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人口減少とどう向き合うか

夕張市長 鈴木直道(4)

連載の第1回(「財政破綻は実際にどういうことなのか」)で、対象地区の住民から100%の合意を取り、住宅再編事業を進めていることに触れました。これに対して読者の方から、「住民が中心市街地に移転するのは地方都市の生きる道だと思う」「限界集落でも市民が引っ越さない。夕張はなぜ100%の同意を得ることができたのか」などのコメントをいただきました。読者の多くの方が関心あるテーマなのだと感じています。今回はこの「住宅再編事業」について取り上げたいと思います。

鈴木直道(すずき・なおみち) 1981年埼玉県生まれ。1999年東京都入庁。2004年、都庁に勤めながら4年で法政大学法学部法律学科を卒業。2008年夕張市へ派遣。2010年11月、夕張市市長選の出馬を決意し東京都庁を退職。2011年4月、夕張市長に就任(写真 編集委員 嵐田啓明)

人口減少に対応したまちづくり計画

市長に就任してすぐ、私は人口減少に対応したコンパクトシティーを進める計画(「夕張市まちづくりマスタープラン」)を策定しました。これは、今後20年で夕張の人口が半減することを前提とした全国初のプランです。

人口減少は仕方がないことです。日本全体でみると、7年連続で人口は減少しており、自然減は過去最大を更新しています。日本の人口の10分の1以上が生活する首都東京も、東京オリンピック・パラリンピックの開催予定である2020年の翌年に人口が減少すると予想されています。北海道では一番大きな都市である札幌も、あと3年で人口が減少に転じるといわれています。そのなかで、夕張だけ人口が急激に増加することは客観的にみたら難しい。人口を増やすための対策はもちろん必要ですが、人口減少に対応したまちづくりを進めていくことも大切だと思っています。

「全国初のプラン」と書きましたが、人口減少社会に突入している今日において、なぜ今まで、どこの地域でも作られてこなかったのでしょうか。

人気投票、すなわち選挙で落ちてしまうからです。多くの住民が市長にやってほしいことは、人口が増えるような対策をすることです。企業を誘致し、観光に力を入れ、定住人口と交流人口を増やしてください。夕張であれば、最盛期の人口12万の頃に戻してください、という願いがあるのです。

ところが、逆に人口は半減しますよ、申し訳ないけどあなたの住んでいるところはなくなってしまうのでこっちへ引っ越してくださいというわけです。そうすると、あなたにそんなことはお願いしていません、それよりも人口が増えるように努力しなさい。もしくは、自分の住んできた場所がなくなるってどういうことですか、と責められてしまいます。

これまで、夕張市では人口が増えないにもかかわらず、増えることを前提に施設や制度を作っていました。私は人口減少に備えないことの方が市長として無責任だと思います。企業誘致ももちろんやっています。両方大切なのです。同時に進めなければいけないことも、理解をしてもらう必要があります。

夕張の都市構造の課題

都市計画を策定することは、私が市長に就任する前から決まっていました。私はそれを受け、単なる都市計画ではなく、人口減少に備え、将来都市構想とそのプロセスを市民とともに考え作っていく機会とするべく、マスタープラン策定に着手しました。マスタープランを作る策定委員会には、行政のメンバーに加え民間団体のメンバー、公募による市民も参加しています。また、実際に自分たちの住んでいる地域の将来像を共有して一緒に考えていくため、地域の代表者に参加してもらう地区懇談会も設けました。

夕張は東京23区がすっぽり入るほど大きな町ですが、人口減少を受け、市内に点在していた6校あった小学校は統廃合され1校になりました。市街地を集約し、遠方から通学や通勤をしている人、仕事や観光で訪れた人のために交通網を整える必要があります。

夕張は世帯数に占める公営住宅の割合が日本で一番高い市です。5400世帯に対して3700戸もの公営住宅があり、その多くが空き家なのです。撤退してしまった炭鉱企業が持っていた住宅を引き取ったので、こんなおかしな状況になっています。

しかも空き家の多い公営住宅3700戸に対し、民間賃貸住宅は100戸程度しかなく、おまけに入居率は90%を超えます。公営住宅には収入制限があるため、市外から転勤してきた民間企業で働く方や、学校の先生などの北海道職員も入居はできません。

