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頼みの綱は動画配信 次世代ゲーム機の誤算

UIEvolution 中島 聡

 ゲーム機業界が大きな曲がり角を迎えている。スマートフォン(スマホ)の普及で携帯型ゲーム機の市場は激減。据え置き型ゲーム機も一部のゲーム好きの人しか興味を示さない「イノベーションのジレンマ」に陥っている。市場の縮小を受けてゲーム機メーカーが活路を見いだしたのは、動画配信など新分野への進出だ。家電や放送なども巻き込んで、グーグルやアマゾンとも争う新しい時代に突入した。

最近のゲーム産業に最も大きな影響を与えたのは、いうまでもなく米アップルのスマホ「iPhone」だ。iPhone登場の影響をもろに受けたのは任天堂である。

プレイステーション4の発売日と価格を発表するSCEの幹部=共同

iPhoneに市場を破壊された任天堂

任天堂は、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)と米マイクロソフトの高性能路線に背を向け、普段ゲームをしない層を取り込んでゲーム市場全体を広げる戦略をとっていた。「Wii」「ニンテンドーDS」というハードと、「Wiiフィット」「脳トレ」などユニークなソフトで、あまりゲームをしなかった層の取り込みに成功。操作が簡単で空いた時間に気軽に利用する「カジュアル・ゲーム」の世界を切り開いた。

だが、iPhoneアプリは、このカジュアル・ゲーム市場を一気に席巻し、任天堂の収益源だった携帯型ゲーム機市場に壊滅的なダメージを与えた。任天堂は「3DS」で対抗しようとしたが勢いは止められず、携帯型ゲーム機で遊ぶ子供の姿は街から消え、スーパーマリオはアングリーバードに変わっていった。

「普段ゲームをしない人向けの据え置きゲーム機」も存在感を失った。「Wii」後継機として発売した「Wii U」も惨たんたる結果に終わり、任天堂がゲーム機大手3社の中で最も不調に陥った。

スマホと余暇時間の奪い合い

SCEとマイクロソフトも、「消費者の時間の奪い合い」という大きな枠組みでiPhoneの影響を受け始めている。フェイスブックやツイッターといった交流サイト(SNS)なども争奪戦のライバルとなっており、このままではPSとXboxは「ごく一部のゲーマー向けの市場」に追い込まれてしまう。

そこでマイクロソフトが新しい「Xbox One」でとったのは、従来路線の「家庭向けエンターテインメント・センター」を押し進める戦略だ。ゲーム機としての性能を高めただけでなく、「ネットで配信する映像を楽しむ」インターネットTVとしての役割を重視した。人の動きをカメラでとらえる「Kinect」の性能を高めて、新しいユーザー体験や使い勝手を提供しようという姿勢が強く表れている。

一方SCEは戦略を大きく転換。「プレイステーション(PS)3」のように数千億円を投資し独自アーキテクチャーを開発するのではなく、PS4ではパソコンに近いアーキテクチャーに移行して開発費を格段に抑え事業リスクを減らした。これはカリスマ性を持つ経営者がいなくなったことに加え、市場の将来が見えない状態でPS4に社運をかけるのはリスクが高過ぎる、と経営判断したからだ。

 SCEがPS4の日米同時発売をあきらめたのは、マイクロソフトが強い北米市場でのクリスマス商戦を控え、まずはその一騎打ちに集中することにしたからだ。その後に改めて日本向けのタイトルをしっかりとそろえた上で、日本での発売を確実に成功させるというのが年明けにずらした理由だ。

アップルTVがゲーム機に

SCEの今回の発表の中で、ゲーム業界の将来を示しているのが「PSヴィータTV」だ。この製品は、「イノベーションのジレンマ」を突破し、アップルTVに対抗する新しい競争軸としてSCEが出したものだ。PSヴィータは、携帯ゲーム市場では任天堂3DSと同様iPhoneに対抗できずに失敗したが、その資産をPSヴィータTVとして再活用した。

アップルTVは、アップルが映像のネット配信ビジネスへ進出する上で重要な役割を果たしている。現在準備を進めているアップルTV向けアプリケーション配信サービスが始まれば、とたんにアップルTVが据え置きゲーム機になり、アップルがゲーム市場へ参入することを意味する。

中島 聡(なかじま・さとし) 1960年北海道生まれ。アスキー・ラボラトリーズの一員として「CANDY」をはじめとする数多くのプログラムの開発や移植に大学在学中から携わり、早稲田大学大学院理工学研究科修了後にNTT(研究部門)に就職。86年のマイクロソフト日本法人設立を機会に同社へ転職し、89年に米国本社へ移籍。Windows95、同98及びInternet Explorer3.0、同4.0の開発に携わる。2000年に退社し、ソフトウエア会社のUIEvolutionを設立した。現在はメルマガ「週刊 Life is beautiful」(出版はまぐまぐ)を執筆中。

そんなアップルに対するSCEの反撃がPSヴィータTVだ。PSヴィータTVでは、動画配信サービス「TSUTAYA TV」や「Hulu(フールー)」、動画サイト「niconico(ニコニコ)」などが視聴できるほか、PSヴィータ向けに出ている1300本以上のゲームも遊ぶことができる。さらに、最近では米バイアコム(Viacom)社から映像コンテンツのネット配信権を取得し、映像コンテンツの充実も図っている。

グーグルやアマゾンがライバル

動画配信の分野には、米グーグルも「クロームキャスト」と呼ぶ製品で7月に参入を表明した。コンテンツビジネスの巨人である米アマゾンも着実に準備を進めている。北米では、このようなインターネットを活用して放送革命を起こそうとする新しい勢力と、「各家庭まで引かれた同軸ケーブル」と称される分厚い参入障壁で守られていたケーブル業界との間での戦いの火ぶたがまさに切られようとしており、そこにゲーム機という枠を超えた話に発展してきている。

Xbox OneそのものをインターネットTVとして活用しようとするマイクロソフト、PS4とPSヴィータTVという2本立てで戦うSCE、そしてiPhoneをテコに据え置きゲーム機市場に侵食を試みるアップルという三つどもえの戦いに、さらにグーグルとアマゾンを加えた5社が、ゲーム業界、放送業界、そして家電業界をも巻き込んだ大きな戦いを繰り広げる時代になった。

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