2019年5月23日(木)

これが見納め ダグラス・アダムス、マーク・カーワディン著 絶滅危惧動物めぐる辺境の旅

2011/8/21付
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『銀河ヒッチハイク・ガイド』の著者として知られるアダムスはユーモアSF界のカリスマであり、世界的な人気を誇っている。

(安原和見訳、みすず書房・3000円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

そのアダムスが、BBCのラジオ番組の一環として、絶滅に瀕(ひん)した動物に会うために動物学者を伴って辺境を訪れた。その旅の記録が本書である。原著の初版は20年前だが、このたび、やはり世界的に有名なサイエンスライター、リチャード・ドーキンス(彼にとってアダムスは愛妻と急進的無神論を紹介してくれた畏友(いゆう))の序文を得て再版された(邦訳は本書が初)。

ニュージーランドのカカポ、インドネシアのコモドオオトカゲ、中国のヨウスコウカワイルカ、アフリカのマウンテンゴリラにキタシロサイ、マダガスカルのアイアイ等々。いずれも独自の進化を遂げた稀少な動物たちは最近になって想定外の障害に出くわした。人間という生きものの出現である。

アダムスは、旅のあいだ終始不機嫌である。不機嫌の原因はすべて人間。不可解な文化の違いも、植民地政策が残した腐った官僚主義も、環境破壊もすべて人間のせい。人間の愚かさと滑稽(こっけい)さを、アダムスは彼一流の諧謔(かいぎゃく)と巧みな比喩で語ってみせる。

アダムスは2001年に49歳の若さで急死したが、その死の1カ月前にアメリカの大学で行った講演の映像がネット上で見られる。奇しくも演題は本書。冒頭で、いちばん好きなのはこの本だと宣言し、原文の朗読をはさみながら、身振り手振りを交えて旅の逸話をおもしろおかしく語っている。頻繁に聴衆の笑いを取る巧みな話術は、その筆力に劣らない。書いても演じても超一流のエンターテイナーだったのだ。

こんな強力な味方を得た絶滅危惧種たちは、アダムスの後押しを得てさらに保護が進んだ。ただ1種を例外として。ヨウスコウカワイルカはほんとうに絶滅してしまったらしいのだ。失われたものは二度と戻らない。しかし、それ以上に深刻な問題がある。「不安でならないのは人間のことだ。人間は、深刻な問題を抱えてはいないだろうか」。20年前に発せられたこの懸念が今ほど胸に迫る時はない。われわれは決断を迫られている。

(サイエンスライター 渡辺政隆)

[日本経済新聞朝刊2011年8月21日付]

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