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走行中の自動車へ無線給電 韓国、新技術で100KWの高出力

韓国で8月、走行中の電気自動車(EV)に無線を使って給電する実証実験が始まった。韓国南部の亀尾市にある一般道で進めており、実用化できれば車載蓄電池の容量を減らせる。実験を主導するのは韓国最高の頭脳が集まる理工系大学とされる韓国科学技術院(KAIST)。趙東浩(チョ・ドンホ)無線電力送電研究団団長は、車両や充電設備などを含めたシステム全体の導入コストは「有線充電に比べて3~4割安くできる」と話す。実験の意義や今後の展開について趙氏に話を聞いた。

道路下から無線で電気を車へ届ける

100キロワット時の蓄電池を搭載するバスで実験。実用化段階では容量を半分以下にできるという(韓国・亀尾市)

――実験の具体的な内容は。

「容量が100キロワット時の蓄電池を載せたバスを2台用意した。このバスを片道12キロメートルの道路で1日10往復走らせている。路線バスで使われることをイメージしている。7月から試験運転を始め、問題点がないかを確認した。そこで8月からは1日4往復分については一般市民にも乗ってもらうようにしている。残りの6往復分を研究開発に振り向けている」

――無線給電に着目したのはなぜか。

「電気自動車は環境負荷が少ないため高い期待を集めている。しかしながら走行距離を確保しようとすると車に載せる蓄電池が高価になり重くもある。充電に時間がかかることも本格的な普及を妨げている。そこで走行中に充電できるようにすれば電池を軽くできコストも抑えられ、課題のうちのかなりの部分を解決できる」

「KAISTは給電装置を道路に沿って線状に埋め込み、その上を走る車に無線で充電する『オンライン電気自動車システム(OLEV)』という仕組みを開発してきた。2010年に米タイム誌で世界の50大発明の一つとして選ばれるなど、海外でも高い評価を受けている」

――充電は具体的にはどのように行うのか。

「亀尾市では往復24キロのうち合計144メートルの区間に給電装置を5カ所埋め込んだ。バスがその区間を走行中にバスの底部に取り付けてある受電装置に自動的に送電する仕組みだ。送電を始めるためのバス接近の感知や充電量の管理にはIT(情報技術)を駆使している」

――給電区間は全体の0.6%しかない。車は高速に移動するが充電時間は足りるのか。

「100キロワットの電力を80%以上という高効率で供給できるので十分だ。停留所の近くや坂道など、走行速度が遅くなる場所を給電区間として選ぶなど工夫もした。バスが折り返す地点にも給電装置を埋め込んだ」

「そこでは運転手が10分ほど休憩するために停車したままになる。その際にも充電できるので、復路を出発する段階ではフル充電された状態だ。今回の実験に使うバスは1キロメートル走るのに1~1.6キロワット時の電力を必要としている」

2年で出力が1.7倍増に

実験を主導する韓国科学技術院の趙東浩(チョ・ドンホ)氏。1979年韓国科学技術院電気電子工学科卒。07年同院IT融合研究所長、09年オンライン電気自動車事業団長。04年科学技術省の次世代移動通信事業団長、10年放送通信委員会諮問委員など公職も務める。57歳

――日本で実用化済みの充電装置は有線でも数十キロワット程度にとどまる。どうやって100キロワットもの高出力を無線で実現したのか。

「『磁気共振形象化(Shaped Magnetic Field in Resonance)』という電気を送る技術を開発した。送電装置のコイルと受電装置のコイルの共鳴を使って送電する仕組みだ。似た既存技術もあるが全く異なる新しいアイデアだ。磁性材料であるフェライトをうまく使うことでコイルから出る電磁波を制御し、高い出力と送電効率を両立させた。この技術は韓国だけでなく米国などでも特許を出願中だ」

「磁気共振形象化を採用した実験は11年にソウル市の公園内を循環するバスで行っている。このときの送電能力は60キロワット。走行距離の16%に当たる372メートルに給電装置を埋めた。その後KAISTの敷地内でも6台の電気バスを走らせるなど実験を継続した結果、徐々に電力を引き上げることに成功。現在の100キロワットを達成することができた」

――送電電力を高めると漏電が増えてエネルギー効率が落ちる。加えて人体などにも影響を与えかねない。

「我々が開発した技術ならその点も問題がない。国際的な安全基準を満たしている。ペースメーカー使用者や実験車以外の一般車両などにも悪影響はない」

「無線給電では送電する距離が長くなると効率が落ちる問題がある。ただ今回の実験では地面から15センチメートル下に給電装置を埋設。地面からバスの受電装置までも15センチメートルとした。送電装置のコイルと受電装置のコイルの距離は30センチメートル以上あるが効率上は問題ない」

――実用化に向けて課題は。

「技術開発面では完成が近づいているがまだコストが高い。送受電装置などを標準化して、汎用部品で作れるようにすることが重要だ。自動車だけでなく鉄道向けでも実用化を目指していく」

――導入に必要なコストは現在いくらか。

「亀尾市での実験は48億ウォン(約4億円)かかっている。ただ実用段階のコストの水準は具体的には言いにくい段階だ。バスなら車両の数や運行間隔などによって走行中と停止中の給電をどうバランスをとるか考えなければならない。その結果によって給電装置を埋設する量が変わってくる」

「しかしながら、有線の充電方式に比べて優位なことだけは明らかである。車載蓄電池の容量を大幅に減らせるからだ。今回の実験では100キロワット時の容量の蓄電池を使ったが、実用段階ではその半分でも十分である」

――実用化に向けた体制を教えてほしい。

「食品メーカーながら新しい産業に高い関心を持っていたドンウォングループに技術を民間移転している。11年に資本金100億ウォン(約9億円)の事業会社ドンウォンOLEVを設立し、KAISTも30%を出資している。研究はKAISTが中心になって進め、実験に必要なインフラの発注などはドンウォンOLEVが担っている」

(ソウル=小倉健太郎)

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