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ソーシャルゲーム、バブル崩壊後の過酷な競争

ジャーナリスト 新 清士

ソーシャルゲーム市場が激変の時代を迎えている。市場の伸びは鈍化しており、顧客を奪い合う競争は激化している。顧客を呼び込むには、多額の開発費をかけてゲームを開発し、テレビCMなどに膨大な広告宣伝費をかける必要がある。伸び悩む市場と膨らみ続けるコストの中で、ゲーム各社は強気一辺倒から一転、慎重な経営のかじ取りを求められている。

グリーの4~6月期、上場来初の最終赤字

ディー・エヌ・エーやグリーは従来型携帯電話向けからスマートフォン向けにゲーム開発をシフト。結果として開発費や広告宣伝費の高騰に悩まされることになった

ソーシャルゲーム市場の苦境を象徴するのが、このほど発表されたグリーの決算だ。2013年4~6月期は上場以来初めて最終赤字になった。海外拠点の閉鎖や不振が続くゲームタイトルの資産価値の減損で多額の特別損失を計上したためだ。「ソーシャルゲームのビジネスは世界で通用する」(田中良和社長)と高らかに宣言して海外に打って出たものの、思ったような成果は上がらなかった。

国内でも、スマートフォン(スマホ)対応が遅れ、目立ったヒット作を生み出せなかった。本業のもうけを示す営業利益は四半期ベースで2012年1~3月期の245億円をピークに減り続け、77億円と3割程度の水準に落ち込んだ。ゲーム開発の要であるエンジニアも採用抑制と自然減(月間20~30人)で抑え込む方針だ。ソーシャルゲーム2強のもう1社、ディー・エヌ・エーの決算説明会でも、守安功社長が繰り返したのは、「(コストの)コントロール」という言葉だった。

調査会社の矢野経済研究所によると、2013年のソーシャルゲーム市場は前年比10%増の4256億円になる見通しだ。成長は続くものの、2倍以上に伸びた11年、37%増だった12年に比べると急減速した印象は否めない。すでに国内のソーシャルゲーム市場は、飽和状態になっているとみられていたが、はっきりとその姿が明らかになってきた格好だ。

開発費は昔1000万円、今1億円

そもそも雲行きが怪しくなってきた原因の一つは、ソーシャルゲーム市場の推進役を担ってきたスマホの急速な普及にある。昨年後半からスマホ所有者が爆発的に増え、ゲーム会社が重きを置いてきたフィーチャーフォンと呼ぶ従来型携帯電話機の地位は加速度的に下がった。スマホの世帯普及率は11年の約30%から12年には約50%に上昇。

日本オンラインゲーム協会(JOGA)が7月23日に発表したリポートなどによると、フィーチャーフォンのゲームユーザーは減少し、スマホでゲームをする人は増加している。

既存のソーシャルゲーム各社はこれまでのノウハウが通じず、十分にスマホユーザーをつかみきれていない。そうした中、LINE(東京・渋谷)やガンホー・オンライン・エンターテイメント(東京・千代田)など"新参者"がスマホに特化したソーシャルゲームを相次ぎ投入し勢力を伸ばす。グリーやディー・エヌ・エーは、ゲームチェンジしなければならない局面を迎えている。競争は激化の一途をたどっている。

ソーシャルゲーム市場が急速に立ち上がったのは2008年から09年にかけて。当時は1作品当たり1000万円程度の開発費をかければよく、基本的な部分を作り上げるのにかかる日数もわずか3週間程度だった。利用者ニーズを見極めたら、力業で開発して迅速にサービスに入る。さらに走りながらユーザー行動を分析してゲームに修正を加えどんどん魅力を増していく――。これこそが必勝パターンであり、増収増益の原動力となっていた。09年に登場したディー・エヌ・エーの「怪盗ロワイヤル」や11年に登場したグリーの「探検ドリランド」は、その代表格である。

スマホ普及がゲーム会社に突きつけたのは、ゲームの供給の仕方そのものがまったく違った形に変わってしまうことだった。従来型携帯電話向けではパソコン向けのウェブサイトと同様、ネット閲覧ソフト(ブラウザー)でアクセスしてもらいそこで遊んでもらうゲームを開発すればよかった。ところがスマホの上ではコンテンツはアプリ(応用ソフト)単位で扱う仕組み。根本から開発の仕方を変える必要に迫られた。

