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北野武監督、新作「アウトレイジ」を語る

極悪非道の群像劇 娯楽の王道に挑む

「映画の暴力はアート」と語る北野監督
北野武監督が久々に現代のバイオレンス劇を撮った。その名も「アウトレイジ」(極悪非道)。「北野流」を封印し、エンターテインメントの王道に挑んだ。

北野武監督・脚本「アウトレイジ」(6月12日公開)は、現代の東京を舞台に、ヤクザ社会の汚い抗争、陰謀、裏切りを描く群像劇。ビートたけし(北野)は不条理な組織のおきてに振り回される弱小組組長を演じる。今月12日に開幕するカンヌ国際映画祭のコンペティション(競技)部門で初上映される。

「今回目指したのはエンターテインメントの王道をいく映画。おいらの映画って批評家は理屈こねるけど、お客は入らないって文句ばかり言われるから、それならお客が本当に面白いと思うエンターテインメントを撮ってやろうって。腕のいい高級料理店のシェフが、あえてカツ丼を作って、いつも間抜けなカツ丼食ってるやつらに『どうだ、こっちの方がうまいだろ』って出す感じかな」

有名俳優を起用

「筋は単純。ヤクザという暴力映画の基本ラインがあって、親分子分、義理人情の関係がある。みんなが喜ぶエンターテインメントなんて、その気になれば簡単なんだよ。漫才にたとえれば区民ホールで5000人の観衆相手にやる芸と同じ。ストレートにやれば受ける。浅草の小屋に来る小うるさい客相手にやる方がよっぽど難しいよ」

「ソナチネ」(1993年)や「BROTHER」(2001年)など、ヤクザ映画は得意の定番ジャンル。だが、今作では自身の型を破る挑戦をした。一つは冗舌なセリフ回し、もう一つが有名俳優の起用だ。三浦友和、椎名桔平ら新しい顔ぶれを並べた。

「今までの北野映画らしさみたいなのは、全部とっぱらってやろうと思った。北野組の常連といわれる俳優には休んでもらった。知らず知らずのうちになれ合いになっているというか、こういうタイミングでこんな演技をするとわかっている分、未知の可能性を逃している気もしていたし。新しい人とやって『くせえな』と思う芝居もあったけど、今までにないタイミングの芝居が出せたと思う」

素直な気持ちで

ヤクザ映画の王道を目指す上で、敬愛していた深作欣二監督の「仁義なき戦い」を意識したと明かす。

「同じに見えないよう、そりゃあ気をつけたよ。だけど深作さんとおいらでは、重きを置いている部分が違う。深作さんのは殺すに至るまでのドラマが重要で、殺し方自体は簡単にドスで刺したり鉄砲で撃ったり、あんまり気を使っていない。おいらが一番神経を使ったのは殺し方。どうやって死んでいくかという方法、過程を真剣に描きたかった」

「殺し方のバリエーションにはものすごく頭を使った。例えば機関銃を前に向かって撃ってるやつがいたら、普通そいつは前から撃たれると思うけど、横から来たやつに撃たせて殺しちゃうとか。お笑いでいうと『フリ』と『落ち』の発想なんだよね。映画の中の暴力はアートだと思う。殴ったりけったり、どんな暴力を使うかを創造するのは芸術行為だ」

前作の「アキレスと亀」(08年)に至る「TAKESHIS'」(05年)、「監督・ばんざい!」(07年)の3部作は、大衆に理解されずとも芸術家として生きる、孤独な覚悟を確認するかのような作品だった。その内省をくぐり抜け、素直に娯楽作品に向かう気持ちが芽生えたという。

「基本的には漫才の出身だから、お金払って見に来る人にもう実験はしちゃいかんと思ったんだ。この先撮ってみたいのは大物スターが出るようなヤクザ映画とか純愛映画。やっぱり映画はエンターテインメントじゃないとね」

(文化部 白木緑)

[日経新聞夕刊2010年5月10日付]

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