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欧州中銀総裁の有力候補、財政・金融政策巡る対立で消える

ニュースの理由

ドイツ連邦銀行(中銀)のウェーバー総裁が突如辞任を表明した。欧州中央銀行(ECB)の次期総裁の最有力候補だったが各国政府との路線対立で、ECB入りの意欲をなくした。欧州北部で圧倒的な信認を集める独連銀の影響力低下は通貨ユーロの不安定材料になる。時には政府や市場と対峙する胆力と求心力を兼ね備えた新たな人材を次期ECB総裁に探し出せるかが欧州の課題だ。

突如辞任を表明した独連銀のウェーバー総裁(昨年3月、ロルフ・オーザー氏撮影)

2月11日、独連銀はウェーバー総裁が退任すると発表した。辞任は表向き「個人的な理由」とされたが、域内の各国政府との財政・金融政策を巡る路線対立が背景にあるのは明らかだ。

独政府が辞任へ圧力をかけたわけではない。逆に10月末で任期切れとなるトリシェ氏の後任のECB総裁にウェーバー氏を担ごうとしていた。独連銀筋によると水面下でサルコジ仏大統領とメルケル独首相が合意。もう少しで本決まりのところまで調整が進んでいた。

条件がまずかった。「見返りに仏政府が欧州連合(EU)内での財政政策一元化に理解を求めた」(独金融筋)。財政政策の拙速な統合は各国の財政規律が緩む恐れがあり、望ましくないというのが伝統的な独連銀の立場。ウェーバー氏は激怒し、ECB総裁候補に加え独連銀総裁からも身を引く決心をしたという。

金融市場に信用不安が残るなかで突然、職務を投げ出したことは無責任だ。だがインフレの芽を摘むために欧州の協調を犠牲にするのもいとわない姿勢には今でも信奉者が多い。「孤高の姿勢こそECB総裁にふさわしかった」と欧州のある中銀総裁も辞任を惜しむ。

これは1999年の通貨統合から10年あまりたっても、政府と対立しながら通貨安定に奔走する独連銀流の金融政策がなお通貨ユーロを支える精神的な支柱であることを意味する。

仏出身のトリシェECB総裁の口癖は「ECB設立後の欧州のほうが、独連銀が金融政策を担っていた時代のドイツよりも物価が安定している」。独連銀が中銀の理想像として欧州に刻み込まれていることを裏付ける。

実際、通貨ユーロ誕生前から独連銀は周辺国でも絶大な信認を集めていた。例えばオーストリアは70年代に金融政策の自主性を放棄し、通貨シリングを西独マルクに連動させていた。中・東欧諸国では老後の蓄えは、マルクのタンス預金が通り相場だった。

欧州の課題は、独連銀のような「闘う中銀」を演出できるECB新総裁を探し出すことができるか。「タカ派」であることはもちろん、中銀の独立性を貫くために政府や市場との摩擦を恐れない姿勢が求められる。

各国政府は今夏に人選を終えたい考え。11月に就く新総裁は過剰流動性を吸収し、着実に利上げする体制を整えることが不可欠となる。

信用不安に目配りすることは必要だが、政府や市場関係者の声ばかりに耳を傾け、「市場との対話」のみに心を砕けば逆に金融政策の信認が揺らぐ。通貨統合が試練を迎えるなかで任期が8年間の総裁には通貨ユーロの未来がかかる。

(ベルリン=赤川省吾)

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