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第3次OS戦争に突入、スマホが促す究極の「直感操作」

UIEvolution 中島 聡

コンピューターのOS(基本ソフト)が第3次戦争ともいえる状況に突入した。きっかけはアップルが発表したiPhone(アイフォーン)とiPad(アイパッド)。スマートフォンやタブレット(多機能携帯端末)といった、タッチを前提とする新しいコンピューターの普及に合わせ、直感的かつ集中できる究極の操作性を目指し、各社がしのぎを削っている。

アップルはiPhone・iPad向けの新OS「iOS7」で、ユーザーインターフェース(UI)の大幅な変更を発表。「フラットなデザイン」と表現するように、画面上のアイコンについて影のような3次元の立体的な表示やグラデーションなどを極力なくし、シンプルにした。実は、これはマイクロソフトも昨年発売した「ウィンドウズ8」でスタートボタンを廃止したのと同じ狙いだ。いずれも新時代のUIに合わせて、ユーザーに魅力ある形に最適化させたものである。

GUIの次の時代を巡る争いに

iOS7の新しい「フラットなデザイン」のユーザーインターフェース

アップルが1984年に発売したマッキントッシュで採用し有名になったグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)。このGUIは、マイクロソフトの「ウィンドウズ95」で一つの完成形を迎え、世界中の人々が幅広く使うようになった。

GUIの登場で、コンピューターのUIは、それまでの文字ベースから新しい第2次OSの時代に突入したと言える。私たちが日々当たり前のように使っている、アイコン、メニュー、ツールバー、ボタン、スクロールバーといった、各種の「UIツール」は、GUIの普及に併せてコンピューターの世界に広まった。

だが、2007年に登場したiPhone、さらに続くiPadが引き起こしたスマートフォンとタブレットの大ブームにより、UIの流れは再び大きく変わった。キーボードとマウスをもつパソコンから、タッチスクリーンを前提としたモバイルデバイスへと、時代の重心が移るにしたがい、UIの世界に一つの変化が訪れている。

「イマーシブ(没入型)」がキーワードに

この変化は、専門家の間で「イマーシブ(immersive)」と呼ぶユーザー体験の実現を指向したものだ。これこそがアップルをはじめとする各社が「フラットなデザイン」を目指す理由である。

「イマーシブ」を直訳すると「没入型の」となる。本当に面白い映画を見ていると、知らないうちに映画の提供する世界観に夢中になってしまい、自分が実際には映画館の椅子に座っていることすら忘れてしまう経験をした人もいるだろう。まさに、それこそが「イマーシブな体験」である。

 コンピューターにおいて「イマーシブな体験」を実現するには、ユーザーがアクセスしようとしているコンテンツそのものを可能な限り大きく表示することが必要になる。例えば、写真アプリであれば写真、パズルゲームであればパズル、電子書籍リーダーであれば書籍を、全画面で表示する。

逆に、メニューやツールバーといった「UIツール」は、必要なとき以外はできるだけ目立たないようにする。そうすることで、ユーザーがコンピューターを使っているのではなく、コンテンツそのものに直接アクセスしているという体験(もしくは錯覚)を作り出そうとする。

小画面とタッチ操作に最適化

スマートフォンやタブレットといったモバイルデバイスにおいて「イマーシブな体験」が重要な理由は2つある。

1つ目は、画面の大きさだ。パソコンは十分な大きさの画面を持ち、複数のアプリケーションを切り替えながら同時に利用するのが当たり前なので、明示的なUIツールを常に表示している方が便利で都合がよい。だが、画面の小さいスマートフォンやタブレットでは、基本的にアプリケーションは一度に一つしか利用しない。コンテンツをできるだけ大きく見やすく表示するためにも、UIツールを表示する領域を可能な限り小さくしたい。

中島 聡(なかじま・さとし) 1960年北海道生まれ。アスキー・ラボラトリーズの一員として「CANDY」をはじめとする数多くのプログラムの開発や移植に大学在学中から携わり、早稲田大学大学院理工学研究科修了後にNTT(研究部門)に就職。86年のマイクロソフト日本法人設立を機会に同社へ転職し、89年に米国本社へ移籍。Windows95、同98及びInternet Explorer3.0、同4.0の開発に携わる。2000年に退社し、ソフトウエア会社のUIEvolutionを設立した。現在はメルマガ「週刊 Life is beautiful」(出版はまぐまぐ)を執筆中。

