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初乗り130円でどこまで行ける? JR首都圏一筆書きの旅

JRの初乗り運賃だけで、1都6県を回れることをご存じだろうか。改札の外には出られないが、まる一日、電車の旅を満喫できる。最近はやりの「鉄子」(女性の鉄道ファン)ほどではないが、鉄道の旅が好きな女性記者(37)は、いつか挑戦してみたいと思っていた。電車内はある程度空調が利いているし、最近は駅ナカグルメも充実しているから、十分納得できる旅を楽しめるはずだ。

1都6県巡る旅、原宿駅から出発

東京、大阪、福岡、新潟の4都市圏では、決められた区間内を普通乗車券で1日のうちに利用する場合、最も安い経路の運賃を適用するという特例がある。例えば山手線で東京駅から神田駅へ行く場合、内回りならば1駅、外回りだと28駅を移動するが、どちらの経路で乗車しても運賃は初乗りの130円でいい。ただし、改札を出たり、同じ駅を2回以上通ったりすると最低運賃は適用されない。

このルールを守り、できるだけ長距離を移動することを鉄道ファンは「大回り乗車」と呼ぶ。今回は東京都内を出発し、神奈川、埼玉、群馬、栃木、茨城、千葉の6県を巡って東京に戻る計画を立てた。

8月上旬の平日、自宅からアクセスのいいJR原宿駅をスタートに決め、朝早くに家を出る。午前6時20分の原宿駅は人影もまばら。あえて紙の切符を購入して、改札を通る。

朝ご飯は駅ナカ店舗が多い品川駅でと考え山手線に乗り込んだ。たださすがにこの時間に開いている店は少ない。なんとか新幹線口のコーヒー店が開いているのを見つけ、パンとホットコーヒーを購入した。ちょっとマナー違反かなと思いながらも、東海道線の下り電車で旅気分で食べよう。

幸い混雑しておらず、4人がけのボックスシートに座れた。向かいの人が慣れた様子でおにぎりを取り出したので、ここなら食べられそう。パンとコーヒーの香りにひと息つく。東海道線にはあまり乗ったことがない。車窓を工場や住宅、商店などが流れていき、ちょっと新鮮に感じる。

乗り換えの茅ケ崎駅には7時44分に到着。通勤客で駅はかなり混んでいる。ここから相模線、横浜線を乗り継いで北を目指す。ロングシートの座席に運良く座れたが、完全に通勤電車だ。ここは「音楽・読書タイム」と決めた。携帯音楽プレーヤーを聴きながら、夢野久作の短編集の文庫本を取り出す。ほとんど普段の通勤態勢だが、電車が違うのでちょっと落ち着かない。

乗り遅れたら駅ナカ散策

9時22分、八王子駅に着き、八高線に乗り換える。外は日差しが出てきて暑そうだが、冷房の利いた車内は快適だ。東福生駅のあたりには米軍横田基地があり、シンプルな住居が並ぶ様子に異国情緒を感じる。

川越駅で乗り換え、大宮駅には11時13分に到着。次の高崎線は18分発だが、発車ホームがたくさんあって案内を探しているうちに乗り遅れた。次は47分発だ。災いを転じるため駅ナカを散策した。カレー店「トップス」から漂う香りが胃袋を吸い寄せる。いかん。昼食時間にはやや早い。次にも乗り遅れるわけにはいかないのだ。

高崎駅に着いたらと我慢していた昼ご飯は、名物の「だるま弁当」に決定、電車内で食べることにする。午後1時46分、両毛線に乗り、小山へ。車内はすいていたが、ロングシートなので、弁当を広げるのははばかられる。お茶を飲んで空腹を紛らせつつ、窓の外を楽しもうと思ったが、日差しが強い。向かいに座った女子高生がシェードを下ろしてしまった。「もう、旅情台無し」と内心怒る。

3時半ごろに着いた小山駅では水戸線の乗り換えホームが遠い。また乗り過ごしては大ごとだ。速足で歩きながら売店に並ぶ栃木名産、とちおとめの「カントリーマアム」が目に入ってしまう。時計を気にしつつ急いで支払いを済ませる。

3時36分発の電車に滑り込んだ。今度はボックスシートなので弁当を広げても恥ずかしくない。赤いだるまの中に群馬名産のコンニャク、山菜にシイタケ、茶飯が盛りだくさん。食べ応えがある。

駅員のいる改札口から出場

 次の乗換駅、友部駅では緊急事態発生。局地的豪雨の影響で、30分以上遅れが出ているというのだ。普段なら「あーあ不幸」と思うところだが、そこは旅情の余裕、よし「夢野久作」を読み切ろうかとあくまで前向きだ。常磐線で千葉県を通り、都内へ向かう車内もよい読書時間になった。

午後7時20分、上野駅に到着した。1日の疲れをいやすため、本格的なカクテルが飲める構内のバー「森香るBAR1973」へ。「サントリー白州」のハイボールを頼む。晩ご飯は老舗洋食店「たいめいけん」と迷った末に「みどりのキッチン」で野菜をたっぷり食べようと決めた。野菜と白身魚のあんかけ定食は十五穀米、みそ汁、小鉢がついて830円。大満足だ。

後は山手線、中央線を経て新宿へ。入札から何時間もたつと自動改札に引っかかるため駅員のいる改札口で切符を見せ、「大回りです」と告げる。何か聞かれるかとどきどきしたが、何事もなく「どうぞ」と言われ、拍子抜け。時計は9時を指していた。

1都6県を巡る一日の旅は、暑い日にもかかわらず基本的に電車内で過ごしたので涼しかった。ただ駅のホームは暑いところもあるので、乗り換えはできるだけ短時間で済ませたい。

記者のつぶやき
 長時間座りっぱなしだったので、旅が終わるころには足のむくみや肩や背中のこりを感じた。今回は利用しなかったが、エキュート上野にはマッサージ・ネイルケアを受けられるサロンがあり、長旅で疲れた体をいやすのによさそうだ。駅ナカのマッサージ店は品川、西船橋、三鷹、目白などの各駅にもある。駅によっては構内の理髪店で気分一新という選択肢もある。
(小国由美子)

[日経プラスワン2011年8月13日付]

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