不動産屋もないために、人づてに家を探さなければいけませんでした。現在では、この状況を改善し、市内の不動産情報が網羅されているウェブページを作り、こちらで物件の紹介を始めました。また、昨年からは、少な過ぎる民間賃貸住宅を増やすため、建設促進事業の実施とともに、宅地分譲地の価格を大幅に見直しして、126坪から444坪という広い区画を、98万円から105万円(現在の価格から9割引き)という価格で販売しました。

夕張は、構造的に「住みたくても住めない」という状態に陥っていたのです。

住民移転、「総論」では賛成でも各論になると「反対」

大半の人は「夕張を次の世代につなぐため、市街地を集約し効率化を図る」という「総論」には賛成してくれます。ところが、「それでは、あなたの住んでいる場所が移転の対象なので、引っ越しをお願いします」と各論になると「俺の住んでいる地域だなんて」と反対になる。

そのため、最初はこのマスタープランを作る委員会に、地域代表として参加することに消極的な人もいました。責任を問われてしまうし、地域の人たちから厳しい目で見られてしまうこともあるでしょう。それでも、その場で具体的に個々の地域の状況をまずお話しし、視点をあわせていかなければいけません。地域の集約・再編は、全員が納得しないと成功したとはいえないからです。

「最初は反対だったけれど…」

基本的に公営住宅における移転には2つの方法しかありません。1つは古い住宅から新しく造った住宅に引っ越してもらう。もう1つは、古い場所をリフォームして住みやすくし、その場所に集まってもらう、というものです。

「北の地域住宅賞」で最高賞の知事賞に選ばれた歩団地=提供写真

前者は夕張の将来の都市拠点と位置付けられている清水沢という地区で実施した一斉移転の方法です。11年から12年にかけて、清水沢で10年ぶりに新しい市営住宅を造りました。住宅は木造平屋建てで6棟28戸です。まずは古い市営住宅に住んでいたお年寄りの方に移っていただきました。そして若い世代の中から移転を希望する人を募り、公募枠で住居に入ってもらう。こうすれば若い世代と高齢者のコミュニティーを再生することができます。

この住宅には庭があるので、もし庭に植えられた花や野菜があまり手入れされていないなど変化があれば周囲が気付いて声をかけあう、という見守り機能にもなります。昨年11月、優れた公的賃貸住宅を表彰する「北の地域住宅賞」で最高賞の知事賞に選んでもらいました。

後者は真谷地地区という地域で行っています。真谷地は、もともと炭鉱の町として栄えていた地域です。炭鉱が閉山になり、古い市営住宅には空き家が多い。住民の平均年齢が70歳を超えているという地域です。10年後、もっと厳しい現実が待っていることは想像に難くありません。

そこで、真谷地は入居率の低い12棟を半分の6棟に絞り集約することにしました。古い建物ですが、暖かい住宅にするため断熱材を入れたり、手すりを付けてバリアフリーにするなどリフォームしました。リフォームにはお金がかかりますが、それでも何十人もが入居できる住宅に1人で住んでいる方が、行政はもとより住居者個人としても暖房費等のコストが大きくかかります。

誰も住んでいない家でもコストがかかります。水道管が破裂してしまうと他の住居に影響するので修理が必要です。誰もいない家は温度が下がるので、雪が解けない場所ができてしまいます。そのための除雪も必要になります。リフォームして住民が集まってくれることで、こうしたお金を削減することができます。

この事業によって10年間で約1億円の経費が削減できる計算になります。個々の家にとってもメリットがあります。断熱材を入れたこと、そして隣近所に人が住んでいること、それだけで燃料費を約30%削減することができます。上下、両隣が誰もいない状態での一人暮らし、という安全面での不安も改善されます。

冬の歩団地

新しい市営住宅へ移転が実現し、初めて迎えた冬。古い住宅に長年住んでいて移転に反対していた90歳代の男性から「今年の冬は、今までの人生で一番暖かかった」といわれたことが、忘れられません。

夕張市の職員数は、人口規模が同程度の市町村で最も少ない職員数となっています。その厳しい体制のなか、職員とともに住民の皆さんの状況を何度も何時間も訪問して、一人ひとりと繰り返し対話することで、やっと合意ができたのです。

