アップルiPadを国内で値上げ 円安の影響じわりITにも
円安が進む為替相場の影響がIT(情報技術)や家電の輸入製品に及び始めた。米アップルは31日、タブレット(多機能携帯端末)「iPad(アイパッド)」の国内価格を最大1万6000円値上げした。アクションカメラで人気の「GoPro(ゴープロ)」を開発したウッドマン・ラボも、6月1日からビデオカメラを最大4200円国内で値上げする。

円・ドル相場は昨年末から約2割変動しており、各社の最大値上げ幅はほぼ同じ水準。パソコンやオーディオ機器、掃除機など海外ブランドが人気を博すジャンルも多く、値上げの動きはさらに市場全体に広がる可能性がある。
突然約2割の値上げ
「いきなりこんなに上がるとは」。31日早朝、アップルが直営するオンラインショップのウェブサイトを開いたある30代男性は驚いた。アップル日本法人は、予告なしにiPadなどの価格を改定した。「夏のボーナスで仕事用にiPadを買う予定だった。昨晩のうちに買っておけば……」と後悔しきりの様子だ。
例えば小型の「iPad mini」は、Wi-Fi(無線LAN)モデルの容量16ギガバイトのタイプが2万8800円から3万2800円に上がった。9.7型の「Retina(レティーナ=網膜)」と呼ぶ高精細液晶を搭載したタイプは軒並み1万円以上値上がりしている。同日アップルは携帯音楽プレーヤー「iPod(アイポッド)」シリーズの価格も改定。2万4800円だった大型液晶の「iPod touch」の32ギガバイトの値札は、31日からは2万9800円に書き替わった。
価格改定の意図についてアップル日本法人は「円・ドル相場だけでなく全世界の為替相場の変動を常に注視し、適切なタイミングで改定するのが米アップルの基本方針」と説明する。アップルはこれまでにも各国の価格を世界一斉に改定したことがある。今回もその一環というわけだ。パソコン「Mac(マック)」などほかの製品は今回の値上げ対象から外れているが、同社の方針に沿うなら現在の為替相場の状況が続く限り順次改定される可能性は否定できない。
幅広い製品やサービスに値上げの動き
家電量販店は、若者を中心に高まっているアクションカメラの人気に冷水を浴びせないかと気をもんでいる。アクションカメラは、自転車のヘルメットやスキー板、サーフボードなどに取り付けるために開発された小型のビデオカメラで、付属の防水ケースや取り付け部品を使って迫力ある映像が撮影できるのが特徴だ。火付け役のGoProは店頭で多くの顧客が指名買いするだけに、まずは駆け込み需要を取り込もうと必死だ。
ヨドバシカメラの新宿西口本店(東京・新宿)では、GoProの値上げの予定を告知するとともに「買うならいま」とポスターで貼り出している。入門機の「GoPro HERO3ホワイトエディション」の場合、2万1000円だったのが6月1日から2万5200円に改定される。上級機も2100円から3150円値上げする。
円安は今後、ネットサービスや国内メーカーの製品の価格・料金にも影響を及ぼす可能性もある。最も影響が懸念されるのはコンテンツ配信サービス「アップストア」だ。現在スマートフォン(スマホ)用アプリ(応用ソフト)の最低価格は米国の0.99ドルに対し、日本では85円。実は2011年7月までアップルは国内最低価格を115円に設定していたが、円高が進む為替相場を反映し85円に改定した経緯がある。再び115円などに値上げされることは十分考えられる。

アップストアではアプリ開発者は手数料を差し引いた売り上げの7割を収入として得られる仕組み。もし値上げされればアプリ開発者にとっては売り上げ増につながるが、必ずしも開発者は歓迎しているわけではない。教育向けアプリを手がける個人開発者は「値上げによって売れる本数が減るのでは。ただでさえ最近有料アプリが無料アプリに押されているというのに……」と懸念する。総務省調べでは、国内のiPhone利用者がダウンロードした有料アプリの本数は平均5.4本と、無料アプリの平均18本に比べると少ない。値上げで有料アプリを敬遠する風潮が出てくれば収入面で苦しくなるアプリ開発者が増えるだろう。
NECパーソナルコンピュータは16日から売り出したパソコンの夏モデルで、従来の同等製品から店頭の想定価格を約5%引き上げた。パソコンメーカーは海外の工場やEMS(電子機器の受託製造サービス)に生産委託する場合が少なくなく、加えてコストの大半を占めるハードディスク駆動装置(HDD)など中核部品の大半を海外メーカーに頼っている。経営努力で為替変動分を吸収できる水準を超えてしまったために、価格・料金に反映せざるを得なくなったという。
影響はデータセンターにも
じわりと影響を被るのは通信会社やデータセンター事業者だろう。激烈な料金競争を勝ち抜くため各社はコストをぎりぎりまで切り詰めて運用しており、右肩上がりでデータ量が増え続ける国内のネット需要をまかなうべく日々設備増強に追われている。その基盤の多くで海外メーカーの通信機器に頼る。関連機器で値上げの動きが出てくれば手を打つ必要が出てくるだろう。
もちろん通信会社やデータセンター事業者が値上げすれば、それを使うクラウドを活用したネットサービスや電子商取引(EC)会社の経営も直撃する。EC会社自身もサーバー機器などをいかに安く調達し続けるかの課題と向き合わなければならなくなる。値上げの連鎖反応は、ネット業界の勢力図を書き換えるうねりを呼び覚ますかもしれない。
(電子報道部 高田学也)