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本格始動した310億円VBファンド 世界席巻の野望

3億ドル(約310億円)を集めた国内最大規模のベンチャー投資ファンドがいよいよ本格的に動き出す。ベンチャー投資会社(VC)「WiL(ウィル)」が中心となり昨年12月に組成したファンドで、全日本空輸やソニー、日産自動車など日本の大手企業10社以上が共同で出資。このほど出資先第1号としてスマートフォン(スマホ)アプリ開発のトライフォート(東京・渋谷)を選定し、同社が実施した第三者割当増資を引き受け4億円を出資した。

WiLは単なる投資だけでなく、大手企業とベンチャー企業の橋渡し役を目指している。資金に加えて技術や人材を両者の間で有機的に結合させ、従来にない新しいベンチャー支援の基盤を作りだそうとしている。トライフォートのような技術力のあるベンチャー企業の力をうまく引き出せば、今後世界を席巻するような骨太な技術やサービスが日本発で生まれる可能性がある。

急成長のスマホアプリ受託企業に白羽の矢

スマホアプリ受託開発のトライフォートはスマホゲームのクルーズで技術統括担当執行役員だった小俣泰明氏(右)とサイバーエージェント出身でウェブ販促企業で経営企画を担当していた大竹慎太郎氏(左)によって設立された

WiLの伊佐山元・最高経営責任者(CEO)はシリコンバレーの有力VCであるDCM出身。現地で約10年の投資経験があり、米国に張り巡らせた幅広い人脈も持つ数少ない日本人だ。伊佐山氏によると、2011年にVCが投資した金額は米国が2兆9700億円だったのに対し日本は1240億円止まりだったという。日本には少ないエンジェルと呼ばれる個人投資家による投資額を含めると、米国は5兆3000億円。実に日本と43倍以上の差がある。

「日本と米国の国内総生産(GDP)の差が約2.5倍なことを踏まえると、日本のベンチャー投資額はあまりにも少ない」(伊佐山氏)。この状況に対する危機感がWiL設立の原動力となっている。伊佐山氏の取り組みに賛同して出資元となった大企業が、日本のベンチャー投資額の約3割に及ぶ約310億円もの1号ファンドに寄せる期待も並々ならぬものがある。

WiLが最初の投資先としてトライフォートに注目したのは、その技術力だ。大手企業などからの注文に応じてアプリの受託開発を手がけており、その多くがヒット。米アップルのアプリ配信サービス「アップストア」などでランキング上位に入るアプリも少なくない。表舞台には出てこないが、スマホブームの裏側で黒子役として少しずつ存在感を増しつつある。いち早く受託開発を始めたことが奏功し業績も好調。2012年8月の設立時には数人だった社員は、わずか1年半でエンジニアを中心に約100人にまでふくれあがった。

「世界最強レベルの技術を持つ企業になる。そしていずれフェイスブックを軽く超えるグローバルサービスを生み出す」。トライフォートの大竹慎太郎CEOは同社が描くゴールをこう語る。アプリ受託会社としては珍しく自社でサーバー設備を運用しており、アプリを設計してプログラミングする川下から、できあがったアプリをクラウド上で運用する川上まで一気通貫で面倒をみる体制を整える。「スマホだけでなくクラウドの技術にも精通する技術者集団。サクサクとレスポンスよく通信できるアプリを開発できる」(大竹CEO)のが強みだ。

 タッチ操作や画面デザインなどについても、最先端のユーザーインターフェース(UI)を率先して採り入れる。一方でウェブサイトでコンテンツ配信したい企業の要望も柔軟に聞き入れる。最新のウェブ技術「HTML5」を駆使して、アプリとほぼ同等の使い勝手のウェブサイトをいち早く公開するノウハウも持つ。

アプリとHTML5の両方に精通する開発会社は少なく、「スマホ関連でうちで作れないものはなにもない」(大竹CEO)と胸を張る。アプリはアップルの審査が必要でリリースに時間がかかる場合があり、機動的にウェブサイトも作りたいと考える企業が急増。こうした需要をうまくくみ取ったことが、受託案件の急増に結びついた。

ベンチャー企業を日本経済のけん引役に

オフィス入り口にある社名を示した看板は簡素だが、一歩中に足を踏み入れるとベンチャー企業特有の活気の中で約100人ものエンジニアが働いている

トライフォートは、調達した資金を用いて自社ブランドのアプリの開発に乗り出す方針だ。大竹CEOは「ゲーム2本、電子商取引関連を1本、LINEのようなコミュニケーション系を1本。合計4本で最高レベルのアプリを開発する」と語る。受託開発で培ったノウハウを余すことなくつぎ込めば、いずれも世界的なヒットを生むことは十分可能だと考えている。

「日本発の技術者集団がシリコンバレーを中心にグローバル展開できるよう狙っていきたい」と伊佐山CEOも期待を寄せる。トライフォートへ出資したタイミングで、サイバーエージェントで米国支社を設立した難波俊充氏を社外取締役としてトライフォートへ送り込み、同じくサイバーエージェントで藤田晋社長の右腕を長年務めた西條晋一氏をアドバイザーに任命。助っ人となった難波氏と西條氏は、ネット業界では先を読む力にたけていると定評がある。

「米国では若い企業が経済のけん引役を果たしているのに、なぜ同じことが日本ではできないのか」(伊佐山CEO)。シリコンバレーの流儀と大企業の資金力。2つのタッグによってヒト、モノ、カネが日本のベンチャー企業に流れ込み始めた。大企業はもとより若い経営者も「次のグーグル」「次のフェイスブック」を本気で目指す機運が高まれば、日本のIT(情報技術)産業は大胆に変わるかもしれない。

(電子報道部 高田学也)

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