キプロス、富裕層の預金課税検討 支援条件満たせず
【ベルリン=赤川省吾】キプロス政府は23日、対象を富裕層に限定する形で、銀行預金への課税の再検討に入った。キプロス議会は22日に危機対策として大手銀行を整理する法案を可決したが、これだけではユーロ圏が支援条件とする58億ユーロ(約7千億円)分の自主財源を確保できないため。一度は全預金者への課税を否決した議会の承認を取り付けられるかが焦点となる。
欧州連合(EU)などと協議を続けるサリス財務相が23日、首都ニコシアで記者団に明らかにした。具体的には、最大手のキプロス銀行の10万ユーロ以上の大口預金から25%を徴収する案が浮上。19日に議会で否決された2万ユーロよりも課税対象を引き上げて、預金者の反発を和らげたい考えだ。
同財務相はEUなどとの協議後、大口預金への課税について「議論している」と記者団に言明。「この税率が有効かはさらに協議が必要だ」と述べ、23日中にも議会で法案を審議できるとの見通しを示した。
キプロスとユーロ圏は15日、深刻な経営不振に陥った銀行の増資資金を得るため最大100億ユーロ(約1兆2200億円)の資金支援で一度は大筋合意した。しかし「すべての預金者に課税する」などの条件を付けたため、キプロス国民が猛反発。及び腰になった議会は預金課税案を否決した。
議会は代替案として、大手銀を整理して投入が必要な公的資金を圧縮するのに加え、年金基金などを活用した基金を設立して自主財源を確保することを決めた。
それでも約束の58億ユーロは満たせないため、キプロス政府は預金課税の再検討を始めた。アナスタシアディス大統領は23日にブリュッセルを訪問。24日に予定するユーロ圏財務相の臨時会合に向けて各国の理解を求めながら、キプロス議会の承認手続きを進める構えだ。
22日の代替法案採決ではアナスタシアディス大統領の出身政党、民主運動党(DISY)と右派の民主党(DIKO)が賛成して過半数を確保した。大口預金課税でも両党への根回しに注力しているとみられる。
一方、ユーロ側にも強い要求を突き付けざるを得ない事情がある。最大の資金の出し手であるドイツは9月に連邦議会(下院)選挙を控える。メルケル首相の連立与党は1月の地方選で野党に敗れており、安易な支援は命取りになるためだ。
ドイツには税金を使ってキプロス以外の富裕層まで救済することに抵抗感が強い。独メディアによるとメルケル首相は22日の与党会合で、キプロスの消極的な危機対応を強く批判した。
足元の金融市場は比較的落ち着いた状況で、他のユーロ圏諸国もドイツの強い要求に異を唱えていない。スペインの10年物国債の利回りは4%台後半で推移しており、市場関係者も「キプロスは特殊事例」とするユーロ圏政府の説明を理解しているもよう。
独紙フランクフルター・アルゲマイネによると、キプロスは銀行からの資金流出を防ぐため、大口の決済取引を凍結。国外への送金などは制限し、キプロス中銀が決済を1件ずつ認可している状態という。
ただ欧州中央銀行(ECB)は、ユーロ圏の支援策がまとまらなければ26日に銀行の資金繰り支援を打ち切ると通告した。国外の投資家にはキプロスに見切りをつける動きも広がる。キプロスやドイツをはじめ関係国が国内事情ばかりを優先する姿勢を続ければ、「特殊事例」であるはずのキプロス危機が通貨ユーロ全体に波及する事態を招きかねない。