飲料は衝動買い? 計画買い? 意外な消費行動
編集委員 小林明

ジュース、お茶、お酒、水……。買い物に出掛けた際、皆さんなら飲料の種類、銘柄、サイズについての購入を、いつ、どんな状況で決めているだろうか?
日本コカ・コーラが興味深い調査をまとめている。
飲料はほぼ半数が衝動買い
2012年6月25日から7月8日までの2週間、全国のスーパー店頭で5159人(15~69歳)の買い物客を対象に調査したところ、あらかじめ種類や銘柄、サイズなどを決めていた「完全な計画購入」だったのは全体の42%にとどまり、事前に決めていたのと違う「計画以外の商品」を購入したのが9%、もともと買う予定はなかったが店頭で急に買う気になったという「非計画購入」が49%にのぼった。
つまり、全体のほぼ半数が衝動買いだったことになる。
これは飲料メーカーにとって大きな衝撃だったようだ。「テレビCMや広告などでいくら消費者の印象に商品イメージを刷り込んでも、肝心の売り場でのマーケティングを怠ったら、効果は半減する」(日本コカ・コーラ)ことを意味するからだ。
コンシューマーとショッパーの違いとは?
やや専門的な説明になるが、消費者全般のことを「コンシューマー」と呼び、店頭に出向き、実際に商品を購入する消費者のことを「ショッパー」と呼んで、マーケティング担当者は明確に区別している。
たとえば、いくら子どもが「あの銘柄のあのジュースを飲みたい」などと訴えても、実際に購入するのがお母さんだったら、必ずしも子どもが欲しい商品を選ぶとは限らない。また、いくら夫が「高級なプレミアムビールで晩酌したい」などと頼んでも、実際に店頭で買い物する奥さんが発泡酒を買い続けている限り、夫の願いはなかなかかなわない。

この場合、子どもや夫が「コンシューマー」、お母さんや奥さんは「ショッパー」ということになる。
あくまでも最終的な購買決定権を握っているのは「ショッパー」。
だから、メーカーがイメージ戦略でいくら「コンシューマー」の心をつかんでも不十分。売り上げの拡大を実現するには、「コンシューマー」だけでなく、「ショッパー」の消費行動も細かく分析する必要がある。

調査はさらに「ショッパー」の意外な実像を浮き彫りにする。「買い物の量」と「買い物の仕方」についての"法則"である。
ほぼ半数が7点以下のスモールバスケット
右の折れ線グラフは1回の買い物における購入点数とその全体に占める構成比を示したもの。最も多いのは1点しか買わなかった客で全体の約10%。続いて2点購入した客、3点購入した客と続き、グラフは右肩下がりの曲線を描いているのが分かる。
購入点数が7点以内の場合は「スモールバスケット」と呼ばれ、買い物全体のほぼ50%を占めている。購入点数が8~14点の場合は「ミドルバスケット」で全体のほぼ25%、購入点数が15点以上の場合は「ビッグバスケット」で、全体のほぼ25%を占めている。
つまり、購入者全体のほぼ半分は「スモールバスケット」。さらに「スモールバスケット」「ミドルバスケット」「ビッグバスケット」の比率はほぼ2:1:1。区分けの分岐点は7点、14点――という"法則"が成立しているわけ。
衝動買いを誘発する作戦とは?
「スモールバスケット」「ミドルバスケット」「ビッグバスケット」それぞれの買い物の仕方にも興味深い特徴がある。
店内の滞在時間、店内を回遊したエリア、日本コカ・コーラ製品1点あたりの平均単価を調べると、「スモールバスケット」の店内滞在時間は13.3分で「ビッグバスケット」のほぼ半分、「ミドルバスケット」のほぼ3分の2だった。

