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IT革命から20年 どうなるネット社会の未来

編集委員 関口和一

「IT(情報技術)革命」を起こしたインターネットが広く一般に使われるようになって20年。そんな節目の年が2014年だ。ブラウザー(閲覧ソフト)を世に広めた今はなき米ネットスケープ・コミュニケーションズも、電子商取引(EC)の可能性を開いた米ネット通販大手アマゾン・ドット・コムも、ちょうど20年前の1994年に誕生した。

以来、モバイルやクラウドコンピューティングなど様々な技術革新を経て、今やネットは我々の生活に欠かせない社会インフラとなった。過去20年にわたるネットの歴史を振り返りながら、今年の技術トレンドがどうなるのか動向を占ってみたい。

国際公約になった4K・8Kテレビ放送

2014年に注目されそうな技術やサービス
ARネットと現実を結ぶ拡張現実
BYOD個人所有の端末を組織で使う
ビッグデータ大量の情報を商品開発などに役立てる
IoTモノや機械とネットを結ぶ
O2Oオフラインとオンラインを結ぶ販促
SDNソフトで定義するネットの仮想化技術
ウエアラブル身につける新しい端末
4KテレビHD画像の4倍の解像度を持つ映像
3Dプリンター手軽に立体物を作る工作機械
スマホ決済スマホで行うカード決済

IT分野に影響する14年のメーンイベントは、6月に開幕するサッカーのワールドカップ(W杯)ブラジル大会だ。総務省やNHK、民放各社は高精細の4Kテレビ放送の実用化に取り組んでおり、この大会で初めてCSによる4Kの試験放送を実施する。11年7月に地上デジタル放送への移行を終えてからわずか3年。新しい4K対応テレビを普及させられるか不安はあるが、今年の夏に向け4Kが大きな話題になることは間違いない。

総務省は「東京五輪」が開催される2020年までに、4Kテレビ放送とその4倍の解像度を持つ8Kテレビ放送の商用化を国策に掲げる。フルハイビジョン映像の16倍の解像度を持つ8K放送はもともとNHKの放送技術研究所が研究目的に開発してきた技術。東京五輪の開催が決定したことで、4K・8K放送の商用化はいわば日本の国際公約になった。

課題は新しい放送の受け皿を今後どうやって整備していくかだ。総務省はブロードバンドでオンデマンド映像配信が普及した結果、需要が減少したCS多チャンネル放送のテコ入れに高精細放送を使いたいようだ。次の段階として4K・8K放送をBS放送の新たなキラーコンテンツサービスに育てていくシナリオを描いている。

しかしこうした高精細放送は受信料で成り立つNHKでは成立しても、新たな広告収入が見込みにくい民放には制作コストの増加要因でしかない。4Kテレビを実現するには有料課金がしやすいネット配信も検討する必要があり、かつての「通信と放送の融合」問題が再び大きなテーマになるだろう。

4Kを含め今年注目されそうな技術やサービスは10種類あると考える。まずは新しいユーザーインターフェースとしての「AR(拡張現実)」技術、身につけて使える「ウエアラブルコンピューター」だ。ネットワーク分野ではソフトウエアでネットワークの構成を柔軟に管理できる「SDN(ソフトウエア・デファインド・ネットワーク)」や、個人の携帯端末を組織内に持ち込んで使えるようにする「BYOD」などの技術が注目されるに違いない。

さらにスマートフォン(スマホ)や様々なセンサーから得られる膨大なデータをマーケティングや商品開発などに生かす「ビッグデータ」も、昨年に引き続き重要なテーマとなろう。

機械同士がもっとつながる

人間同士のコミュニケーションだけでなく、機械と機械、モノとモノが様々なデータをやり取りする「IoT(インターネット・オブ・シングス)」も大きな流れとなる。米シスコシステムズなどがアピールする「IoE(インターネット・オブ・エブリシング)」や一時日本で話題になった「M2M(マシン・ツゥー・マシン)」も同様なコンセプトである。

ビッグデータやIoTが注目される理由は、ゼネラル・エレクトリック(GE)など米国の製造業がインターネットの技術に大きく傾斜してきたからである。GEは航空機のエンジンや医療機器などから集まる大量のデータをもとに、製品の効率性や耐久性などを高めるサービスを確立しようとしている。航空機のエンジンは1回の太平洋の横断で10テラバイトもの情報をもたらすという。「ものづくりの製造業から、データ分析の情報企業へと脱皮ができる」とGEのソフトウエア子会社で最高マーケティング責任者(CMO)を務めるジョン・マギー氏は指摘する。

忘れてならない存在が、ネット上の顧客をオフラインの店舗に誘導する「O2O」というマーケティング手法だ。スマホやタブレット(多機能携帯端末)などモバイル技術の発達が新しい売り方を可能にする。全地球測位システム(GPS)を販促に生かす「LBS(ロケーション・ベースド・サービス)」というキーワードも今年よく耳にしそうだ。

インターネットがサイバースペース(電脳空間)と現実空間とを結びつける点では、3D(3次元)プリンターの広がりも見逃せない。3Dプリンター大手、ストラタシスのデイビッド・ライス最高経営責任者(CEO)は、「製造業の分野に新たなインターネット革命をもたらす」と強調する。ネットと親和性の高い3Dプリンターの技術がものづくりの製造工程を大幅に短縮し、個人のクリエーターに新たな活躍の場をもたらすようになる。

さらにもう一つ。小さな読み取り装置をつけたスマホをクレジット決済端末にしてしまう「スマホ決済」も躍進しそうだ。この分野で先行した米スクエアはすでに米国で400万店近い加盟店を獲得。年間の決済金額は200億ドル規模に達する。日本でも三井住友カードがスクエアに出資して国内でサービスを開始しており、楽天や米ペイパルなど4社がサービスに乗り出している。

日本はクレジット決済比率が低い特異な市場。手軽にカードで支払えるスマホ決済が今後広がれば、「スイカ」や「楽天Edy」など電子マネーと並ぶ新たな電子決済の手段として急速に社会に浸透しそうだ。

米調査会社ガートナーは例年、IT分野の新技術が実際にどう浸透していくかを表す「ハイプ・サイクル」という分析予測を発表している。「ハイプ」とは英語で「誇大宣伝」という意味。どんな技術でも最初は大きな期待を集めるが、利用が進むには時間がかかり話題性を失っていく傾向がある。そこで技術に対する期待値を山線のように描いたグラフだ。

ガートナー日本法人が昨年10月に発表した「日本におけるテクノロジーのハイプ・サイクル(2013年)」によると、「ビッグデータ」や「3Dプリンター」は期待値が頂点にある。「クラウドコンピューティング」はもはや下降局面にあるが、それは話題先行ではなく着実に浸透しつつある状況を示している。「ビッグデータ」や「3Dプリンター」は今年、誇大宣伝の段階から実用化の局面に移っていくことが予想される。

ビジネスモデルは4年周期で変わる

20年の歴史を持つネットの世界は、一本調子で伸びてきたわけではない。ハイプ・サイクルと同様、期待と落胆が常に入れ替わり時間を追う中で巨大な市場に育ってきた。上昇局面と下降局面を図式化すると、オリンピックと同じほぼ4年周期のサイクルが描ける。ネットスケープやアマゾンが誕生した94年からITバブルが崩壊する2000年までが最初の上昇局面。その後バブル崩壊に伴い下降局面に入り、04年に米グーグルが上場すると再び上昇局面に転じている。

なぜ上昇に転じたのか。ひとつはマネタイズ(現金化)が難しいといわれたネットの世界に、グーグルが検索連動型の広告モデルを持ちんだことが大きい。新たな収益モデルが描けるようになったのだ。

クラウドや仮想化技術の登場で、システム構築にかかるコストが激減したことも見逃せない。ウェブサーバーの構築費用や運用コストが下がれば、膨大な情報を扱ってもシステム負担を抑えられる。「CGM」や「UGC」と呼ばれる利用者発の情報を新たなコンテンツとして使い、そこに検索連動型広告を組み合わせた「Web2.0」と呼ぶ新たなビジネスモデルも花開いた。

08年の「リーマン・ショック」でIT市場は一時、下降局面に入りかけた。救いの神となったのが米アップルの「iPhone」に象徴されるスマホの登場である。膨大な情報を蓄積できるクラウドとスマホが連動することで、ITのパラダイムは次の段階へと移ることができた。

幸運だったのは「LTE」など超高速モバイル通信の登場によって上昇局面が続いたことである。ネット上のビジネスモデルは通信インフラに合わせて発展してきた。ダイヤルアップしかなかった草創期にはネット通販が唯一のモデルだったが、ブロードバンドで常時接続が可能になると企業と代理店と利用客をつなぐ旅行予約など一気通貫型モデルが登場した。モバイル技術が登場すると、今度はソーシャルメディアや機器同士をネットでつなぐ「M2M」など新しいモデルが生まれている。

ネットの歴史を踏まえて展望すると、14年のIT市場は登場済みの様々な技術が本当の意味で普及段階を迎える。車の自動運転やスマート住宅など、生活基盤の中にネットが入り込んでくるのはその象徴だ。もちろんセキュリティーやプライバシー保護など新たな課題も出現するが、総じていえば大きくネット社会が開花する年になるはずだと信じている。

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