感情がとても大切

移転を進めるにあたって、忘れてはいけない一番大切なことは「感情」です。40年前に建てられた老朽化した住宅に住んでいる人に対して、「バリアフリーでピカピカの家を用意したので移ってください。14万円の移転補償も出ます」などと言ったら、もしかしたら「それは良い条件だね」と思う人もいるかもしれません。

歩団地にて

けれど、例えば市営住宅で一人暮らしをしている高齢の女性に移転をお願いすることになったとしましょう。話を聞いてみると、彼女はかつて炭鉱で起きた事故で夫を亡くし、厳しい経済状況のなかで息子や娘を育て、札幌に送り出し、いま一人で暮らしている。長く住んでいるので、家族との思い出が部屋にたくさん残っている。

「私も年を取ってあと少しで夫のもとへ行ける。私が亡くなるまではここで過ごさせてほしいんです。あと何年生きるかわからない、そんな私から思い出の場所まで奪うのですか」

この気持ちに対して「14万円払うんだし、きれいな家なんだし我慢して移動しなさい」と簡単に言い放つことがどうしてできるでしょうか。

情報を同一にする

これだけ家に対する愛情があれば、地域に対する愛情もあるのです。何より夫や息子、娘と過ごした地域をよくしたい、次につなげる世代に故郷を残したい、そう思っているから夕張に残ってくれた人たちです。そして、それは私たち市職員も同じなんです。

もちろんここは譲れない、ということはあります。そのとき、お互いが同じ情報を持つことが大切です。私たちも苦しい。当然、当事者も苦しい。お互いの状況を分かった上で、自分たちの提案がそもそも正しいのかも含めて考えたとき、本当に「これしかない」という一手だとしたら、それは響くはずです。もし、こちら側にしかない情報を持っているのに出さずに話し合っていたら、結局は平行線だと思います。同じ情報を共有し、これが最良の方法です、いや別の方法もあるのではないだろうか、といった対話を重ね同じ判断に至るまでやらないと、解決には至りません。この課題は一人ひとりの人生を左右する問題だからです。

国も来年度からスマートシティーやエコ町、ということで再編への税制優遇策をやろうとしているようです(都市の低炭素化の促進に関する法律=略称「エコまち法」)。都市や交通の合理化はまさに、夕張で行ってきたことです。以前、国土交通省の審議官の方が、「夕張のマスタープランについて知りたい」と来道されたことがありました。私は「私の説明を聞くより、市職員とともに現場へ行き直接交渉を見た方が厳しさはわかりますよ」とお伝えしました。

移転は、机の上でやるパズルではないのです。3人いれば3人のそれぞれの思い、人生があります。この「思い」があることを、まずは制度を作る皆さんにも分かってほしい。心からそう願っています。