また「スモールバスケット」の回遊エリアは11.2%で「ビッグバスケット」のほぼ4分の1、「ミドルバスケット」のほぼ半分。「スモールバスケット」の日本コカ・コーラ製品1点あたりの平均単価は141.4円で「ビッグバスケット」や「ミドルバスケット」より1割ほど高いことが分かった。
つまり、「スモールバスケットの買い物は短時間で店内をあまり回遊せず、値段にそれほど敏感でない」(日本コカ・コーラ)という傾向が読み取れる。これを踏まえると、「メーカーとして狙うならスモールバスケットが効果的。通過ルートに効果的に商品を配置すれば、衝動買いが期待できる」という結論になる。

カギはショッパーの「通過ルート」
では、客はその飲料製品の購入をどこで決めたのだろうか?
それが分かれば、飲料メーカーが店頭で力を入れるべき「ショッパー」の通過ルートが見えてくる。
日本コカ・コーラが取引先のPOS(販売時点情報管理)データをもとに調べたところ、「定番の飲料売り場」が全体の72%、「催事売り場」が13%、「飲料外の売り場」が15%になることが分かった。
約3割が定番以外の売り場で購入している。「これは意外に大きな割合だ」(日本コカ・コーラ)。見方を転換すれば、定番売り場以外で飲料の売り上げを拡大できるチャンスにつながるからだ。
この15%の飲料外売り場について内訳を細かく調べると、「レジ前」が53.6%で最も多く、次いで「酒類売り場」が18.2%、「総菜売り場」が9.1%、「パン売り場」が7.3%、「菓子売り場」が6.4%などの順だった。
つまり、これが衝動買いが期待できる「ショッパー」の通過ルートということになる。
総菜、パン、菓子……クロス陳列で相乗効果
「こうした関連売り場にいかに飲料を置いてもらうかで売り上げは大きく変化する」。日本コカ・コーラは、「レジ前」で飲料のミニコーナーを積極的に展開する一方、「酒類売り場、総菜売り場、パン売り場、菓子売り場」では飲料と組み合わせた販売方法を小売店に働き掛け始めた。
後者は「クロス陳列」と呼ばれ、スーパーなどの関連売り場で、飲料コーナーが"飛び地"のように誕生している。「クロス陳列」の効果を追跡すると、総菜売り場では総菜の売り上げが2.7%増、パン売り場ではパンの売り上げが1.5%増、菓子売り場では菓子の売り上げが1.2%増となったという。

やはり多い「レジ前」の衝動買い
参考までに、レジ前での衝動買いの多さが分かる調査結果もあるので紹介しよう。
レジ前で飲料を購入した場合の内訳を調べたところ、あらかじめ種類や銘柄、サイズなどを決めていた「完全な計画購入」は33%にとどまり、事前に決めていたのと違う「計画以外の商品」を購入したのが13%、もともと買う予定はなかったが店頭で急に買う気になったという「非計画購入」が54%にのぼった。
記事の冒頭で紹介したスーパー店頭での全体の調査結果と比べると、レジ前での方が「非計画購入」が49%から54%に増え、衝動買いの割合が上がっているのが分かる。
忘れた、のどが渇いた、目立つ……
レジ前で飲料を購入した理由について客に尋ねると、最も多かったのが「買い忘れた時に買う」で19%、次いで「のどが渇いているから等」13%、「ついで買い等」13%、「おいしそう等」9%、「待ち時間に欲しくなる等」7%、「目立つから等」7%、「珍しいもの等」7%、「売り場に戻らなくていい等」6%など。
これらが「ショッパー」たちの衝動買いを生む要因になっているわけだ。

「ブランド、パッケージ、機材、価格、メッセージ、品ぞろえなど来店客が目にするすべての手段を駆使して、実際に来店して商品を買うショッパーに働き掛ける努力が必要だ」。日本コカ・コーラのマーケティング担当者はこう説く。
こうした消費者行動や消費者心理に着目した大手飲料メーカー各社は、全国のスーパーやコンビニエンスストアなどの店頭を舞台に、日夜、激しい販売合戦を繰り広げている。