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アップルが選ぶベスト国産アプリ 開発者の心意気

国産のスマートフォン(スマホ)やタブレット(多機能携帯端末)向けアプリが着々と質を高め、新しいファンの心をつかんでいる。米アップル日本法人が例年選ぶ年間で最も優れたアプリは、今年は体感型ゲームや資産運用ソフトなどが受賞した。いずれも従来にない直感に訴える斬新な操作性に特徴がある。「ベスト」の称号を得た開発者たちの心意気を聞いた。

家庭ゲーム機と遜色なし、セガの体感ダンス

タブレット向けゲーム部門の最優秀アプリはセガの子会社が開発した体感ゲーム「GO DANCE(ゴーダンス)」が選ばれた。事業を統括するセガネットワークスの岩城農執行役員(左)と開発の責任者である土屋薫リサーチャー(右)

「利用者が目にした瞬間、心が高ぶる感動を届けたかった。それが創業50年を超えるゲーム会社の努め」。セガのネット事業を担う専門子会社セガネットワークス。岩城農執行役員は「GO DANCE(ゴーダンス)」を開発した経緯をこう語る。本ソフトはアップルが表彰する「Best of 2013」のうち、タブレットiPad向けでゲーム部門の最優秀アプリに選ばれた。「ベスト」の称号が付くのはiPad向けとiPhone向けでそれぞれ全体部門とゲーム部門で1本ずつだけであり、アプリ開発者にとっては栄誉あるものだ。

ゲームの内容はiPadやiPhoneの画面上でアバター(分身)が踊り、それに合わせて利用者も踊ると採点される体感型。用意する楽曲は流行のダンス音楽を中心に20曲以上あり、ネットを通じて友人と点数を競うこともできる。

ゴーダンスの先進性は、高い精度で体の動きを読み取れる点にある。iPadなどに付いたカメラを使って、毎秒13回以上利用者のポーズをスキャンする。1回当たりで調べるのは体の9点の位置。つまりアバターと同じポーズをいかにタイミング良く続けているかを刻々とチェックされ、その結果が採点されるわけだ。

モーションキャプチャー技術で定評のあるイスラエルのエクストリームリアリティ社の協力を得て開発。iPadを机に置く高さや角度の違いも吸収し、どんなシーンでも高精度にスキャンできるようテストを繰り返して完成にこぎ着けた。「明るいビーチでも暗いクラブでも、なんら問題なく遊べる」(岩城執行役員)

4月以降だけで19本ものスマホ向けアプリを投入したセガ。大半はソーシャルゲームで売り上げも好調だ。ただゲーム会社だからこそできる新しい価値を提供しないままでいいのかとの思いが常にあった。「世界中の人々がこぞって手にするデバイスで老若男女問わず笑顔で遊べるゲームはなにか。考えた末にたどり着いたのがダンスゲームだった」(岩城執行役員)。

iPadのカメラが体の9点の位置をスキャン。これを毎秒13回以上と超高速に実行できるようにした点に特徴がある

本アプリは「アンドロイド」には対応していない。カメラなどを酷使するため家庭用ゲーム機と同じようにユニバーサルに統一された機種でないと同等の楽しさを再現できないと考えたためだ。

実際に遊んでみる。スタートボタンを押し楽曲を選ぶと、カメラでとらえた自分の姿が映し出される。人型の枠に合うように立ち位置を移動すると、モーションキャプチャの精度を高める微調整が瞬時に完了。すぐにゲームが始まり後は踊るだけ。画面左に自分の踊る姿がミニアバターとして表示されるのだが、これが驚くほど正確かつリアルタイムに再現されている。踊っているだけでも楽しいし、結構良い運動になる。

アップルのセットトップボックス「AppleTV」との連携機能があるというので、画面をテレビに映し出してみた。大画面で遊んだ感想は、家庭用ゲーム機の体感ゲームと遜色ない楽しさがあるということ。パーティーやキャンプでも大いに盛り上がるのではないだろうか。

人気ロックバンドがライブでも使って大盛り上がり

遊び方は簡単。画面に現れたアバター(分身)に合わせて踊るだけ。最後に採点される。セットトップボックス「AppleTV」があればテレビに映し出すことも可能だ

開発を担当した土屋薫コンテンツリサーチャーによれば「モーションキャプチャーの精度はXBOXなど家庭用ゲーム機とほぼ同程度。急速に向上したA7などアップル自社開発のプロセッサー(演算処理装置)やカメラの動画機能の性能に支えられてる部分が大きい」と語る。一人でも多くの人に遊んでもらおうと、iPad2など性能が低い旧製品にも対応させた。最新機種と変わらないスピードを実現するため、開発には苦労が絶えなかったという。

ゴーダンスの価格は200円。有料課金モデルを採用し、ゲーム内で様々な仮想アイテムを買うと楽しみが広がる工夫を設けた。ダンスが上達するとたまる仮想通貨で支払うこともでき、楽曲や背景、アバターの服装などさまざまなアイテムを品ぞろえた。

野心的な取り組みもある。アップルと連携し、音楽配信サイトiTunesストアに専門コーナーを用意。ゴーダンスで採用している楽曲を目立つように紹介し、ゲームを知らないiTunesストア利用者をゲームの世界へ引き込む導線とした。逆にゲームで曲に親しんだ利用者には楽曲購入を促す目的もある。

一歩進めてアーティストとのタイアップも始めている。日本人ロックバンド「MAN WITH A MISSION」(MWAM)と組み、彼らの特徴であるオオカミのコスチュームやオリジナルの背景画面、楽曲をひとまとめにしたパック型の仮想アイテムをゲーム内で販売。購入するとiTunesストアでMWAMの楽曲が手に入る特典もある。

ゲーム内で、楽曲や背景、アバターの服装様々な仮想アイテムを買うことができる。画面はロックバンド「MAN WITH A MISSION」のスペシャルアイテム

MWAMは自分たちのライブでもゴーダンスを活用しファンを喜ばせた。スクリーンにゲーム画面を映し出し再生。同時に自分たちも演奏するので、ファンは体も動かして会場全体が一体になる新しいライブの楽しさを味わうことができた。「現在、国内外の複数のアーティストと交渉中。宣伝の場としてもファンとの絆を作る場としても使ってほしい」(岩城執行役員)。

今後は海外展開に力を入れる考えで、年明けにもアプリの配信先を現在の10カ国から155カ国にまで広げる計画。国境を問わず若年層に支持されるダンスカルチャーの波に乗って、直感的に場所を選ばず遊べる国産のゴーダンスが広まってほしいと岩城執行役員は目を輝かせる。

iPhone向けで「今年のベスト」に選ばれたのが資産運用ソフト「Moneytree(マネーツリー)」。操作性の良さに加えてセキュリティへのこだわりが評価されたとみられる。写真はマネーツリーのポール・チャップマン社長

iPhone向けで「今年のベスト」を受賞したのが資産運用ソフト「Moneytree(マネーツリー)」だ。

手掛けたのはオーストラリア出身のポール・チャップマン氏。18年前に来日し、高校と大学と日本で過ごした同氏は12年に起業の場として縁深い日本を選び、マネーツリーを設立。「ただの家計簿ソフトは作りたくなかった。お金のアシスタントになってくれる賢いアプリとして考え出したのがこのアプリ」(チャップマン社長)。わずか8人のIT(情報技術)ベンチャーは7つの言語が飛び交う国際的な会社だ。

初のプライバシー認証付き資産運用ソフト

特徴は、銀行やクレジットカード会社など金融機関にある自分の資産の情報を呼び出して一元管理できること。いちいち各社のオンラインバンキングのサイトへアクセスせずに、口座の残高や利用状況を一目で調べられる。同様の機能を持つアプリはほとんどなく、その先進性がアップルの目に止まった。

人工知能(AI)を活用し、取得した各取引データを適切なカテゴリーに自動分類する工夫もある。例えばセブン―イレブン・ジャパンの店舗でクレジットカードで買い物すると勝手に「コンビニ」に分類してくれる。蓄積した情報を分析して消費の傾向を知らせるほか、クレジットカードの支払日や電子マネーを最後にチャージした日も分かる。もちろん総資産やカテゴリー別の集計なども調べられる。現在約100社の金融機関に対応しており、月内に500社へと一気に拡充する。

実際に使ってみると、開発に4カ月もかけたという初期設定の画面は金融の知識がなくても簡単に進められる。各金融機関との連携はあっという間に完了する。ゴーダンス同様、直感的でシンプルな操作性が利用者の支持を集める重要な鍵であることを実感した。

「今年のベストに選出されたのは、セキュリティへのこだわりも評価されたのではないか」(チャップマン社長)。同社は一般社団法人日本プライバシー認証機構が提供する制度「TRUSTeマーク」に対して審査を依頼。個人情報の管理が安全にできていることを証明する認証マークを、スマホ向けの資産運用ソフトとして初めてマネーツリーは取得した。同マークはヤフーなども取得済みだ。

銀行やクレジットカード会社などさまざまな金融機関と連携し、資産情報を一括管理できる。人工知能(AI)でカテゴリーの分類を自動化する工夫がある

安全安心に対するこだわりは機能の実装方法のそちこちに垣間見ることができる。たとえば認証。金融機関の多くは、口座履歴を取得するための1段階目と、送金を行うための2段階目の認証を分けることで安全性を高めている。チャップマン社長は「2段階目の認証に必要な情報はアプリでは扱わない。あくまで情報を見るのが目的だから。2段階認証に非対応の金融機関の情報は取得しない」と語る。たとえスマホを紛失して盗まれても、自分のお金が勝手に送金されることはあり得ないと主張する。

本アプリも「アンドロイド」版が未提供。一定レベル以上の安全性を担保できないと考えたためだという。「審査されないアプリでは、ウイルスや不正な情報取得などの心配がないことを利用者に理解してもらえない」(チャップマン社長)

今後は企業の経費管理を踏まえた機能や夫婦が共同で使える機能を加えるほか、iPadへの対応などを進めていく。「最高レベルの安全性を兼ね備えた資産運用ソフトは世界に通用するはず。来年にも海外展開を開始する」(チャップマン社長)と鼻息が荒い。

11月には米電子決済大手ペイパル日本法人の元代表のジョナサン・エプスタインが会長に就任した。三井住友ファイナンス&リースや米マスターカード日本法人の元役員もアドバイザー役などとして参加してもらい、経営面でも盤石の体制を整える。

プレゼント販促で支援するアップル、19日までの無料コンテンツも

アプリ販促を目的にアップルが26日に開始するのが「12DAYSプレゼント」キャンペーン。毎日1種類の有料アプリなどをプレゼントする。先行して19日まで手に入る限定のスペシャルコンテンツも用意した

こうした開発者の熱い取り組みに応えようとアップルも動く。優れたアプリが必ずしも広く知られているわけではないからだ。26日から開始する「12DAYSプレゼント」キャンペーンは、日替わりで毎日1種類の有料アプリなどをタダでプレゼントして広く使ってもらおうというもの。専用アプリを入手するとキャンペーンに応募できる。

キャンペーンに先駆けて19日まで限定のスペシャルコンテンツも特典として用意した。作家よしもとばななさんの短編集「HOLY(ホーリー)」の電子書籍版がそれ。「過去の作品で唯一の絶版作品。手に入れたいとの問い合わせが多く、いつも申し訳ない気持ちだった。今回デジタルの力を借りることで、刊行された当時のホーリーにもっとも近い形で再リリースできた」(よしもとばななさん)。電子書籍や音楽、映画などアプリ以外に幅広いコンテンツの配信を手がけるアップルならでは取り組みと言える。

先行特典を提供する作家のよしもとばななさん。絶版した作品をデジタルの力で復活させ、再発売を待っていたファンへのクリスマスプレゼントにしたいという

作家が率先して自身の作品を無償提供するのは珍しい。よしもとばななさんは「iPadは世界のどこにでも開く窓。最近は高精細液晶のおかげで、字の形などが本当に美しく表現される。紙の書籍と電子書籍の間にもはや差がない」と、あえて電子書籍で絶版の作品を現代によみがえらせた狙いを語る。無料にしたのは、長年HOLYの再発売を待ちこがれていたファンへのクリスマスプレゼントの気持ちだという。

スマホの普及とともに育った10代「ポスト・デジタルネイティブ」の子どもたちにとり、アプリと音楽、映画の間にもはや境目はない。すべてを消費するコンテンツととらえるこの世代には、12DAYSプレゼントやiTunesストアと連携するゴーダンスのように、アプリもコンテンツの一つとしてアピールするのは効果的な販促手法と言える。

その点では、コンテンツのごった煮を巨大な配信基盤でひとまとめに扱うことができるアップルは優位な立場にいることは間違いない。約47万5000種類のiPad向けを含め、約100万種類のアプリをそろえるアップルの配信サービス「アップストア」。開発者たちのたゆまぬ斬新なアプリへの挑戦という後押しを受けて、リンゴ印の生態系はまだまだ拡大していきそうである。

(電子報道部 高田学也)

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