たとえば従来は利用者が遊ぶたびにゲーム会社側のサーバーにつないで必要な各種データをすべて読み込んでいた。データのサイズが小さかったからこそ可能だった手法だ。一方スマホ向けに作られるアプリ(ネイティブアプリと呼ばれる)のゲームは、大半の画像や音声などのデータをソフトに組み込みあらかじめ利用者に配布しなければならない。カードを入手するなどゲームの進捗状態などの情報だけをゲーム会社側へ送っている。

困ったことに米アップル「iPhone」と米グーグルのスマホOS「アンドロイド」搭載機ではアプリの形式が違う。一つのゲームで複数種類のアプリを作る羽目にもなった。画面が大型化し精細さも上がったため、従来型携帯電話向けゲームより豪華な画像、迫力のある音素材も組み込まなければならない。一度スマホでソーシャルゲームを遊んでしまうとその派手さから、もっと華やかでもっとおもしろいゲームを利用者は求め始めた。こうして見劣りする従来型携帯電話の大半のゲームが急激に人気を失いつつあるのだ。雪だるま式に開発費が高騰していったのはこうした事情がある。

従来型携帯電話向けに作っていた作品をスマホ向けに転用したgumi。その一つ「幻獣姫」は人気がぱっとしない

ある中小のゲーム会社の幹部は悩みをこう吐露する。「1作品あたりのゲームにかかるコストは今や5000万~1億円。開発期間は半年から9カ月近くかかるようになってしまった」。「プレイステーション・ポータブル」など携帯ゲーム機向けと大差ないという状況だ。

ソーシャルゲーム開発・運営のgumi(東京・新宿)のように、従来型携帯電話向けに作っていた作品をスマホ向けに転用するなど戦略を練り直す動きもある。ただ厳しい競争に直面している。同社は6月、カードバトルゲーム「幻獣姫」を音楽などで手を加えるなどしてネイティブアプリに変換してスマホ向けに投入。しかし売り上げランキングは200位前後と低迷しており好調とは言えない。

広告宣伝費も数千万円が当たり前に

もう一つの悩みの種である広告宣伝費は、中小ゲーム会社の新作ゲームでも、投入時に数千万円とつぎ込むことが当たり前になった。ソーシャルゲームの成功の鉄則は、投入と同時に売り上げランキングで上位に入る「垂直立ち上げ」と呼ばれる状態を作ること。最初に失敗すると、どんなに良いゲームでも口コミで広がらずその後上位にジャンプすることはかなり難しい。

ランキング上位に入ったとしても、ヒットを継続するためには「月に少なくとも1000万円をかけなければダメ」(前出のゲーム会社の幹部)。ゲームをダウンロードした利用者のうち、翌日に継続して遊ぶのは全体の半数以下という統計がある。人気を継続するためには、毎日毎日新しい利用者を取り込み続けなければならない。スマホのバナー広告などでソーシャルゲームをみる機会がやたら多いように感じるのは、泳ぎ続けなければ死んでしまうのが業界の宿命だからだ。

日本のiPhone向けゲームでランキング100位前後を獲得できた場合、1日の売り上げは100万円前後とされる。順位を維持できなければ、とてもではないが広告宣伝費をまかなうことは難しくなる。ソーシャルゲームの多くは最初は無料で遊べる「フリーミアムモデル」を採用することで間口広く利用者を呼び込み、遊んでもらう過程でアイテムなどを課金販売するビジネスモデル。利用者がどんな動向を示すかまったく予想が付かない側面が大きく、ゲーム会社をさらにコストのかかる広告宣伝に駆り立てている。

ソーシャルゲームの広告宣伝手法は主に3つある。一つはバナー広告、もう一つは強引な手法と言われる「課金ブースト」、そして3番目が費用対効果が大きい「クロスプロモーション」と呼ぶ手法だ。ほかにもテレビCMを投下する例があるが、最近は費用対効果が小さいとして手控えるゲーム会社が増えている。

バナー広告は利用者が普段見ているウェブサイトの履歴を収集し、ゲームに関心がある相手に対して作品の広告を枠内に掲示する。クリックするとアプリのダウンロードページに誘導するが、必ずしも表示したゲームが嗜好に合うとは限らずコストがかかる割に効果は不透明だ。

