2019年6月20日(木)

回顧2010 二宮清純、井上章一氏らが選ぶ「私の3冊」

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2010/12/28 7:00
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井上章一(風俗史家)

(1)宗教で読む戦国時代 神田千里著(講談社・1600円)
(2)邪馬台国の滅亡 若井敏明著(吉川弘文館・1700円)
(3)江戸図屏風の謎を解く 黒田日出男著(角川学芸出版・1800円)

(1)は、織豊政権や江戸幕府初期の宗教政策を、あつかっている。信長が一向宗をきらい、秀吉や家康がキリスト教をにくんだ背景に、宗教的な情熱はないと指摘。しかし、島原の乱は千年王国をめざしていたという。

(2)は、近年流行の邪馬台国=纒向説を、日本書紀の読みこみによって、くつがえす。かわりに崇神以降の都、初期大和王権の拠点を見いだしたところは説得的。考古学の反論を読みたい。

(3)は、江戸図屏風の制作年代へせまった仕事。それをわりだすてさばきは、たいへん刺激的である。既成の美術史や建築史が、なぎたおされていく様子は、胸がすく。屏風制作の裏面へ肉迫するところも、おもしろい。

北上次郎(文芸評論家)

(1)サキモノ!? 斎樹真琴著(講談社・1700円)
(2)スリーピング・ブッダ 早見和真著(角川書店・1700円)
(3)鳴くかウグイス 不知火京介著(光文社・1800円)

(1)は、商品先物取引を仲介する会社に入ったヒロイン照子の日々を描くもので、その会社の実態も興味深いが、不思議な魅力にあふれているのは働く者たちが妙に人間っぽいからだ。鮮やかな長編といっていい。

(2)は、実家の寺を継ぐために僧侶をめざす広也と、安定した職業につきたいというだけで僧侶になることを志した隆春。この二人の青年の青春の日々を描く長編だが、色彩感豊かな物語である。

(3)は、中学受験小説。小林家の受験騒動記という副題通り、受験は受験生だけの問題ではなく、家族のドラマである。この長編はその悲喜こもごもを鮮やかに描きだしている。特に、長女春菜の造形が絶品。

小谷真理(ファンタジー評論家)

(1)単独行者(アラインゲンガー) 谷甲州著(山と渓谷社・2500円)
(2)創世の島 バーナード・ベケット著(小野田和子訳、早川書房・1400円)
(3)菊とポケモン アン・アリスン著(実川元子訳、新潮社・2300円)

(1)は、大正から昭和初期にかけて活躍した登山家・加藤文太郎を描く山岳小説。チームではなく、あくまで単独行に徹する加藤から、天才ならではの不屈の精神と孤独感が浮かび上がり、胸を衝(つ)かれた。

(2)は、未来の入学試験場の少女と面接官との対話から破滅的世界像が見えてくる、ニュージーランド作家のSF。哲学的な仕掛けも巧妙で、高校生のみならず、大人の読書家にも楽しめるだろう。

(3)は、戦後日本が海外に輸出してきた子供向きエンターテインメントの中の、アニメやマンガに見られるファンタジーの個性を、丹念なリサーチで歴史的・構造的に解き明かす。アメリカの知性が放つ第一級の日本論が、ここにある。

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