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スマホでライブ「生鑑賞」 レディー・ガガも手軽に

音楽ライブを自宅のパソコンや移動先のスマートフォン(スマホ)へネットで生中継する動きが活発になっている。米アップルは9月、レディー・ガガやケイティ・ペリーら大物アーティストを含む約60組のライブを英国で開催。その模様は日本を含む世界100カ国へ同時に配信された。国内でも野外フェスなどを生中継する例が今夏相次いで話題を呼んだ。先進的なところでは、自宅のピアノを遠隔操作してアーティストの演奏をそっくり再現するヤマハのような取り組みも出てきた。

どこにいてもライブ会場の興奮を気軽に楽しめる「ライブ生中継」は、アーティストとファンの接点を濃密にする新しい試みといえる。音楽業界はCD販売や音楽配信が引き続き低調だが、IT(情報技術)の力とライブの魅力をかけ算することで再び成長路線へ転じる機運が高まる可能性がある。

アップルは毎年9月に無料提供、今年はガガなど

米アップルが9月に開催したライブ生中継イベントでは、初日にレディー・ガガが登場。全世界100カ国にその様子が生中継された

「大物アーティストが自宅に来てくれ、自分の部屋でライブを行ってくれたかのよう」。都内在住の宮本亜紀子さん(仮名、33)は興奮した面持ちでこう話す。洋楽ファンの彼女が大好きなレディー・ガガのライブがアップルの主催で9月1日に英国で行われた。スマホ「iPhone」やタブレット(多機能携帯端末)「iPad」などに専用の無料アプリ(応用ソフト)を入れライブの開催時刻に開くと、現地の生々しい映像が自宅などで視聴できたからだ。

「"ガガ様"のライブチケットは世界中どこでも入手困難なプラチナ級。それが争奪戦にも巻き込まれず会場に足も運ばずに日本の自分の部屋で手軽に楽しめるなんて」(宮本さん)。自宅と英国のライブ会場が一体になったような錯覚に陥り、一人でノリノリで大騒ぎしてしまったという。

アップルのライブ生中継イベント「iTunesフェスティバル」は今年で7回目の開催。同社の音楽配信サービス「iTunesストア」の宣伝を目的としたもので、現地ライブの入場もタダならスポンサーも募らない。無類の音楽好きで知られた生前のスティーブ・ジョブズ氏が音楽との出会いの場として始めた、全額アップル持ちだしの販促イベントなのだ。毎回1カ月間実施し、連日入れ代わり立ち代わりさまざまなアーティストが英国の会場で演奏を披露、世界にその様子が一斉に発信される。

「iTunesフェスティバル」は今年で7回目の開催。1カ月にわたって連日ライブが開催され、今年は約60組が登場した

過去に出演したのはアデル、コールドプレイ、リンキン・パーク、ポール・マッカートニー、オアシスなどそうそうたる顔ぶればかり。生中継を見逃しても、後日録画で楽しむこともできる。テレビにつなぐセットトップボックス「アップルTV」があれば、自宅のリビングルームで家族や友人と一緒に盛り上がることもできる。

今年参加したアイスランドのロックバンドのシガー・ロスはiTunesフェスティバルの意義を次のように語る。「たくさんの人にリーチできるしすごくクール。世界中の新しいファンに音楽を紹介でき最高だ」(メンバーのヨンシー・ビルギッソン)。レディー・ガガのように11月に発売する新譜アルバムを一足早くお披露目する例もあり、アーティストの側も全世界のファンとの絆を一夜にして深めることができる格好の場だととらえ始めている。

国内で開かれる音楽ライブの生中継を積極的に仕掛けているのがサイバーエージェントだ。1月に専門子会社アメスタ(東京・渋谷)を設立。「AmebaStudio(アメスタ)」の名称でサービスを展開している。男性ダンスグループのEXILEや人気女性ボーカルのSuperfly、浜崎あゆみ、アイドルグループのNMB48などを配信した実績がある。エイベックス・グループ・ホールディングスが主催する大型の野外フェス「a-nation」も中継。著名アーティストの場合、数万人がパソコンやスマホで同時視聴するなど人気を博す。

日本国内でもフェスなどの生中継相次ぐ

サイバーエージェント子会社アメスタは国内イベントの生中継に力を注ぐ。主に有料制でアーティストと収益を分け合う仕組みを導入。空き時間などに気軽にライブを楽しみたいライト層の取り込みに一役買っている

アメスタの場合、主に有料制で視聴する権利をチケットとして販売し、アーティストとの間で収益を一定比率で分配し合っている。谷口達彦社長は「有料で視聴したファンの約8割が当日チケットを買うケースもある。交流サイト(SNS)などで噂を聞きつけたファンが、その日の気分や時間の空き具合で気軽にライブの世界に飛び込んでくる」と語る。

7月に行われたアイドルグループNMB48の場合、チケット代は1000円。実際にライブのチケット代より安く設定し敷居を下げた。独自の仮想通貨で支払う仕組みで、ライブ会場となった東京・渋谷のNHKホールに足を運んだ客数と大差ない規模の視聴者がネット経由でNMB48に声援を送った。

ライブ生中継はアーティストにとっても魅力。大型会場を押さえるリスクを負うことなく、動員数を増やすチャンスを広げられるからだ。ファンにとってもあらかじめチケットを買って現地に足を運ぶ必要がなく、時間などに縛られずに済む。「ライトなファン層を取り込むのに一役買うもので、熱心なファンが集う実際のライブの需要を食うものではない」。谷口社長はこう分析する。

アメスタでは常設の専用スタジオを都内に設け、日常的にアーティストがファンと触れ合う場としても生中継を活用しようと力を注ぐ。ブログ「アメーバブログ」を使う芸能人約1万人に幅広く声をかけ、音楽アーティストだけでなく松坂桃李や溝端淳平ら若手のイケメン男性タレント、ハライチなどお笑いタレントにも生中継の門戸を開く。最近では毎日15組前後のタレントらがなんらかのイベントをスタジオから"生"で発信している。

アーティストが遠隔演奏してくれるピアノも登場

さらにネットの力を引き出し、究極のライブ生中継の姿を追い求める企業もある。それがヤマハだ。ピアノ事業部の上原春喜課長は「遠くのアーティストが弾いたピアノの動きをリアルタイムに自宅にお届けする。それもアーティストの微妙な指のタッチまで忠実に」と取り組みを説明する。スマホなどIT機器でなく自宅の楽器を活用することで、ライブ会場の演奏を一式丸ごと家庭に持ち込もうという斬新な取り組みである。いわばアーティストが遠隔で自宅のピアノを弾いてくれるイメージだ。

同社はネット連動が可能な最新型グランドピアノ「Disklavier」の開発に早くから取り組み、その過程でライブ配信のアイデアを思いついた。具体的にはハードとソフト、そしてネットを組み合わせてピアノ同士をネットでつなぐ。アーティストが弾くピアノから一般消費者が持つピアノへと演奏情報をリアルタイムに配信するものだ。

ヤマハは米国でピアノとピアノをつなぎアーティストの演奏を寸分違わず再現して自動演奏するサービスを5月に提供開始。ホームパーティーなどで盛り上がるとして好調に導入が進んでいるという

1月には著名歌手エルトン・ジョンを招き、その技術を世界にお披露目するライブを開いた。11カ国23カ所にネット対応ピアノを設置し、超一流アーティストの音色を「ライブ会場の最前列にいるがごとく」(上原課長)間近で聴けるとアピールした。日本でも六本木や銀座などの会場にファンが駆けつけ、本物そっくりの迫力ある音色が響き渡る様子に会場は大いに沸いた。

