「幽霊は脳で見る」 超常現象の不思議
日経サイエンス
幽霊や超能力といった科学的に説明できない不思議な現象を実際に見たと思ったり、信じたりする人がけっこう多い。これはその人の考え方に問題があるからではなく、人間の脳がもともと超常現象などを見るようにできているためらしい。

ポテトチップスやトーストが人間に
限られた情報から素早く結論を引き出すという、生物としての生存に不可欠な脳の働きによって、時に存在しないものを誤って検出してしまうことがある。
代表例が、顔の検出だ。ポテトチップスにイエス・キリストの顔が見えたとか、トーストに聖母マリアやマザー・テレサの顔を見たという人がいる。なぜか。
顔の認識は生きていくうえで極めて重要で、顔に表れた非友好的な表情に気づかないでいると重大な危険を招きかねない。脳のかなりの部分が顔を見分けて特定する処理に充てられていることが脳画像研究からわかっている。
人によってはこのシステムが過剰に働いて至る所に目や口が見えてしまう。心霊写真などはこの認知傾向によって部分的な説明がつく。
また、人間が日常生活で他者と関わっていくには、相手の意図を理解することが不可欠だ。他人の行動の背景にある理由を検出する脳領域があるために、多くの人はまるで意味のない刺激についても、そこに人間の行動に似たものを見いだしてしまうことがある。「代理検出装置」と呼ばれる仕組みで、これが幽霊の存在を信じることにつながっている可能性がある。
体験しやすいのは右脳派
スイスのチューリヒ大学病院の神経心理学者ブルッガーは、超常現象を体験したと思い込む効果の多くが脳の右半球に関連していることに気づいた。

人間の脳は左右の半球に分かれており、右脳は顔認識やある種の創造的思考、視覚的イメージ、音楽などに秀でている。
左右の脳のどちらが優勢かを判別するテストに、右の図の2つの顔のうちどちらが楽しそうに見えるかを問うものがある。
図Aの顔は向かって右半分がほほ笑んでおり、図Bでは左半分がほほ笑んでいる。人間は画像をとらえた目とは反対側の脳半球を使ってその視覚情報を知覚しているので、図の左半分の情報は右脳に、右半分の情報は左脳に入力される。右脳が優勢な人はこの顔の左半分の知覚に強く影響されるだろうから、図Aよりも図Bの顔をより楽しそうに感じると考えられる。
ブルッガーはこのタイプのテストを数百人の被験者に実施し、超常現象を信じる度合いを自己申告してもらった。超常的な体験をしたことのある人々は右脳の優勢を示すテスト結果になる傾向があった。
(詳細は25日発売の日経サイエンス2月号に掲載)