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提唱者が見る「G2」 米中摩擦、多国間で解消

ピーターソン国際経済研究所所長 フレッド・バーグステン氏

連携で経済効率化

間もなく国内総生産(GDP)で日本を抜き、世界2位の経済大国となる中国。国際社会での発言力が高まるにつれ、国益重視の姿勢への批判も広がっている。米中関係は対決へとかじを切るのか。2年前、米中が連携して世界の政治・経済を主導するよう提唱したピーターソン国際経済研究所のフレッド・バーグステン所長は、最近の米中摩擦の解消には国際通貨基金(IMF)など多国間の枠組みでの論議が必要だと訴える。

――米中連携論は反響を呼びました。

「米中で世界を主導するG2という考え方を提唱した理由は極めて単純だ。今日の世界では米中の合意なしに物事は決まらない。多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)も、気候変動も、通貨システムもそうだ」

「まず米中が合意するなり、溝を小さくすれば、国際合意は得やすくなる。G2論は合意づくりへの非公式な土台を提供するためのものであり、G8やG20やIMFに取って代わるというのではない」

――ハーバード大のファーガソン教授は現在の米中関係をチャイメリカと呼びます。G2論と同じものですか。

「チャイメリカは米中の絡み合いを経済面で説明している。米国は消費者かつ借り手。中国は生産者かつ貸し手だ。彼は『長続きしない関係だ』と言っていた。G2はより規範的な概念だ。米中の経済は絡み合っていようといまいと世界経済の主要な部分を占めており、効率化のために協力すべきだ、ということだ」

――最近はむしろ米中の摩擦が目立っています。

「それでフォーリン・アフェアーズに新たな論文を発表した。金融危機の結果、米国への信頼は低下し、中国の地位は高まった。もともとそうなる傾向にあったが、危機により変化が加速した。米中の力関係が大きく変わり、中国は非協調的になった」

「金融危機を力強く乗り切ったのに人民元相場は固定したまま。国産品の愛用を打ち出す一方で、著作権保護に関する国際協定には従わない。『中国は持ちつ持たれつが分からない』というのが米政府の今の気分だ」

――中国は今後、独善的な方向に進みますか。

「中国の市場開放度はGDP比でみると、米国の2倍、日本の3倍だ。中国は極めて開放的な市場だし、世界経済と一体化している点は指摘しておきたい。金融危機で中国は輸出が減少し、経済成長率は年率10%から6%に下がった。6%成長だって大したものだが、中国には打撃だった」

「世界経済を損なう政策を選ぶと中国自身が不利益を被る。最も被害を受けるのは発展途上国だが、中国は途上国の代表を名乗っており、これらの国をむげにはできない」

――中国は経済問題を政治的に扱いすぎていませんか。

「大統領補佐官だった当時のキッシンジャー氏に『あらゆる経済摩擦には政治的原因があり、成果を出すには政治取引が必要だ』と提起したことがある」

――中国共産党の一党独裁は続くのですか。

「共産党支配が崩壊すると中国経済を文字通り崩壊させ、国際経済にも悪影響を及ぼす。専制体制から自由体制への緩やかな変化が望ましい。移動や職業選択の自由など、中国人の自由さは以前に比べて格段に高まった。言論の自由だって、最近の中国人はグーグル問題を盛んに論議している。ただ、台湾、チベット、共産党の問題は駄目だ。だから『軟着陸した』とはまだ言えないが、専制支配ではなくなりつつある」

――中国はアジア市場における独占的な地位を得ようとしています。

「その通りだ。アジア自由貿易圏アジア通貨基金には至らないだろうが、方向としてはアジア経済ブロックが形成され始めている。私はアジア太平洋経済協力会議(APEC)の生みの親の一人だが、アジア太平洋の経済統合は歓迎する。だが、アジアの発展に寄与してきた欧米、とりわけ米国を排除するのであれば認められない。アジアから締め出されれば米国経済への影響は計り知れない。カギを握るのは日本の動向だ」

 ――米中摩擦はどうすれば改善しますか。

「中国市場の一段の開放だが、簡単ではない。最後は人民元相場の問題になるからだ。1971年のニクソン・ショックに先立ち、米政府が貿易に課徴金をかけ、円切り上げにつなげたことを日本人なら覚えているはずだ。85年のプラザ合意も事例として似ている。米下院で25%の課徴金の法案が可決されていた。仕組みとして欧州にも適用されるが、標的は日本だった。中国を標的とした第3の事例が起きるかもしれない」

――摩擦を激化させるだけではないですか。

「だからIMFと世界貿易機関(WTO)で活発に論議すべきだ。市場開放には多国間の手続きが必要だ。第1、第2の事例と異なるのは、中国との貿易赤字を抱えるのは欧州や日本も同じという点。米国は中国に対峙(たいじ)するグループづくりに真剣に取り組むべきだ。欧米、日本、韓国だけでなく、他のアジアの国を参加させることができれば最適だ」

――中国の経済成長はいつまで続くとみていますか。

「控えめに見ても、向こう10年間は年率8~10%成長が続く。中国には農村部に豊富な労働力がまだまだいる。30年前に70%だった農村人口は現在は50%だが、長期的には20%ぐらいになるだろう。日本が3%ほどで韓国が8%だから、もっと減るかもしれない。1次産業から2次、3次産業に移行すると1人当たりの生産性は15倍になる」

「国有企業の民営化もまだ半分程度だ。民営化すれば従業員の生産性は2倍になる。エネルギーの自給率低下、環境汚染、貸し倒れ増加などの問題は出てくるだろうが、成長の二大要素はマイナスを補ってあまりあるとみている」

――農村人口が減ると食糧を賄えますか。一人っ子政策による急速な高齢化も予想されます。

「中国政府も10年前までは食糧自給を掲げていたが、今や誰も言わなくなった。付加価値の高い野菜や果物を生産し、小麦は輸入する方針に転換した。100年前の米国とほぼ同じ変化が起きている。農村人口の都市部への移動は30年ほどかかり、その間は高齢化も目立たない。向こう20年ぐらいは影響ないだろう」

「もちろん共産党支配が吹っ飛べばどんな変化が起きるか分からず、この予想はすべて成り立たなくなるが」

バーグステン氏の略歴
 1941年米ニューヨーク州生まれ。国際経済学者。米タフツ大フレッチャー・スクールで博士号を取得。69年に米国家安全保障会議(NSC)国際経済担当補佐官に就き、金ドル交換停止など一連のニクソン・ショックにかかわった。ブルッキングス研究所を経て、77~81年に財務次官補(国際担当)。退任後、ピーターソン国際経済研究所を設立し、所長を務めている。著書に「日米経済摩擦」(共著)などがある。

インタビューを終えて

労働力確保、日本を悲観

1971年のニクソン・ショックと85年のプラザ合意のシナリオライターの一人とされ、能力は折り紙付きだ。一方で悪口もよく聞かれる。ブルッキングス研究所やカーネギー財団などに所属したが、折り合いが悪く、ついには自分でシンクタンクを設立した一匹オオカミだからだろう。

その「策士」が2年前、米中関係をG2と呼び、連携して新秩序づくりに取り組むよう提唱した。日本がバブル景気だった90年前後はジャパン・バッシングの急先鋒(せんぽう)だった。20年前の日本とやや似た状況にある現在の中国のことはなぜ持ち上げるのか。疑問に思っていたので、米中関係にさざ波が立ち始めるとそれみたことかと思い、会いに出かけた。

理屈はさほど難しくない。労働力が豊富な中国は今後も成長する可能性が高く、中国抜きの世界秩序は成り立たない、という当たり前の説明だった。中国経済はバブルとの見方は否定した。

同じ理屈で日本の将来には悲観的だった。新たな労働力をどう確保するのか。移民の解禁以外に道はない、との説明には「どうせできっこないだろ」との冷ややかな響きがあった。

(ワシントン支局長 大石格)

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