課金ブーストは、ゲーム会社が自ら課金販売しているアイテムを大量購入してしまうというもの。自作自演してまでランキング上位に食い込ませ作品を目立たせてしまおうというわけだ。投資額は最低でも数百万円はかかるといわれている。

ただ結局は一時的な注目を集めることしかできない。利用者がスマホ向けのソーシャルゲームを見る目は日に日に肥えており、課金ブーストのテクニックも見抜かれつつある。ダメなゲームはダメだとして口コミでたたかれることもあり、金でヒットを買えるほど甘くはなくなってきている。

LINE、パズドラ ヒットが次のヒット生む

2億人を超える巨大な利用者基盤を持つLINEは、内部で宣伝を活発にすることで関連ゲームの人気も高めることに成功している

苦しい中で、ゲーム会社にとって唯一希望の光となっているのが最後のクロスプロモーションだ。無料通話・チャットアプリ「LINE(ライン)」の関連ゲームのように、効率よく新しい利用者の獲得に結びつけている例が出てきているためである。

クロスプロモーションとは新作ゲームの広告を既に投入済みのゲーム内に入れる手法。ダウンロードしてくれれば期間限定でアイテムやカードなど特典がもらえるとアピールするのがミソである。普段気に入って遊んでいるゲームだからこそ、その関連ゲームに利用者は興味を示しやすい。必要最低限の投資で高い宣伝効果が得られると注目を集めているのはこのためである。

LINEの場合、新作ゲームを投入する際には公式情報の「お知らせ」などで告知している。2億人を超える巨大な利用者基盤を持っているだけに、クロスプロモーションの効果は計り知れないものがある。実際iPhone向けのランキングでは14日時点で、上位10タイトルのうちパズルゲーム「LINEポコパン」など6タイトルがLINE関連ゲームなどのアプリだ。

ここ数カ月ダントツの人気を誇る「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」もクロスマーケティングに力を注ぐ。開発元のガンホーは他社の宣伝場所としてパズドラを開放するという大胆な作戦に出た。6月にフィンランドのスーパーセルという会社が「クラッシュ・オブ・クラン」を日本展開する際に活用している。

「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」の人気にうまくあやかって国内ランキングを500位から4位に上げることに成功したフィンランドの「クラッシュ・オブ・クラン」

クラッシュ・オブ・クランは、アメリカ市場を中心に1年近く常に売り上げランキングで1位もしくは2位の大ヒット作品。同社は4月時点で1日当たり240万ドル(2億4千万円)もの巨額を売り上げているといわれている。

両社のクロスプロモーションでは日本のパズドラ内でクラッシュ・オブ・クランを広告し、逆に海外のクラッシュ・オブ・クランではパズドラを紹介。クラッシュ・オブ・クランは日本でのランキングは500位前後だったが、現在は4位。世界を代表するビッグタイトル同士の宣伝効果は驚くほど大きかったようだ。

ただこうした戦略は強い作品を持っているゲーム会社だけに許された特権。優勝劣敗がはっきりしてきたソーシャルゲームの世界では、資本力と既存作品での獲得利用者数が、ますます次のヒットを引き起こせるかの決め手になりつつある。調査会社ディスモによると、アメリカ市場で昨年10月から1月の間にランキング上位に入った250社のうち、新規参入のゲーム会社はiPhone向けはわずか0.25%。アンドロイド向けも1.2%にすぎない。

成功はどんどん狭き門となり、中小ゲーム会社が突然成功するチャンスは少なくなっている。勝ち組と負け組の差がさらに広がっていくことは避けられそうもない。今は勝ち組であったとしても安泰ではない。ユーザーの所有するゲームを遊ぶハードウェアの切り替え期には、勝ち組が負け組に急速に転落することがある。それが、スマートフォンに切り替わるタイミングで同じことが起きているのだ。

高性能なスマートフォンによって、家庭用ゲーム機とまったく遜色のない質の高いゲームが次々に現れている時代になってきている。その一方で、ソーシャルゲーム市場で容易に収益を上げられるバブルの時代は終わりつつある。各社の淘汰が進む厳しい時代に向かっている。

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