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センチ単位に突入 スマホ位置情報に高精度化の波

スマートフォン(スマホ)向け位置情報サービスで新たな動きが注目を集めている。米アップルが1メートル単位で客の位置を捕捉できる「iビーコン」の導入を直営店で開始したほか、地下街やビル内でスマホ向けに位置情報を配信する技術の導入も各地で進む。全地球測位システム(GPS)を補い、より厳密に場所を特定できるほか、これまで位置情報に縁がなかった場所もカバーが可能になりつつある。消費者の場所を照らし出す「灯台」の役割を果たすスマホの位置情報は、新技術の登場でますますその役割が大きくなりそうだ。

日立などが推進する国産のIMES

地下街やビル内など、GPSの電波が届きにくい場所でのスマホ向け位置情報サービスで注目されているのが「IMES(インドア・メッセージング・システム)」だ。

IMESは緯度や経度などの情報をGPSと同じ周波数帯で発信する送信機を屋内に設置するシステム。GPSの電波が届かない高層ビルをはじめとする屋内や地下でも、利用者のスマホなどの機器がIMESの電波を受信すれば位置情報を取得できる。日本版のGPS「準天頂衛星」と組み合わせて屋内でも高い精度で位置を把握する仕組みとして、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した。

IMES送信機の開発に積極的に取り組んでいるのが日立製作所グループだ。GPSを使った衛星測位と屋内に設置した各種センサーを組み合わせ、屋外から屋内へ移動する人や物の位置を途切れることなく把握できるシステムなどを開発している。屋外ではGPSを、屋内では無線LAN(構内情報通信網)「Wi-Fi」の基地局やIMESを組み合わせて、利用者の位置を把握する。

日立は既に、これらの技術を組み合わせた位置情報システムの導入を提案中だ。工場の内外を移動する従業員や物資運搬の効率的な管理、地下街など商業施設での来店客の誘引、非常時の避難誘導などで威力を発揮すると期待を寄せる。

IMESの専用受信機を開発する企業も登場している。佐鳥電機は、寸法が名刺大のIMES受信機を開発、送信機などインフラ整備にあわせ、早ければ来年度にも販売する意向だ。「ショッピングセンターで来店客に端末を貸し出したり、病院で患者の位置管理に使ったりする」(佐鳥電機)などの用途を想定している。

一方、アップルが開発したiビーコンは、わずか1メートル程度の近距離での位置確認が可能な技術である。商店の特定の陳列棚の前にいるなど、GPSでは難しかったピンポイントでの位置補足をできる点が特徴だ。

発信機は0.1~数秒ごとに位置情報をスマホに向けて発信する。送信データは20バイト程度と小さい。

既に米国内の直営店「アップルストア」に導入済み。「iビーコン発信機」を複数台設置しており、スマホ利用者が発信機のそばに近づくと、アプリ(応用ソフト)を起動。利用者のそばにある製品の情報などを自動的に表示する。発信機の電波が届きさえすればいいので、GPSの電波が届かない屋内や地下街でも使える。

渋谷パルコはアップルの「iビーコン」

国内でも導入が進み始めた。渋谷パルコなどがiビーコンを使った来店検知機能付きのアプリを店内に導入した。アプリを開発したのは頓智ドット(東京・渋谷)。客が店舗に来店するとポイントを付与するなど行う。自動的に来店回数を集計したり、店舗側が顧客管理に使える工夫もある。

iビーコン発信機を開発したアプリックスIPホールディングスの郡山龍代表取締役は、ほかにも多数の引き合いがあると明かす。今後小売業を中心に300店舗以上へ導入する計画がある。送信出力が小さく済むことから、乾電池で数年以上駆動できる発信器の開発も将来的には難しくないとも語る。課題は発信機のなりすましだ。来店せずにクーポンを取得するなど不正利用が起こらないよう、機器を認証する仕組みの開発が急がれる。

スマホで使える高精度の位置情報サービスが進化すると、消費者の生活はがらりと変わる。「今後、位置情報が資産として注目が集まるだろう」と主張するのが、無線LAN関連のコンサルティングなどを手がけるブリッド(東京・新宿)の大沢智喜社長だ。複数の位置情報発信機やアクセスポイントを束ねて管理する人や企業が、位置情報の資産性を主張する時代になるという見方だ。

例えば、複数の商店が入居するビルの前の位置情報は誰が管理するのか。さらに位置情報が「誰の所有物なのか」という問題も生じてくる。逆にそれらの問題をうまく解決することをなりわいにする企業も登場しそうだ。

位置情報の主役は、マクロを照らすGPSからミクロを照らすiビーコンやIMESに変わる。その結果、思いも寄らない新たな産業が生まれるかもしれない。

(産業部 蓬田宏樹)

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