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幻の男たち+(プラス) 浅川マキ著

日常みつめる「実名入り」小説

浅川マキは伝説の歌手。去年1月に急逝した。彼女が残した小説集が復刊された。

この本が初めて世に出たのは1985年だから、もう四半世紀以上前になる。若干、文章が補ってある。

身の回りにいる、あるいは何かの機縁で知り合いになった男たちのことを書いている。

原田芳雄、本多俊之、近藤等則、吉田拓郎、渋谷毅、阿部薫……。亡くなった人もいる。元気に活躍している人もいる。一つひとつの文章が、小説仕立てで、緻密な計算がある、というよりも、日常を冷静に眺めているうちに、実名入りの「小説」になった、という感じだろうか。

印象的なパッセージなら随所にあるが、一つだけ紹介する。

あるコンサートで歌った後の2次会。大きな声で話していた連中が突然沈黙して、ぽっかりと静寂が口を開けたときのこと。浅川は、「あなたと云う歌手は、この時代と共に死んで欲しい」「生きのびちゃ、いけないよ」と声をかけられる。時代を感じさせる声。だが、瞬間の出来事はみごとに切り取られている。

浅川の小説がこれ一冊とは残念。

★★★★

(批評家 陣野俊史)

[日本経済新聞夕刊2011年8月10日付]

★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった

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