2019年2月16日(土)

口蹄疫、強い感染力 10年前より拡大速く
経路分析急ぐ

2010/5/23付
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家畜伝染病の口蹄疫(こうていえき)が10年ぶりに国内で発生して流行の拡大が続いている。処分が追いつかず、感染拡大を防ぐため国内で初めてとなるワクチンの接種も始まった。病気を起こすウイルスは海外から持ち込まれたとみられ、感染力も前回に比べて強い。原因ウイルスの遺伝子検査や疫学調査から、感染経路などの割り出しが進んでいる。

今回、感染が最初に報告されたのは、4月中旬。宮崎県都農町の畜産農家で口の中にただれのある牛が見つかった。牛の粘膜に含まれる細胞の遺伝子を検査したところ、病気に感染していることが確認された。

これより前の3月下旬に発熱や食欲不振など体調不良になった水牛がいたため、発見が遅れたのではないかとの指摘もある。しかし、口蹄疫はそもそも感染しても症状が軽く、似たような症状が出る病気もあるため、感染を見落としてしまう恐れが高い病気との意見もある。

口蹄疫はウイルスが感染して発症する。ウイルスのタイプから牛や豚などの偶蹄(ぐうてい)目の動物しか感染せず、人間や馬はかからない。ウイルスは口の中にある粘膜やひづめの間の皮膚などの細胞に感染して増えて細胞を壊し、水疱(すいほう)をつくる。人間でいえば口内炎のような軽い症状。そのままでも2~3週間で症状は治まる。それでも感染した牛を殺処分するのは、病気になると食欲不振になり、家畜として満足な肉牛に育たないからだ。

感染が拡大している理由は、前回に比べて感染力が強いためとみられる。1例目が報告された4月20日から1カ月の間に、159農場(5月20日現在)に感染が広がった。2000年の感染は発生期間が3カ月だったが、処分した牛の頭数は740頭だった。「実際これほど速くひろがるとは認識していなかった」と、家畜伝染病が専門の明石博臣東大教授は戸惑いを隠せない。

ただ、口蹄疫ウイルスはそもそも感染力が強い。牛や豚から広がるほか、ネズミなどの野生動物や人間、敷きわらのようなものや乗り物でも運ばれる。明石教授は「前回のウイルスは通常とは違い、感染力が比較的弱く広がらなかった」と指摘する。今回のウイルスは、本来の強力な感染力を持つタイプとみられている。

豚に感染したことが、感染拡大の一因になったとの意見もある。農林水産省が立ち上げた専門チームの委員を務める共立製薬の寺門誠致・先端技術開発センター長は「豚は牛に比べて感染を広げやすい」と話す。牛と豚の感染力を比べた動物実験では、口蹄疫ウイルスは豚の体内では牛より増殖しやすいとの結果が出ている。

今回のウイルスはどこからやってきたのか。00年では輸入した稲わらにウイルスが付着していたと疑われたが、結局結論はでなかった。当時のウイルスはすでに駆逐されたため、国内には存在しないはず。海外から持ち込まれたとみられるが、経路は分かっていない。農水省は4月末、専門家らによる疫学調査チームを発足し分析を始めた。

農業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研究所がウイルスの遺伝子を分析したところ、今年に入り香港で発生したウイルスと特徴的な部位の遺伝子が99.22%一致していた。これだけで香港から運ばれてきたと「断定することはできない」(同研究所の津田知幸・企画管理部長)が、海を越えて持ち込まれたという見方が有力だ。

ウイルスの感染力や経路も分析が始まったばかりだ。そもそもインフルエンザのように人間が感染する病気と比べて研究が進んでいないうえ、分析する体制も十分にできていない。口蹄疫ウイルスの検査ができるのは、東京都小平市の動物衛生研究所だけ。畜産業を振興する都道府県でも検査や防御する態勢は不十分で、国に頼らざるを得ないのが実情だ。

グローバル化が進み、人や物資の移動の機会が増している。ウイルスは感染するだけでなく、人やもの、乗り物に付着して広まることもある。いつどこで流行が起こっても不思議ではなく、常に備えておく必要がある。

(長倉克枝)

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