/

「半沢直樹」もダダ漏れ ネット無法大国、中国のいま

著作権侵害、模倣、文書流出――。世界最大にして最も不透明。それが中国のインターネット市場だ。利用者数は日本の6倍の約5億9000万人。巨大市場は確かに日本企業にとって魅力だ。しかし、つきまとうのは負のイメージばかり。中国相手にビジネスを手がける企業からすれば「ネット無法大国」とどう向き合えばいいのか。その実態に迫った。

大手企業の社内資料が見放題

中国ではさまざまなコンテンツが違法な形で野放しにされている。たとえば日本のテレビ番組がリアルタイムでネット上で視聴可能で、テレビ局は頭を悩ませている

「この資料は日本のある企業の技術資料です。閲覧後は24時間以内に削除して下さい」。中国のネット検索大手、百度の文書共有サイト「百度文庫」では、誰でも無料で7900万件を超える文書データを閲覧できる。このサイトで今月上旬、複数の日本企業の内部資料が流出したとして話題を集めた。

百度文庫に流れた資料の多くは日本企業の製品紹介資料。社内組織図や販売促進マニュアルなどが流出した企業も多い。トヨタ自動車やホンダ、ソニー、パナソニック、東芝といった日本を代表する大企業は例外なく流出の「被害」に遭っている。14日時点で検索ボックスで日本語の「社外秘」と入力したところ、日本企業から流出したとみられる合計1018件もの内部文書が閲覧可能だった。

一連の文書流出が始まったのは2年ほど前。もともとは論文や研究資料を閲覧できるサービスとして利用されていたが、公開文書の中身が徐々にエスカレートし始めた。

背景にあるのは、百度文庫特有のある仕掛けだ。サイト上では誰でも自由に文書を閲覧できるが、パソコンなどにダウンロードして取り込むには「ポイント」が必要になる。このポイントを得る手段が簡単に言えば「物々交換」になっている。

つまり多くの人の関心を集めそうな文書を提供し、できるだけ多くの人にダウンロードしてもらうようにする。すると閲覧されればされるほどポイントがたまり、今度は自分が欲しい文書を入手できるようになる。それが高じていくことで、最終的に「社外秘」「機密」とされる文書にまで手を出してしまう。

こうした利用者の意欲をくすぐる仕掛けで、百度文庫の共有文書は急増。研究目的のサイトから、たちまち企業の内部情報や個人情報まで流出する場へと変質してしまった。

もっとも現在のところ日本企業から流出した資料の大部分は「重要度が高くない」(自動車大手)。百度側も企業から削除を求められれば、即座に削除するなど対応を進める。

だが中国で百度の検索利用シェアは7割に達し、百度文庫の利用者も増加が続く。中国では知的財産権や機密情報に対する意識が乏しい人が大半なだけに「企業にとって致命傷になり得る重要情報が漏洩する恐れは常にある」(中国の弁護士)。企業側も対策が必要なのは確かだ。

中国ネット市場の「無法」ぶりは百度文庫にとどまらない。代表的なのが動画共有サイトだ。

「やられたらやり返す。倍返しだ」。無料でネット接続するとパソコン画面に流れるのは、TBS系で7月に始まった日本のテレビドラマ「半沢直樹」。もちろんTBSが許諾した正規のコンテンツではない。堺雅人さん演じる銀行員、半沢直樹が敵対する上司にたんかを切る場面も、高精細な画像で楽しめるから驚きだ。閲覧ソフト上で「全画面表示」を指定すれば中国にいながら、あたかも日本の家庭で居間にあるテレビを見るごとくドラマを存分に楽しめる。

「ガンダム」も最新話まで「一気見」OK

動画共有サイトでは「ガンダム」の最新シリーズも海賊版が投稿されており、最新話まで無料で一気に見ることができる

中国でいま人気の動画共有サイトが「風雲直播」だ。日本のテレビ番組をリアルタイムで流しており、閲覧可能なチャンネルはNHKやTBS、フジテレビなどの地上波に加え、BS各局、有料のWOWOWまで合計20局に及ぶ。CMも含めて流れるのはすべてが日本と同じ内容。半沢直樹も毎週日曜日の夜8時(日本時間午後9時)から、リアルタイムで視聴できる。もちろん無料だ。

中国人の若者の間で絶大な人気を誇るアニメ「機動戦士ガンダム」も、動画検索サイトの「百度視頻」を使えば最新シリーズ「ガンダムUC」が簡単に見られる。作品名で検索すると1869件がヒットし、放映したばかりの最新の第6話まで「一気見」できる状態になっていた。中には明らかに一般視聴者がDVDなどからコピーした違法動画もあった。

こうした状況を受けて7月上旬、テレビ局や映画会社、レコード会社などが加盟する一般社団法人のコンテンツ海外流通促進機構(CODA、東京・千代田)が海賊版対策の陳情のため北京を訪れた。「日本のコンテンツ(情報の内容)の正規流通について建設的な話し合いができた」。桐畑敏春代表理事(ポニーキャニオン社長)はこう強調する。

CODAの陳情団は中国の国家版権局や動画サイト大手の「優酷」などを訪問。海賊版対策の必要性を訴えた。実績は徐々に上がっており、例えば今年3月までの1年間で優酷に対して合計2万9560件の違法コンテンツ(情報の内容)があることを指摘。そのうち99.86%の削除に成功したという。

とはいえ、こうした対策は「違法コンテンツを見つけ次第、削除を要請する」(CODA)という守りの手。いたちごっこの状況が続くことには変わりがない。「風雲直播」のような新手の動画サイトも続々登場しており、対策は後手に回りがちだ。

ではどう中国市場と向き合えばいいのか。参考になるのが「米ハリウッドの映画産業が取っているアプローチ」(CODA幹部)だ。

テレビ局や映画会社、レコード会社などが加盟する一般社団法人の海外流通促進機構(CODA)は中国の国家版権局や動画サイト大手を訪問し、海賊版対策を申し入れている

「ホビット 思いがけない冒険」「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」「レ・ミゼラブル」……。優酷の特設サイトに並ぶ人気タイトルの一覧だ。日本でもレンタルDVD店で並び始めた最新タイトルばかりだが、これらは海賊版ではない。視聴者は大半を無料か5元(80円)前後という低価格で見ることができる。つまり正規版だ。

どのようにもうけているのか。答えは「広告シェア」と呼ばれる手法にある。映画が始まる前に数十秒間流れる動画広告や関連ページへジャンプするバナー広告を収益源としているのだ。ハリウッドの映画会社と優酷側が折半し、両社は違法コンテンツを一切流さない約束を結んでいる。視聴者が多ければ多いほど大きな広告収入が互いに入るのがうまみだ。

中国で「アメとムチ」を巧みに使い分けているのがハリウッドの映画産業だ。知財意識が薄い国でいかにコンテンツビジネスを成立させるか。CODAによればハリウッドはその点を古くから考え、実践してきたという。日本企業も「中国は無法地帯」と単に拒否反応を示すだけでは、この巨大な市場を取り逃がすことになる。

(北京=阿部哲也)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン