/

「O2O」で異種格闘技バトル 姿表す未来の買い物

買い物のお供にスマートフォン(スマホ)を――。通信各社がショッピングセンターなどと組み、売り場で来店客にスマホやタブレット(多機能携帯端末)を使ってもらう取り組みを広げている。スマホにクーポンなどのお得情報を配信し、購入機会を増やすのが狙いだ。インターネットでの情報発信を店舗への集客につなげる手法は「O2O(オンライン・ツー・オフライン)」と呼ばれ、スマホやタブレットの普及で関連市場は急成長するとみられている。通信各社は新しい収益源に育てようと知恵を競い合っている。

イオンが開店した巨大モールで全面採用

タブレット片手にショッピング。そんな姿が将来当たり前になるかもしれない。イオンリテールが20日に開店した総合スーパー(GMS)「イオン幕張新都心店」(千葉市)は、様々な通信サービスを活用した新しい買い物の実験場だ。店頭には40台のタブレットを用意し、店員が接客に使ったり顧客に無料で貸し出したりする。タブレットはイオンのネットショッピングと連動し、店頭にはない商品を探して注文できる。注文した商品は後から自宅で受け取ることが可能だ。顧客の希望に応じたお薦め商品をタブレット画面に表示する機能も盛り込んだ。当面ワインやベビーカーなど分野は限られるが、順次商品数は拡大していく。

タブレットや自分のスマホのカメラで商品などを撮影すると、クーポンや関連情報を入手できる仕組みも取り入れた。「撮って!インフォ」という専用アプリ(応用ソフト)をダウンロード。その上で例えば店内の自動販売機で飲み物を買うと、「クーポンを獲得!」と自販機にクーポンの絵柄が表示される。アプリを起動させたままカメラでこの絵柄を撮影し、店内にある読み取り機にスマホやタブレットを持ち込むと紙のクーポンが発券され新商品などと交換できる仕組みだ。食品の棚にあるポップを撮影するとお薦めレシピも入手できる。

通信インフラの整備はソフトバンクテレコムとヤフーが担った。アプリ開発などを請け負ったほか、店内でタブレットやスマホを円滑に使えるようにするため、公衆無線LANの「Wi-Fi(ワイファイ)」基地局もスーパー内に整備した。ソフトバンクテレコムやヤフーは、通信やネット関連サービスの導入に積極的なイオンと組んで実績を積み、他社へも広げていこうとしている。

イオンはこうしたO2Oの取り組みを、インターネットと実店舗を融合させる「オムニチャネル」という言葉で定義した。米アマゾン・ドット・コムや楽天などネット通販に対抗するため、今後全社的に広げていく戦略だ。スマホで撮影した商品を即日宅配するサービスなども計画中で、イオン幕張新都心店でノウハウを蓄積して他店舗へ広げていく。イオンリテールで営業企画本部長を務める森永和也執行役員は「アマゾンや楽天などと違い、実店舗を持つ強みを生かしたい」と話す。

衝動買いに着目したのはNTTドコモ。今年2月に始めたO2Oサービス「ショッぷらっと」は、消費者が加盟店舗に入店したり指定の売り場に来たりするだけで1~50円相当のポイントを与えるしくみ。ドコモのスマートライフ推進部の斎藤剛ビジネス基盤推進室担当部長は「(特定の店の固定客ではない)浮動層を加盟店に呼び込み、衝動買いを引き起こしたい」と話す。

「ヒカリエ」では入館と同時にポイント付与

東京・渋谷の商業施設「渋谷ヒカリエ」。スマホでショッぷらっとのアプリを起動して1階の入り口をくぐると、スマホ画面に「10star」と書かれた丸い値札を模したタグが現れる。starとはショッぷらっと上の仮想通貨の単位で、1starは1円に相当する。画面上のタグを指で押さえたまま下方向にスライドするとアプリのstar口座に10ポイントが加算される。たまったstarは商品券などに交換できる。

システムが利用者の入店を把握するしくみはこうだ。店は入り口など特定の場所に置いた装置から、人間の耳には聞こえない音を発する。スマホがマイクでその音を拾うと、その音の特徴から場所を特定。店が指定したstarをスマホに配信する。斎藤担当部長らは利用者の位置情報をつかむ技術として全地球測位システム(GPS)やWi-Fiなどの候補も検討したという。ただ装置を中心に半径10メートル程度の狭い範囲で利用者の位置を把握でき不正利用も防ぎやすいことから、音波を採用した。

ドコモは今年2月後半から東京都内でトライアルを行い、9月から全国での本サービスに移行した。これまでにそごう・西武、パルコや高島屋などが相次いで採用。加盟店は約900店、利用者は約50万人に達した。

「一円玉を積んで見せても誰も振り向かないが『ポイントをもらえるなら店に入ってみよう』という人は多い」と斎藤担当部長。こんな消費者心理を突き、店内に複数のstar配信スポットを設ける加盟店も多い。その1つ、西武渋谷店(東京・渋谷)は店内5カ所にスポットを設け、全部回るとボーナスポイントがもらえるようにした。ウオークラリー感覚で店内を回遊してもらい、途中で何か気に入ったモノを買ってもらう作戦だ。

25日までのクリスマスショッピング期間中には地域回遊型の来店促進策も展開した。渋谷地域にある加盟15店舗のうち5店舗を回るとボーナスポイントを与える。斎藤担当部長は「数百万円かけてチラシをまいても集客効果は見えにくい。ショッぷらっとで10starあげるだけなら、たとえ1万人が利用しても10万円ですむ。効率の良さは圧倒的だ」と優位性を強調する。

KDDI(au)もO2Oの実証実験をショッピングモールや地方都市で進めている。スマホのアプリを使い、商品情報やクーポンを配信、効率的な集客を目指す。「来訪頻度が高まるだけでなく、施設内の周遊性が高まる」。KDDIのライフデザインサービス企画部の鴨志田博礼部長はO2Oの可能性に期待を寄せる。

高まる地方活性化への期待

今年5月から大日本印刷や三井物産、東急モールズデベロップメント(東京・渋谷)などと連携し、東京都町田市にあるショッピングモール「グランベリーモール」で実証実験を行い、その効果を確認できたという。店舗の一押し商品情報やクーポンなどを配信するアプリを利用する人は、使っていない人に比べ来訪頻度が1.6倍に、滞在時間が1.5倍になった。来店頻度や滞在時間が延びることは分かったので、実用化に向けては店舗だけでなく地域全体の活性化にまで結びつけられるかが今後の焦点となると考えている。

衣類から日用品、食料品など幅広い分野の店舗が集まるショッピングモールは、利用者にとって良く行く店舗と全く知らない店舗が混在する。お気に入りの店舗のクーポンをきっかけに、なじみのない店舗に利用者を誘導できる可能性が高まるとKDDIは踏んでいる。モール内ではWi-Fiを使い、利用者のそばの店舗情報を配信。利用者向けアプリ「すなっぴん」は情報を配信するだけでなく、モール内のイベントにも活用できるように改良を加えた。実証実験を「たまプラーザテラス」(横浜市)でも始め、2014年中にも実用化を進める。

KDDIは都市型のショッピングモールに加え、地方都市での地域活性化にもO2Oを活用する取り組みを進めている。路線バスやスーパーなどを傘下に持つ両備ホールディングス(岡山市)と組み、11月に地域密着型O2Oの実証実験を始めた。路線バスの運行情報を配信するアプリ「まゆせチャンネル」を核に、バス車内のモニターを使ったデジタルサイネージ(電子看板)に、路線沿線のスーパーや飲食店などの情報を配信中だ。

小規模な店舗でもタブレットを使い、クーポンやセール情報を簡単に配信できる仕組みとした。地域住民の足となる交通インフラを中心に、地域の商業全体を盛り上げようと試みている。

市場調査会社のシード・プランニング(東京・文京)によると、スマホ向けO2Oサービスの市場規模は2012年の260億円から20年には2360億円へと9倍に成長する見通し。ウェブ上の広告やクーポン、メールマガジンなど多様なサービスの拡大が見込まれている。ただWi-Fiなどの通信インフラの整備をどのように負担し収益をどう分かち合うかという課題は残る。通信・小売り各社ともに模索が続きそうだ。

(産業部 川上尚志、小谷洋司、川名如広)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン