監視する日銀の『生活意識に関するアンケート調査』では違う結果が出ています」。6月の調査結果をみると、1年前と比べて物価が「かなり上がった」「少し上がった」と答えた人の割合があわせて5割もあった。内閣府の8月の消費動向調査でも「1年後に物価が今より上がる」と考える人が約7割を占めた。

「なぜズレがあるの」。玄輝の疑問に内閣府の増島稔さん(47)が「スーパーの売値が変わっても、CPIに影響しないこともあります」と教えてくれた。「特売に注目すると分かりますよ」。2人はスーパーなどの特売情報を集めているチラシレポート(東京都中央区)に向かった。

同社では沢田英さん(45)が全国約10万店のチラシを分析した資料を見せてくれた。「ビールに清涼飲料、チーズ。特売の回数が東日本大震災を境に減っている!」。3~5月は特売回数が1年前の10分の1以下になった商品もあった。7月に入っても前年並みに戻らないものもある。

商品によっても差

「特売が減り、値上がりしたとの印象を受けたのではないでしょうか。一方、特売はCPIに反映しません」と沢田さん。「なぜ」。総務省の永島さんに再度、問い合わせると「普通に売っているモノやサービスの価格がどう変わっているのかを探るのがCPIです。7日以内の特売は特殊ですので対象から外します」と答えてくれた。

「ほかにも理由があります」。第一生命経済研究所のエコノミスト、熊野英生さん(44)だった。熊野さんが指摘したのは、買う頻度別にみた物価だった。1カ月に1回以上買うモノは1年前より2.1%上昇したが、1回未満だと0.4%下がっていた。日常的に使うモノが値上がりして、たまにしか買わないモノが安くなっているわけだ。

熊野さんは「生活必需品は何度も買うので、人は価格の変化をよく覚えています。これが高いと、物価全体も上がっていると思いがちです」と説明してくれた。落ち着いたとはいえ、ガソリン代は1年前より1割高い。世界的に需要が増え原料や飼料が高騰したため、パンや卵は値上がりした。しかも、人は値下げより値上げに敏感なのだそうだ。

ニッセイ基礎研究所の研究員、桑畠滋さん(29)にも話を聞いた。「物価統計では、家電製品やパソコンなどの性能がよくなると、価格は下がったとみなします。この下げ幅が大きいことも、実感以上にCPIを押し下げています」

悪循環から脱せず

新製品の品質が上がっていることを加味したCPIになると、パソコンは年2~3割下がることになる。店頭の販売価格の平均は、調査会社のBCN(東京都千代田区)によると年間で1割も下がっていない。古くなるにつれパソコンなどは安くなるが、CPIでは店頭価格以上に下落していることになる。

「それでもデフレなんですか」。日銀で経済統計を担当する関根敏隆さん(47)に聞くと「総合的に考えると物価は上がっていません」とキッパリ。小麦など食糧や原油の価格が上がり値上げする商品はあるが、値下がりしている商品やサービスも多いという。企業の取引価格も横ばいだ。

何より、日銀も政府も人々の買い控えが今も続いているとみている。商品が売れないと、企業はさばくため値下げに踏み切る。すると企業のもうけが減り、給料も下がるから、またモノが売れなくなる。デフレと景気低迷が続く悪循環から脱していない。

三井住友アセットマネジメントの宅森昭吉さん(53)は「経済が成長するにつれて、物価も緩やかに上がるとよいのですが」と話す。経済が成長し給料も伸びれば、値上がりしても家計の負担は和らぐ。高く売れれば企業も生産を増やし、仕事や給料も多くなる。

依頼主の主婦に報告すると「人により物価の感じ方が違うと分かって満足です」。「毎日特売を探す私の苦労を、夫も分かってくれるでしょう」

(榎本敦)

<ケイザイのりくつ>品目入れ替え、実態に近づける

消費者物価指数(CPI)は実態に近づけるため、5年ごとに品目を入れ替えている。7月の調査から採用した2010年基準は、メモリーカードや電子辞書など28品目を加え、写真フィルムや、やかんなどあまり買わなくなった22品目は外した。

品目ごとに購入額の増減を考え、計算式も修正している。省エネ性能の高い家電への買い替えを促す「エコポイント制度」の後押しもあり、昨年は薄型テレビの購入額が急増した。新基準は薄型テレビがCPIの数値を大きく左右するように変わったが、逆に物価全体の現状とあわなくなったとの批判がある。

[日経プラスワン2011年9月10日付]

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