「僕たちはどう働くか」では読者の皆様のコメントを募集しています。コメントはこちらの投稿フォームからお寄せください。
読者からのコメント
アングスフォリア 60代男性 愛知県
夕張を他山の石として、国家財政に適用される、「地方財政健全化法」がなぜないのかということに行き着くべきではないか。
ないっふ 70代以上男性 福岡県
先日マウント・レースイに行って来ました。雪質良好。料理は単調、土産品もメロン絡みばかり。投資と知恵が不足していることは以前との比較でわかります。炭鉱の思い出やメロン、映画祭以外に何ができるのかわかりませんが、海水魚あるいはチョウザメの養殖も可能性があるのかな、と思いました。
YO 50代男性 北海道
夕張の話は近くにいるので気になり読ませていただいています。  思い出はお金では買えませんね。そこを離れてしまってもそこが故郷です。無くなるのはさびしいものです。夕張市の職員の皆さんのご苦労計り知れないものがあります。国だったら強制執行でやってしまうんでしょうが。ご苦労がおありだと思いますが、なるべくみんなが納得できる方法をあみだしてください。
 70代以上男性 群馬県
課題に対応しているかどうか分かりませんが一言いいたいことが有ります。以前、夕張市長が日本人は皆自分が「ゆでがえるになっているのに気だ付いていない」というのはもっとも意見だと思います。私は今年で82才になります。今は年金生活ですが相応の生活がおくれています。しかし、1000兆の借金を考えるととても成長戦略だけでは無理だと思います。税収が短期で倍になるとは考えにくいからです。支出を極限まで削り、皆が我慢していくべき時だと思います。さもないとやがて国債の信認が失われ暴落財政が破綻、とんでもない生活が待っていることを覚悟しないといけないのではないでしょうか……。
はるかの代表 30代男性 愛知県
これからの夕張市がとても楽しみです。 若いリーダーが口先だけでなく本気で問題を解決していこうという熱い思いが伝わってきます。 不動産屋がないということで市がウェブを使って貸家をやっているというのも、とても面白いアイデアだと思います。 ただ、不動産屋がないのであれば、誘致することも必要だと思います。 斬新なアイデアと熱い気持ちを持った(できれば)若い不動産会社の経験者などを公募して起業の応援などをしてみるのも面白いと思います。 不動産屋のない町=活気がない町だと思います。(サザエさんで花沢さんがいなかったら悲しいですよね) 日本の人口密度は先進国の中でもかなり高いです。 それだけ、不動産の価値は過疎地であったとしても、まだまだ高いと思います。 土地活用、地域活性化を担っていけるような専門家を増やしていくことでより一層の夕張市の発展を期待しています。
もりママ 40代女性 東京都
素敵ですね。高齢化社会を前に、一病院師長として、なかなかうまくいかないことの方が多いですが、市長はじめみなさんの考え方、取り組み方、全くもって賛同です。私も、がんばります!
natureizm 40代男性 東京都
おっしゃるとおり、効率的な行政運営と住民一人ひとりの幸せ、を天秤に掛けなければいけない時代になったと実感します。私の親類も限界集落に住む方がいて、市街地への移転を勧められています。しかし80歳の老人にとって「終の棲家」から追い出されることが幸せなのかどうか、とても難しい問題です。また日本に限らず、先進諸国の行政機関の多くはことなかれ主義となっていますが、公務員の立場で考えれば無理な改革は困難で、ことなかれも仕方がないと思います。結局鈴木さんのように思いの強い行政マンが政治家になっていくしか方法はないのか、とも思います。毎日のように困難な課題が続くと想像しますが、めげずに頑張って下さい、何もお力にはなれませんが応援しています。
マーボー 60代男性 神奈川県
夕張の状況は、今年の予算の状況を見ても明日の日本の財政状況と対比せざるを得ません。現在の財政問題は、日本の政策の最優先課題だろうと思うのですが危機感がないと思うのは異端でしょうか。破綻しないためには欧州なみの消費税20%あげや、米国の歳出削減を義務化、コンクリート物の自己負担化等いくらでも考えられます。政治家の人気取りも見られ、危機感の低さが目立ちます。本当に狼がやって来て、ハイパーインフレや悲惨な生活が想像され、メディアは、もっと危機感をもって国民を煽るのは間違いでしょうか。
メタボ親父 50代男性 徳島県
私は元公務員です。公務員の全てが嫌になって退職しました。ですが、ここには民間以上のグランドデザインがあります。素晴らしいの一言です。 まさか公務員からこのようなアイデアがでるとは……。 私が退職後に住みたい場所、一番はカナダのケローナです。二番目に夕張市と言ってみたい気がします。 本当に久しぶりにいい記事に出会いました。
山根 博文 60代男性 山口県
多くの地方自治体は過疎対策の1つの案として住宅再編事業を捉えております。しかし、老人は住み慣れた地区は不便でも愛着を持っており、移住に伴う費用や移住先の不安等で移住に踏み切れない心境及び抵抗があると思われます。私は、過疎老人は病院通い等過疎の不便さは感じておりますが、移住には「知人といっしょの集団移住」「経済的負担・不安の解消」「行政の積極的な応援」が移住の成否と思っております。
 70代以上男性 鹿児島県
 国会議員の中に、選挙に不利と思えること(消費税値上げ、TPP=農産物関税等)には本音をいわない議員がはくさんいて、国家、国民より自分の名誉、社会的地位のみを考えて発言する人が多い。夕張市長のような言動を見習せたい。

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