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エイベックス、サムスン口説く 野望は「配信で世界へ」

エイベックス・グループ・ホールディングスが音楽制作・販売に依存した収益構造からの脱却を急いでいる。16日に発表した韓国サムスン電子とのパートナーシップでは、世界展開も視野に入れたスマートフォン(スマホ)向け音楽配信で手を組むことを発表。サムスンのスマホ「ギャラクシー」シリーズ専用サービスとしてまず国内で提供を始める。それを足がかりにアジアを中心に対象国・地域を拡大する計画だ。

最終的には世界で累計1億台以上販売したギャラクシーの全利用者を顧客として取り込むことを目指す。壮大なゴールを描くが林真司代表取締役チーフブランディングオフィサー(CBO)は「今回の提携は始まりにすぎない」と語り鼻息が荒い。

実はドコモとソフトバンクの動画配信ですでに実績

16日に韓国サムスン電子日本法人は都内でスマホ「ギャラクシー」などに関する記者会見を実施。エイベックス・グループ・ホールディングス林真司代表取締役CBO(右)が登壇し、新しい音楽配信サービスを発表した

サムスンが評価したのはコンテンツ調達力と配信基盤の技術力。エイベックスはここ数年で独自に音楽や映像の配信基盤を構築し、既にNTTドコモやソフトバンクから配信事業の運営を請け負った実績がある。それを武器に国内のみならず世界の配信基盤を一手に引き受けられれば、安定した経営の柱に育つ可能性が高い。今回世界屈指の携帯電話会社であるサムスンも味方につけたことで、同社は楽曲の提供や宣伝が中心だった従来の枠組みを離れ、新しい収益構造を持つ「ネオ・レコード会社」へと飛躍しようとしている。

名称は「GAmusic」。ギャラクシーシリーズ専用サービスで月額350円の有料。邦楽や洋楽などを幅広くそろえ聴き放題で楽しめる

エイベックスを突き動かすのは音楽産業に対する危機感だ。CDなど音楽ソフトの市場規模は1998年をピークに減少傾向が続く。アーティストの楽曲を作りCD店や配信業者に卸すだけではいずれ立ち行かなくなるとみる。活路を切り開くべく目を付けたのが、国境を越えて伸び盛りのコンテンツ配信を下支えする黒子役という立場である。

一方、激烈な端末開発競争を繰り広げるサムスンにとって、米アップルらに伍(ご)するために何よりほしいのがコンテンツ。アップルは音楽・動画配信の「iTunesストア」やアプリ配信「アップストア」を自ら提供することで独特の生態系を作り上げ、顧客を囲い込む。これまでの端末機能開発競争が一段落した今、強力な生態系つくるためにはコンテンツ配信のエキスパートを陣営に引き込まねばならない。安定した運営実績に加え顧客をひき付けるだけのコンテンツを豊富に調達できるエイベックスは、もってこいのパートナーだった。

配信基盤のさらなる拡大を目指したいエイベックスとサムソン。両社の思惑が一致したことでパートナーシップが実現した。

エイベックスがサムスン向けに開発したのは「GAmusic」。ギャラクシーの"G"とエイベックスの"A"が名称の由来である。料金は月額350円で聴き放題。何時間でも何曲でも追加料金が掛からない。

先端の選曲技術で差異化、開発は内製にこだわり

サムスン電子日本法人の石井圭介専務(右)は今後は動画配信でもエイベックスと協力関係を築きたいと語った

邦楽や洋楽問わず多彩な楽曲を品ぞろえ、同社が抱える倖田來未や浜崎あゆみらに加え、ほかのレコード会社からも人気アーティストの楽曲を広く集めた。本業では競合関係にある大手レコード会社のある幹部は「エイベックスさんは別の道を歩み始めた。販路が広がるなら大歓迎」と楽曲提供に至った理由を明かす。

エイベックスが工夫したのは利用者の好みを学習し次々と楽曲を選曲して自動配信する点だ。米国では1億6000万人以上が使うネットラジオ大手の米パンドラ・メディアらが導入し好評を得ている機能で、再生中の楽曲が好きか嫌いか画面のボタンを押して答えた結果を受けて、利用者が好きそうな曲を推測する。使えば使うほど精度が上がる仕組みだ。

好みを学習する音楽配信は、国内ではコンテンツ配信のフェイスが1月に開始した「FaRao」などまだごく少数。アップルも米国で先行投入した「iTunesラジオ」で導入したが、同サービスは日本では未提供だ。

具体的には、ラジオを聞くように40近いチャンネルのいずれかを選ぶと再生が始まる。チャンネルは「VocalSelecion」「RemixPARTY」など、利用者の好みや気分に応じて聴きたいジャンルを選びやすくした。「家族」「旅行」「楽しい」「静か」など曲を聴くシーンを指定しておくと、選曲時に加味する工夫も設けている。チャンネルは随時拡充していく方針だ。

記者会見ではスマホ「ギャラクシーノート3」と腕時計型端末「ギャラクシーギア」を1カ月間併用した女優の冨永愛さんが登場。生活が便利になった様子を語った

先端的なスマホ向けの配信技術を取り込むなどデジタル戦略を推進するため、実は提携に先立ってエイベックスはある企業を買収している。豊田通商らが出資していたETスクウェア(東京・渋谷)である。もともと自動車向けの音楽配信サービスを手掛けていた会社で、最近はスマホアプリの開発でも定評がある。

「迅速に配信を進化しアプリを機能強化するため、開発は内製にこだわってやっていく」(エイベックス)。今後はETスクウェアなどが持つ社内のノウハウを生かし、サムスンのスマホが持つさまざまなハードの仕組みを生かした新機能を開発していく予定だ。例えばスマホ「ギャラクシーノート3」では手書き入力した文字を認識できるが、曲名を手書きすると対象楽曲の再生を始めるというアイデアも考えられる。またギャラクシーノート3と連係動作する腕時計型端末「ギャラクシーギア」向けのアプリを提供。腕時計でスマホが再生中の楽曲を一時停止・早送りしたり、ギアのカメラで撮影した風景にマッチした曲を探すなどもできそうだ。

会見場にはエイベックスの音楽配信を含め、サムスンが目指す「ギャラクシー」の生態系を体験できるコーナーを用意。アップルに対抗するごとく、華やかな演出にこだわりをみせた

海外展開の開始時期は明らかではない。ただ水面下で着々と準備は進めているようだ。10月1日に「国際事業支援室」を立ち上げた。東南アジアでの事業展開を推進するシンガポールの子会社を通じて、配信だけにとどまらずさまざまな事業を今後海外で展開する予定だとみられる。

エイベックスに対しサムスン電子日本法人の石井圭介専務は「ぜひ、動画配信についても話をしていきたい」とラブコールを送る。これに対し「巨大な世界的な携帯電話会社のサムスンと組めるのは当社の配信事業拡大の最大のチャンス」(林CBO)と提携拡大に含みを持たせる。

変わる音楽配信の競争軸

2009年に脱レコード会社の道を歩み始めた同社。NTTドコモと共同出資会社をつくり動画配信「BeeTV」の運営を請け負ったのをきっかけに、配信基盤に必要なネット関連の技術を蓄え、映画会社らから映画やドラマを調達するパイプも構築した。11年にはスマホ版のBeeTVも開始し、合計で560万人を超える有料会員を集めた。そのノウハウが買われ、12年末にはソフトバンクからも配信基盤の運営を受注。「UULA」の名称で約60万人との契約をモノにした。

事業の好調さは決算の数字にも表れる。2013年4~6月期決算では売上高、営業利益ともに四半期ベースで過去最高を記録した。国内での足固めは終わったとみて、サムスンとのタッグで今度は世界への布石を打つ。

両社が組む意義は音楽配信においても大きい。ハードで力を持つサムスンのスマホの最新機能を生かす形で、ソフト・サービスで力を備えるエイベックスが先端的な使い勝手を考え出す可能性が開けるからだ。

これまで音楽配信会社は「楽曲の品ぞろえ」「料金」の2つを競争軸に切磋琢磨(せっさたくま)してきた。ハードとソフト、サービスを垂直統合でまとめ上げたアップルも、定額配信で急成長したパンドラ・メディアや英スポッティファイもその点では変わらない。サムスン・エイベックス連合が新手を繰り出せば、「未来的な機能」という新たな競争軸が生まれる。アップルのiTunesストアに対して革新を誘発すれば、次世代の波が押し寄せ音楽配信は次のステージへと導かれるだろう。

(電子報道部 高田学也)

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