2つ目は、タッチパネルが実現する「ダイレクト・マニピュレーション(直接的な操作)」である。写真や地図を拡大・縮小するために、パソコンでは専用のボタンやメニューが必要だった。だが、タッチパネルを持つデバイスならば、2本の指で画面を触って、指の間隔を広げたり狭めたりする「ピンチイン」「ピンチアウト」といった直接的かつ直感的な操作で拡大や縮小を指示可能だ。画面のスクロールやページめくりも、特別なUIツールなしに指を使った操作のみで、簡単に指示できる。

つまり、画面が小さいのであまりUIツールに場所を取られたくないというニーズと、タッチパネルだからこそ直接的な操作が可能になったという技術革新の2つが重なったことで、それまで一般的ではなかった「イマーシブな体験」が重要かつ現実的なものとなってきたのだ。

ウィンドウズ8も新体験を指向

この「イマーシブな体験」を目指した代表的なものが、マイクロソフトの「ウィンドウズ8」である。ウィンドウズ8でスタートボタンがなくなったことが話題となったが、これこそまさにイマーシブな体験を狙ったものだ。

ウィンドウズ95で最も重要だった「UIツール」は、画面下部に表示したスタートボタンとタスクバーである。タスクバー上に実行中のアプリケーションを表示し、アプリケーションを簡単に切り替えられるようになっている。また、スタートボタンをクリックすると常にスタートメニューを表示し、そこからはパソコンにインストールした全てのアプリケーションを簡単に起動できる。

 この「常に表示されているスタートボタンとタスクバー」は、ウィンドウズ95から「ウィンドウズ7」まで、十数年間に渡ってウィンドウズというOSの重要な要素として、人々が慣れ親しんだものだ。

ウィンドウズ8ではスタートボタンやタスクバーがなくなって全画面でアプリケーションを表示する

だがマイクロソフトは、スマートフォンとタブレットの台頭に合わせて、ウィンドウズを最適化する必要性を強く感じた。そこで、ウィンドウズ8ではスタートボタン(とタスクバー)を外すことにした。アプリケーションが「イマーシブな体験」を提供しようとしたときに、常に画面下部に表示されたスタートボタンとタスクバーは邪魔だったのだ。

しかし、「どのアプリケーションを走らせていても、常に画面の下部にはスタートボタンがある」という環境に慣れ親しんだユーザーにとっては、この変更が混乱を招いてしまった。これが企業によるウィンドウズ8の導入を遅らせる理由の一つになっている。

そんなユーザーの声を聞き入れて、マイクロソフトはスタートメニューに近いものに簡単にアクセスする仕組みを、次の「ウィンドウズ8.1」で導入すると発表している。だが、決して「イマーシブな体験」の提供はあきらめたわけではない。スタートメニューはユーザーが特別な操作をした時にのみ表示されるように設計されているはずだ。

マイクロソフトとアップルの争い再び

一方、「イマーシブな体験」への大きな流れを作りだしたアップルも、新しいiOS7で大規模なユーザーインターフェースの変更をした。これもウィンドウズ8と同様に、「イマーシブな体験」をより強調するためのものだ。

アイコンやボタンはフラットなデザインになり、ツールバーも半透明でモノトーンなものに変わった。また、大切なものが表示されている時には、不必要なものを灰色にすることにより、ユーザーの注意を促すような仕組みが導入されている。アイコンやUIツールが必要以上に目立たないようにしたのである。

このiOS7の変更に対しても、ウィンドウズ8ほどではないが、一部のユーザーから不満の声が聞こえてくる。だが、「イマーシブな体験」を重視するアップルにとっては、これは必要不可欠な変更だ。

1980年代から1990年代にかけてのGUI競争では、アップルが仕掛け、それをマイクロソフトが追いかけるという流れになった。今回の第3次OS戦争での「イマーシブな体験」の提供においても、マイクロソフトとアップルが同様の構図で再び重要な役割を果たして競い合っているのだ。

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