2019年2月19日(火)

デフレとの闘い 岩田一政著 日銀5年の経験から金融政策論

2010/8/22付
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2003年3月から5年間にわたって日銀副総裁を務めた著者の金融政策に対する考え方をまとめた本である。回顧録の色合いは控えめで、当時の経験を振り返りながら、時間の流れを追って金融政策論がさまざまな角度から説明されている。

(日本経済新聞出版社・3000円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(日本経済新聞出版社・3000円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

インフレターゲット論など一般の読者でもなじみ深いものだけでなく、新しいケインズ経済学を応用したウッドフォードの議論やスピード・リミット論など、最先端の金融政策理論が分析を交えて解説されており、今日の中央銀行が依拠する理論的背景がどのようなものかを知るには有益である。限られた紙幅で高度な理論展開を説明しきれていない面はあるが、付論で補足説明も行われており、本書を読み進めれば議論のエッセンスは十分に理解できる。

著者が副総裁を務めた5年間は、量的緩和政策の本格化から始まり、出口戦略の模索を経て、結果的に量的緩和政策の解除を決定するに至った激動の時期であった。退任直前には、アメリカ発の「百年に一度の金融津波」も始まっていた。就任当時からデフレ退治に積極的だと見られていた著者にとっても、葛藤が多かった時期に違いない。06年3月の量的緩和政策の解除は、今日多くの中央銀行が模索している出口政策の数少ないモデルケースだが、経済情勢の見通しなど当時も判断が難しい面が多かった。著者は量的緩和政策解除後に行われた2回目の金利の引き上げには、副総裁という立場でありながら反対票も投じている。

欧米発の世界同時不況が続くなかで、デフレは昨今再び大きな問題となりつつある。なかでも、日本の物価下落は主要国では突出している。中央銀行の「デフレとの闘い」はこれからも当分続きそうである。デフレはすべて日銀の責任とする論者もいるが、話はそう単純なものではない。「デフレ竜の息の根を止めるとの決意でみずからの任務を全うしようと思っていたが、現実には竜が息を吹き返してしまった」という一文は、著者の真情を吐露したものである。本書を通じて金融政策やデフレに対する理解がより一層深まっていくことを望みたい。

(東京大学教授 福田慎一)

[日本経済新聞朝刊2010年8月22日付]

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