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変幻自在の「SONY」へ 家電イメージの一新狙う

ITジャーナリスト 小池 良次(Ryoji Koike)

ソニーは再び「驚きと感動」を与える企業になれるのだろうか――。国際家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」の基調講演で平井一夫社長は、革新的なサービスや製品を創造する企業に同社を生まれ変わらせる決意を改めて宣言した。

あえて製品は出さずにコンセプトで語りかける演出は、家電メーカーのイメージを払拭し新市場を求めて自由に事業を展開する多国籍企業「SONY」のイメージを意識したものだった。だが、イメージ戦略に終始した内容からは、テレビやカメラ、パソコンなど既存製品の苦戦をどう乗り切るかという具体的な解は伝わらず不満も感じられた。

停滞と再生を自分の経験で説明

平井氏の講演は「僕は好奇心の旺盛な子供だった。いつも新しいことに心を躍らせていた」と、まるで芝居の最初のような語りで始まった。その後、一世を風靡したウォークマン、新しい音楽の世界を切り開いたCDプレーヤー、そしてゲーム業界を驚かせたプレイステーションなどソニーの過去の成功例を並べる一方で、苦汁をなめたベータ・VHS戦争の失敗についても触れた。

その上で「そうした成功も失敗もソニーという会社が人々に驚きと感動を与える製品づくりをしているからだ」とまとめた。ここしばらく革新的な技術を生み出せていない同社の停滞を改めて振り返るとともに、好奇心旺盛な子供だった平井氏が今も同じ気持ちでソニーをリードしている姿を重ね合わせ今後の立て直しに期待をもたせた内容だった。

講演の中盤は「See Things Differently(違う角度から物事を見る)」と題してソニーの映像技術における先進性をイメージづけた。

ソニーのカメラは、単に風景を写し取るだけでなく、位置や色、被写界深度など様々な付帯情報を一緒に記録していると説明。そうしたデータを使って日頃見慣れた風景を見直せば「新たなサービスや驚きを生み出すことができる」と指摘する。

たとえば、肌の状況を的確に知るスキンケア分野や高速映像処理が必要なコネクテッド・カーにも応用できる。視野を広げれば農作物の収穫効率化にもつながるとした。

「SONY」の自負

こうした一連の説明にあたって製品のデモンストレーションをしなかったことは大きな決断だった。ソニーのような家電大手であれば、個別の製品について先進性を強調したいところだろう。だが、4K大型テレビが舞台に登場することもなく、平井社長は淡々と製品開発の背景を説明した。

ひとたびテレビなどの製品をステージに並べれば、同社を追い上げる韓国や中国メーカーと比較され「家電のソニー」になってしまう。製品が登場しなかったのは、これを避ける狙いで「家電のソニー」というイメージを取り払うことに腐心していた。

意地の悪い見方をすれば、それは弱点を巧みに避けたといえるだろう。だが、好意的にみれば家電という枠で戦うソニーではなく、新市場を求めて自由に事業を展開する多国籍企業「SONY」の自負を示したと解釈できる。

後半は、ゲームやインターネット放送といった様々な新サービスの発表が続いた。これは、将来的にはデバイスにとらわれず、コンテンツから端末までを幅広く「ワンソニー」として取り扱っていくとのメッセージだ。

テレビにもゲームを配信

まず"紙"をモチーフにした独特のグラフィック表現がかわいらしいプレイステーション・ヴィータ向け新ゲーム「テラウェイ~はがれた世界の大冒険~」を紹介した。

続いて、オンラインのネットワーク経由でゲームを配信する「プレイステーション・ナウ」を発表。プレイステーションなどのゲーム専用機だけでなく、スマートフォン(スマホ)やタブレット、一般のテレビなどを含めて幅広い端末をカバーする点が特徴だ。そのために各端末に合わせた大量のゲームライブラリーも用意する。同サービスは1月末に試験サービスを開始して、年内にソニーのスマート・テレビに展開する。

ライバルである米マイクロソフトのXboxはネットワーク・ゲームから、テレビ番組の配信などリビングの中核デバイスを指向する方向に進んでいる。今回のプレイステーション・ナウは、ゲームの多端末化というまったく異なる方向性の好対照な戦略だ。

インターネット放送についに参入

最も大きなニュースはインターネット放送への参入を公言したことだろう。講演では正式な名称などは発表せず、「クラウド・ベースのテレビ・サービス」とだけ紹介。夏から米国で限定的な商業トライアルを実施して年末に本サービスを予定しているとした。

米国ではHulu(フールー)やネットフリックス、ユーチューブ、アマゾン・インスタント・ビデオなどがインターネットによる映画・テレビ番組配信で成長を続けている。また、タイム・ワーナーなどのメディア制作会社も独自のインターネット放送を開始している。

急成長するインターネット放送の市場を狙ってマイクロソフトやインテルなどが参入を計画していた。だが、マイクロソフトは番組調達コストの高さから参入を断念した。インテルもパートナー探しがうまくいかず技術プラットフォームを米ベライゾン・コミュニケーションに売却した。

そうした状況下で、ソニーがインターネット放送の開始を宣言したインパクトは大きい。家電のソニーではなく、ハリウッドのソニーが同ビジネスを始めると考えたほうが自然かもしれないが、講演では同社が提供するスマートテレビやゲーム機など多彩な端末に配信するとしている。

ユーモアたっぷりの仕掛け

今回の講演は舌を巻くほど計算されていた。

それはバックスクリーンのエピソードにも見えた。講演が始まる前に舞台後方のスクリーンには多数の灰色の点が映し出されていた。

写真を撮って拡大してみると、なんと平井社長が話す講演内容が読めないほどの小さな文字でつづられていたのだ。

これは「来場者の誰かが見つけて驚くだろう」と平井社長が仕掛けたユーモアたっぷりの謎に違いない。たぶん、今回の講演には、それ以外にも宝探しのように様々な仕掛けが潜んでいたのかもしれない。

小池良次(Ryoji Koike)
 米国のインターネット、通信業界を専門とするジャーナリストおよびリサーチャー。1988年に渡米、93年からフリーランスジャーナリストとして活動している。サンフランシスコ郊外在住。主な著書に「クラウド」(インプレスR&D)、「クラウドの未来」(講談社新書)、「NTTはどこへ行くのか」(講談社)など。

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