自信を深めたヤマハは5月に事業化し、米国のみだが「DisklavierTV」の名称で一般家庭向けのサービスを始めた。月額約20ドルで契約したDisklavierを持つ家庭に向けて、ピアノの演奏情報に加えてライブの模様を収めた動画もリアルタイムで届けるものだ。演奏情報と動画は同期信号でタイミングがぴったり合う工夫がある。「リビングの大型テレビやパソコンでライブを目で楽しみ、耳ではグランドピアノの生音を間近で堪能できる世界初のサービス」と上原課長は胸を張る。

仕組みはこうだ。Disklavierには光を使ったセンサーがそちこちに埋め込んであり、鍵盤やペダルなどの微妙な動きを逐次検知する。アーティスト側のピアノからこれをデータ化してヤマハ側に送信、それを契約者のピアノに向けて一斉送信している。自動演奏する側のピアノは、機械の制御に使われるサーボ機能によって鍵盤を微妙に調整しながら駆動。おかげで忠実にアーティストの演奏を再現できるという。

「自分で演奏はできないけれどホームパーティーなどで盛り上がるとしてDisklavierを買う人々が急増している」(上原課長)。生中継に加えて指定した時間に録画を中継するなど、連日何かしらのライブを自宅で楽しめるよう配慮した。動画を省き、演奏情報だけをラジオのように24時間365日受け取れる付加サービスもある。

ITとかけ算すれば日本人歌手は海外にも飛び出せる

ぴあによると、2012年の国内音楽ライブ市場は1916億円と前年から17.3%増え好調だ。動員数も13.2%増の2976万人。中でもけん引役を果たしたのがさまざまなアーティストの演奏を終日楽しめる野外フェスで186万人と39%増となった。音楽ライブなどの動向を調査している笹井裕子主任研究員は「2013年も引き続き好調で、前半の勢いが続けば12年実績を超えそうだ」とし、市場の盛り上がりは続くと見通す。

野外フェス「a-nation」など大型なものから小規模なものまで幅広くライブを手掛けるエイベックス・グループ・ホールディングスによると、13年7~9月期に開いたライブは全300公演で前年同期から90公演も増えた。売り上げも213億円と39.6%増と業績に大きく貢献した。

ライブに足を運ぶ人が増えている理由についてぴあの笹井研究員は次のように分析する。「東日本大震災を契機に人と人との心のふれあいが見直された。デジタル全盛の時代だからこそアーティストとの間、さらには同じ音楽を愛するファン同士がふれあう場としてアナログなライブはなにものにも代え難い価値があると感じ始めた」

CDなどの音楽ソフトの総生産金額はこの10年で3割も減ったのは紛れもない事実。しかしながらライブ会場に足を運ぶファンは減るどころか増えており、必ずしも「音楽離れ」が進んだ訳ではないのが今の音楽業界の正しい見方だろう。昨今映画館に生中継する「ライブビューイング」も人気を博し、12年の市場規模は50億円と10年から5倍に膨れあがった。それに加えて自宅のパソコンやスマホへ生中継する取り組みがここに来て活発になったことで、ライブこそがこれからの音楽産業の推進の鍵を握るのは間違いない。

米国では録画ながらライブ映像ばかりをスマホなどに配信する「Qello」のような専門サービスも登場し、毎月定額を支払えば見放題で楽しめる環境が一般的になりつつある。iTunesフェスティバルの成功で分かるとおり、革新的なサービスをアーティストがチャンス拡大ととらえればアジアなど世界のファンと接点を持つことはたやすい。

そういう時代だからこそITを道具として使いこなすことで、日本人アーティストたちが韓国勢も押しのけて当たり前に国境を越えてファンの支持を勝ち取ることは夢ではない。島国の中では大人気だが海外からはまったく存在すら知られていない歌手やバンドが大活躍する姿を1日も早くこの目で見てみたいものである。

(電子報道部 高田学也)

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