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誕生「ビーコン」経済圏 商機到来に沸くIT業界

米アップルがスマートフォン(スマホ)向けに仕掛けた新たな位置情報サービスに、国内IT業界が沸いている。極小の無線モジュールを店先などに配置し、スマホに情報配信する「ビーコン」と呼ばれる仕組みを活用したサービスだ。スマホ利用者に場所に応じた広告情報を配信したり、逆に店舗側が消費者動向の把握に利用したりできる。次代のネットサービスを取り込もうと、各社の取り組みが激しくなっている。

GPSの電波が届かない屋内もOK

ワイヤレスジャパン会場内のブースに配置されたビーコンの例

「今年の目玉はビーコンだ」――。5月末、東京ビッグサイトで開催された無線関連の展示会「ワイヤレスジャパン 2014」。関係者が展示会場のウリに挙げたのが、会場全体の約100カ所に仕込んだ「ビーコン」だ。ビーコン発信機から、近距離無線規格ブルートゥースの低消費電力モード「BLE(ブルートゥース・ロー・エナジー)」を使って微弱な電波を発信。ブース近辺を通りかかった来場者のスマホ画面に、「この出展者の情報を取得しますか?」といったメッセージを表示する。

「来場者がどのような動線で展示会場を歩いたかといった情報も技術的には取得できる」。システム構築に協力したノルディックセミコンダクター(東京・港)の山崎光男代表は語る。ネットとリアルを連携させるO2O(オンライン・トゥー・オフライン)の新たな手法として、商店街やデパート、ショッピング・モールの運営者なども熱い視線を送る。

ビーコンなら全地球測位システム(GPS)の電波が届かない屋内でも、ブルートゥースを使うことで場所に特化した情報や割引クーポンなどをスマホに配信できる。特にアップルが同社のスマホやタブレット(多機能携帯端末)向けに行うサービスは「iビーコン」と呼ばれる。アンドロイド搭載端末でも同様の仕組みが利用できる。

ACCESSは、ビーコンとGPSを組み合わせ、屋外から店内へ消費者を誘導するサービスを提案している

最新のハリウッド映画の宣伝にも、ビーコン活用事例が登場した。20世紀フォックス映画(東京・港)が5月30日に公開した「X-MEN:フューチャー&パスト」だ。シネコン最大手のTOHOシネマズ(東京・千代田)が提供するスマホ用アプリ「TOHOシネマズマガジンApp」をダウンロードした来場者に、X-MENに関する情報が自動配信される。今回はTOHOシネマズ日本橋と六本木ヒルズの都内2カ所だが、20世紀フォックス映画は今後このプロモーションの全国展開も検討しているという。

システムを提供したのは、ソフトウエア開発のACCESSだ。ビーコン活用に必要な無線モジュールなどのハードウエアと、ソフトウエアをまとめて提供する「ABF(アクセス ビーコン フレームワーク)」と呼ぶパッケージを用意。新たなマーケティング手法の創造を狙う事業者に売り込みを進めてきた。同社はアンドロイド搭載スマホに向けても同様のパッケージを用意。16日から評価キットの提供を開始する。

アプリックスIPホールディングスも、ビーコンに関する取り組みを矢継ぎ早に繰り出している。ビーコン向け無線モジュールやソフトウエアを提供。商業施設のパルコなどのほか、大津市の三井寺(天台寺門宗総本山園城寺)のナビゲーションシステムなどの実証実験にも採用されている。5月下旬には、誰でもビーコンが作れるキットを約1000円でネット販売すると発表し、普及にも取り組む。郡山龍代表取締役は「以前から我々が志向していたサービスに、ビーコンのトレンドがぴったりはまった」と話す。ビーコンへの関心の高まりを、事業拡大のチャンスと捉える。

薄型電池を埋め込めばポスターでも活用可能に

FDKが開発した薄型リチウム電池。ビーコンをポスターの裏に仕込むといった際に活用できる

ビーコンに沸くのはソフトウエア関連企業だけではない。薄型のリチウム電池を開発する富士通系の電子部品メーカーのFDKもその1社だ。厚さ0.4ミリメートルと極薄のリチウム電池を開発、2014年度に年間500万個の量産を計画する。この薄型電池の用途の一つが、ビーコンを仕込んだポスターだという。

「映画のポスターや車内の中刷り広告にビーコンを組み込むため、薄型電池が欲しいという引き合いが来ている」(FDKの関係者)。街中のポスターから情報を発信し、付近の歩行者に映画の宣伝動画を流すなどプロモーションに活用する動きがでてきたという。FDKはもともと、この電池をパスワードを表示する小型ディスプレーを搭載した新型クレジットカードの電源用として開発していた。今後はビーコン用を含め、3年後に現状の5倍程度まで生産数を高める計画だ。

ブルートゥース用無線モジュール大手のTDKも市場の盛り上がりに期待を込める。ビーコンでは極小のブルートゥース用モジュールが活用されるため、同社がスマホ向けに開発したモジュールの新たな用途になる可能性がある。独自の部品内蔵基板技術「SESUB(セサブ)」を採用し、ICなどを基板内に埋め込んで小型化した無線モジュールなどを提供していく方針だ。

IT各社がソフトやハードを用意することで、利用環境が急速に整いつつあるビーコン。ただし、魅力的なサービスやアプリケーションと組み合わせられなければ、消費者が受け入れない可能性もある。今後は商店やショッピング・モール、広告代理店などの使い手側が、どのような活用法を生み出してくるか注目が集まりそうだ。

(蓬田宏樹)

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