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「自動運転」こそ日本の切り札 グーグルを恐れるな

編集委員 関口和一

最新のIT(情報技術)を使って車の安全運転や交通渋滞の解消などを目指す「ITS(高度道路交通システム)世界会議」が10月14日から東京ビッグサイト(東京・江東)で始まった。今回目玉となったのは車の自動運転技術や、交通情報などビッグデータの活用だ。こうした分野では最近グーグルなど米IT企業の躍進が目立っているが、展示会場を歩いてみると自動車分野を中心に培ってきた日本の技術力を垣間見ることができた。

グーグル参入で関心急上昇

日本の自動車メーカーで自動運転技術の開発にしのぎを削っているのが、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダの3社だ。トヨタは今年1月、米ラスベガスで開かれた国際家電見本市「CES」で新技術を披露。日産も今月初め、千葉・幕張メッセで開かれた家電見本市「CEATECジャパン」で自動運転のデモを紹介した。今回のITS世界会議ではホンダも小型車「フィット」をベースにした自動運転車を公開、大手3社が横一線に並んだ形だ。

米国でもゼネラル・モーターズ(GM)などが自動運転に熱心に取り組んできた。日本の自動車メーカー各社が自動運転に意欲を燃やし始めた背景には、グーグルの参入が見逃せない。グーグルの自動運転技術は世界の自動車業界のみならず家電やIT業界の関心を呼んでいる。刺激を受けたのは自動車王国、ドイツのメーカーも同様。ダイムラーは9月の「フランクフルト国際モーターショー」を前に最高級車「メルセデス・ベンツS500」をベースに開発した自動運転車を公開した。

ITSは「インテリジェント・トランスポート・システムズ」の頭文字をとったものだ。もともとは車の安全運転や渋滞解消などを狙いに技術開発が始まった。自動料金収受システム(ETC)の開発もITSの大きな成果といえる。世界会議はITSの普及を目的に1994年に自動車分野の技術者や行政責任者などがパリで集まったのが最初だ。翌年には横浜で第2回会議が開かれ、その際に日本側が提案した「ITS」の名称がそのまま海外でも使われるようになった。

実は車の自動運転はITSが当初から目指していたものではない。高齢者や身体障害者でも車の運転ができるようにとドライバーの運転支援技術の開発から始まった。自動運転といえば、むしろトラックなどの隊列走行技術の開発を意味した。大型トレーラーの代わりに複数のトラックを1人の運転手の操作のもとカルガモの行列のように一列に走らせられれば、安全面でも効率面でも大きなメリットが得られると考えられた。

自動運転が特に注目されるようになったのは、全地球測位システム(GPS)など様々な無線技術やセンサー技術、情報を遠隔で共有できるクラウド技術などが登場したためだ。そうした技術を組み合わせれば、無人でも運転できるようになる。もちろん車メーカーとしては無人走行を目指しているわけではないが、グーグルなどIT業界からの参入により車メーカーならではの技術力を示す必要に迫られたといえる。いわば売名的にも自動運転車をつくらざるを得なくなった。

被災地支援でビッグデータに脚光

ITS世界会議でもう一つ注目されたのがビッグデータの活用だ。日本では東日本大震災の際にカーナビのGPS情報を各メーカーが持ち寄り、どの道路が通行できたかをデジタル地図上に表すことに成功した。「自動車通行実績情報マップ」がそれで、被災地支援で大きく役立ったことからその後もビッグデータの活用に大きな関心が集まっている。

実はその「通行実績情報マップ」を作る際、メーカー間の情報共有の媒介役を果たしたのが、今回の世界会議の主催団体でもある民間組織「ITSジャパン」である。前身は第1回世界会議が開かれた1994年に自動車や電機メーカーなどが結成した「VERTIS(道路・交通・車両インテリジェント化推進協議会)」で、2001年にITSジャパンに再組織化した。海外では欧州に「ERTICO(エルティコ)」、米国には「ITSアメリカ」という姉妹組織があり、それぞれの団体が持ち回りで世界会議を開催している。

前回の日本での世界会議はITSジャパンの創設者で初代会長を務めた豊田章一郎トヨタ自動車名誉会長のお膝元、名古屋で2004年に開催された。今回はそれから9年ぶりの開催で、2020年の「東京オリンピック」開催が決まった後だけに、「日本の技術を世界に示す格好の場」(天野肇ITSジャパン専務理事)となった。特にこの9年の間に急速に広がったクラウドやスマートフォン(スマホ)、GPSなどの技術で得られる情報をビッグデータとして活用しようという狙いがある。

会場の展示でも来場者の関心を呼んだのが、三菱電機が開発した「モービルマッピングシステム(高精度GPS移動計測装置)」だ。グーグルは地図上のデジタル写真サービスである「ストリートビュー」のために写真撮影専用の自動車を開発した。三菱はレーザー光で道路や街の様子を立体情報として蓄積できる装置を車の屋根の上に配備した。ストリートビューは単なる写真だが、こちらは後で加工可能な3Dデータとして保存できるのが特徴。すでに商品化され「地図の作製にかかわる企業や行政などからの注文が多い」という。

一方、会場の各ブースで目立っていたのがアーケードゲームマシンのような大型のドライブシミュレーターである。地図データをもとに運転者が仮想の道路や街を運転できるようにしたもので、車や電装品メーカーだけでなく警察庁などでも使われている。ドライブシミュレーターにソフトを提供している設計ソフト会社、フォーラムエイト(東京・港)の武井千雅子副社長は「デジカメなどの写真画像があれば、簡単に3Dデータを作ることができる」という。もともとは土木・建設向けのソフト開発会社で、その技術をデジタル地図上の仮想建物を描くことに使いITS分野への参入を果たした。

自動車と家電業界は一致団結すべきだ

展示会場にはオランダの簡易型カーナビの大手、トムトムなど欧米や韓国、中国などの企業も多数出展していた。ただ東京開催ということもあり、今回は日本のメーカーや行政、大学などからの出展が質、量ともに群を抜いていた。スマートフォンやクラウドなどIT分野のソフトやサービスでは日本企業は米国や韓国企業の後じんを拝したが、自動車やものづくりに近いソフト技術ではまだまだ競争力を持っているといえる。

もう一つ日本の強みを挙げれば、島国という特殊な地理的要因から政府が全国に統一的にインフラ整備をしやすい面がある。国土交通省はすでにETCで使われている「DSRC(狭域通信)」と呼ばれる無線技術を使い、高速道路を中心に全国約1600カ所に「ITSスポット」と呼ぶ道路基地局を整備した。このサービスに対応したカーナビを使えば、見通しの悪いところでの進行方向の渋滞情報や最適な迂回ルート情報などを入手できる。道路から車に情報を得る通信技術を「路車間通信」と呼ぶが、この分野でも日本が世界をリードしている。

しかし海外と地理的に隔離されていることは、半面で自己完結型の技術開発に陥りやすいマイナスの面もある。携帯電話でもみられた「ガラパゴス現象」である。総務省はテレビ放送のデジタル化で空いた周波数を有効活用しようと、700メガ(メガは100万)ヘルツ帯をITS事業に割り当てた。一方、海外でITSに使われる周波数は5.8ギガ(ギガは10億)ヘルツ帯が一般的。日本だけが700メガ帯で技術開発をすればふたたびガラパゴスの温床となりかねない。ITS分野で海外市場を狙うためにも早くから700メガ帯の国際標準化を目指すべきである。

日本の国際競争力が高かった1980年代から90年代前半までは、日本の二大輸出産業といえば自動車と家電製品を指した。ところがデジタル携帯音楽プレーヤーのようにIT製品が家電に置き換わるようになると、日本の家電産業は一気に競争力を落としアップルやサムスン電子などの先行を許してしまった。

その意味では自動車技術に近いITSの分野は、まだまだ日本のすり合わせ技術やものづくりの経験が生かせる分野でもある。グーグルなど米IT企業の追い上げはもうすぐそこまで来ているだけに日本メーカーに多い自前主義や足の引っ張り合いでなく、互いに協力し合うことで世界市場をにらんだITS技術の国際標準化をもっと積極的に進めていくべきだろう。今回のITS世界会議は、まさにそうした日本の強みと弱みを知る格好の場だったともいえる。「2020年東京五輪」という新たな目標ができた今こそ、日本の自動車・電機メーカーはもっと互いに協力し合い、持てる力を余すことなく、国内外に示すべき時である。

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